「指導物語」 評価★★★ 老機関士と兵士の師弟関係
1941 東宝 監督:熊谷久虎 陸軍省・鉄道省検閲 後援:鉄道省・陸軍報道部
出演:丸山定夫、原節子、藤田進ほか
約107分 モノクロ
タイトルはぱっとしないが、意外になかなか面白い映画である。若き原節子が脇役で登場し、主役の丸山、藤田の掛け合いは笑いあり、喧嘩あり、涙ありの
ヒューマンドラマとなっている。、映画は陸軍省後援で、すでに勃発している日中戦争への招集など戦時下の緊迫感はあるものの、製作年代が1941年と第二
次大戦開戦前夜であるため、まだほのぼのとした雰囲気も残している。この後の映画では急速に失われていくストーリー性や人情・喜怒哀楽が残されており、戦
前映画の中では出来の良い方だと言えよう。
「指導」とは機関車の機関士が、陸軍兵士に機関車操縦技能を指導することから来ており、中国大陸前線の機関車で活躍させるべく、軍人機関士の急造が行わ
れている事がわかる。
指導役の老機関士(丸山)の演技はうまいのかへたのなのか、実に独特。ヘラヘラ笑いにフンという意地っぱりぶりが妙に気になる。今で言えば人情味厚い意
地悪じいさんと言った感じか。また、兵士(藤田)も堅い演技でぎこちない。これがまたこの映画のコミカルさとシリアルさを引き立てている。原節子はすでに
大女優の風格さえ感じる演技。先の2名との奇妙な掛け合いが面白い。
映画中では本物の蒸気機関車「C58」が登場し、その操車風景が頻繁に写される。缶焚き、操車、その訓練など鉄道マニアには興味深いのではないだろう
か。さらに、見物なのは「C58 218」「C58
217」の2台が併走し、抜きつ抜かれつのチェイスを繰り広げるシーン。複線並列の線路を併走するのも珍しいが、撮影の技術もたいしたものだ。また、雪降
る中を疾走する遠景のシーンはどうやら特撮のようだ。カット数は多くないがなかなか秀逸な特撮と見た。なお、撮影は千葉県周辺で撮影されたようで、「ち
ば」駅のシーンが登場するほか、銚子の地名が出てくる。
このほか、驚いたのはこの時代において、すでに秒単位のスケジュール管理がなされていること。運行技術による順番競争も行われており、先般JR脱線事故
の原因の一つともされた、過度なスケジュール管理の初源はすでにここにあることがわかる。
ラストシーンは出征シーンとなるが、ごく自然のシチュエーションながら涙が出る。時代のリアリティを感じるが故、余計なのだろう。見送る側の悲しみも良
く表現されており、数年後には到底作る事が出来なかっただろうシーンである。
興奮度★★
沈痛度★★★
爽快度★★★★
感涙度★★★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
蒸気機関車の老機関士瀬木(丸山)は定年まであと3年となった。しかし、最近では陸軍兵士に機関
士訓練を施す「指導役」が与えられず、不満を感じてい
る。区長に直談判したところ、最近妻を亡くし、3人の娘を抱える身を案じての配慮であったが、息子がいない瀬木にとって唯一のご奉公だとの強い要望で、つ
いに「指導役」が回ってくる。
童心に帰ったようにワクワクと期待を膨らませる瀬木は、やってきた新兵の中から自分の指導する佐川新太郎二等兵(藤田)を見つける。佐川は母子家庭育ち
の真面目な青年であった。瀬木は佐川をかわいがり、なけなしの金を叩いて機関教本を買ってあげるなど、時に厳しく、時にやさしく指導していく。さらには、
娘の婿になどという夢想まで始める。
一方、機関士田町のもとには大学出の二等兵草野がつく。下士官などは大学出の草野につらく当たるが、田町は優しく接する。
短期育成のため、機関士訓練のほか学科学習などで佐川も草野も眠る暇のないほどハードなスケジュールをこなしていく。しかし、疲労と眠気、さらには瀬木
らの過度な期待によるプレッシャーに次第に負け始める。草野は疲労のあまり汽車から転落するなどもあり、運行技術の競争でも下位に沈み、佐川、草野は落ち
込んでいく。それを瀬木はなぐさめるのだった。
訓練も進み、技術も大分上達した頃、佐川に帰隊命令が出る。いよいよ出征かと気をもむ瀬木だったが、面会も許されず、何の音沙汰もなく数ヶ月が過ぎてい
く。
突然、佐川が瀬木のもとにやってくる。出征が決まったというのだ。瀬木の家で祝宴をあげ、佐川は出征していく。佐川を乗せた機関車を娘達、瀬木らが涙な
がらに見送るのだった。
(2005/10/06)
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