「海軍病院船」 評価★★ 病院船氷川丸の姿
1943 日本映画社 監修:海軍省
出演:記録映画
53分 モノクロ
戦記映画復刻版シリーズ第6弾の戦争記録映画。海軍省検閲済第77号。海軍が徴用した病院船氷川丸の航行をメインとした記録である。もちろん、戦時映画
なのでプロパガンダとして製作されており、その主題は戦時国際法に乗っ取った病院船を鬼畜米英が攻撃していることを非難する大衆向け奮起的内容となってい
る。病院船という戦時の中における平和の象徴であるため、全体に荒々しさはなく、戦記物としては盛り上がりに欠けるが病院船がどのように活動していたかを
知る貴重な映像であることは間違いない。また、陸軍ぶえのすあいれす号など数多くの病院船が連合軍に撃沈された中、生き残った氷川丸の生命力の強さ?のよ
うなものを垣間見ることもできる。
映画の冒頭にいきなり「戦時国際法第四条」のテロップが流れる。「病院船ニ関シテハ明治四五年条約第十号「ジュネヴァ」条約ノ原則ヲ海戦ニ応用スル条約
ノ規定ニ依ルモノトス」とし、日本海軍がジュネーブ条約に基づいて戦時国際法を遵守していることを強調する。
映画は氷川丸が南国の島(秘密)から傷病兵らを積載して日本本土へ帰還する任務を写している。乗船しているのは担架で運ばれる日本の傷病兵のほか、連合
軍捕虜一三名の姿も見える。連合軍捕虜について「捕虜になってもなお生き延びようとする醜さ」と切り捨てられており、いささか可哀想な気もする。
病院船と
して改装された氷川丸の診察設備についても解説されており、歯科器具、レントゲン、太陽灯(脚気対策?)などが見える。何故か、この時点で既に戦死してい
る山本五十六元帥が病院船を慰問視察をしている映像も挿入されている。
病院船は夜間においても煙突等に設置された赤色の十字灯を点灯し、病院船であることを表示しているが、それでも米軍の潜水艦や爆撃機の盲爆に狙われるた
め避難訓練を行っているとし、「戦時国際法を無視するのは誰だ!」「赤十字目指して襲ひ来るのは誰だ!」と激しく米英を非難する。
氷川丸が南方の島に寄港し、現地住民の医療診察をしているシーンも出てくる。日本軍がいかに南方の現地人に寄与しているかを誇示するためであろう。
病院船の中では傷病兵が余興に興じたり、家族への手紙を書いているが、一人の中年兵が子供向けに、傷病兵として病院船に乗船しているが、傷が癒えたので
途中で下船して再度部隊に戻ります。本土に戻って出かける約束ができなくなってごめんなさい。でも、部隊に戻れてお父さんは大変喜んでいます。という旨の
手紙を書いており、手紙とは裏腹であろう兵士の胸中を察すると目頭が熱くなる。この兵士はどうなったのであろうか。また、ナレーションでは「各兵とも早く
傷を治して前線に復帰することを切に願っています」てなことを言っているが、傷病兵の顔はそうは言っていない。彼らの心中は複雑なものであったろう。さら
に、途中で傷が癒えた2等飛行兵曹ら五人の兵士が「恩賜の包帯拝受」して下船するシーンも出てくるが、なんとも詭弁なシーンでもある。
氷川丸は途中で「駆逐艦」からの電文で傷病兵と遺骨の乗船を求められる。前線からの傷病兵は痛々しいが、氷川丸に接舷する艦船はどうみても水雷艇か掃海
艇クラスである。単装砲が3門程度に魚雷発射管らしきものが見えるので水雷艇であろうか。氷川丸の3分の1くらいしかない。
最後は傷病兵山田水兵長の様態が急変するシーンに。いかにもやらせっぽいのだが、衛生兵らの輸血、山田水兵長の手術シーンが「制作」されている。
全体に、病院船の活動紹介と、戦気昂揚なので緊迫感は感じにくい。また、撮影に時間的余裕があることや、弱々しい傷病兵を写すわけにはいかなかったのだ
ろう、多分にやらせ演技的なシーンがある。
ちなみに氷川丸は戦後も客船として就航し、退役後は横浜の山下公園に係留され公開されている。客船時の基準排水量11622t、全長156m、速力
18.2ノット。
(2004/09/21)
興奮度★★
沈痛度★★★
爽快度★
感涙度★★★
戦記映画 復刻版シリーズ(6)海軍病院船
病院船関連図書
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