戦争映画の一方的評論
 
「決戦の大空へ 評価★★☆ 若鷲の歌、予科練飛行練習生
1943 東宝 監督:渡辺邦男 海軍省検閲済 後援:海軍省 情報局国民映画  
出演:
高田稔、原節子、小高まさるほか 
89分 モノクロ

 土浦海軍航空隊の予科練飛行練習生の訓練風景と、倶楽部(班単位での民間ホームステイ)先の家族との交流を描いた、ヒューマンタッチの予科練飛行兵募集 案内的映画。目的があきらかに予科練志願者を増やすための啓蒙的位置づけなので、大変予科練が美しく描かれている。確かに格好良く描かれているので、この 映画を見た少年達は心惹かれるものがあったであろう。ただ、どこまで予科練の実態に沿っているのかは不明である。少なくとも、倶楽部と呼ばれる家庭の存在 や、予科練の志願から卒業までの過程は良くわかる内容となっている。
 ストーリー的には、予科練出身飛行兵の敵艦突入や、予科練卒業時の倶楽部家族との別れなど感動的エピソードがいくつか含まれてはいるが、構成としては稚 拙な作り。倶楽部となっている家庭の体の弱い一人息子が、触発されて予科練に志願入隊していくエピソードは、本当にそんなにひ弱で大丈夫なのかと思ってし まう。また、16歳で志願となっているが、どうみても今の12,3歳にしか見えない。栄養事情の悪い当時の子供達が良くわかる。海軍用語も紹介されてお り、女性をおばさんという事、外出を上陸、床を甲板という事などである。
 登場する兵器類では、海軍航空技術廠九〇式初歩練習機(水上機)が何度も登場する。実際に土浦で予科練用に使用されていたもので、尾翼に「ツチ601」 という機番が見える。また、胴体に窓のついた輸送機バージョン?の九六式陸上攻撃機らしきものも出てくる。この他、記録映像として零戦、九六式陸攻、九五 式水上偵察機が少しだけ映し出される。敵側としてはバッファロー戦闘機のようなミニチュア模型が九六式陸攻の模型と交戦する特撮が出てくるが、かなり稚拙 な作りである。
 この他、訓練風景で操縦桿と踏み棒で機体の制動を操作する電動?のシミュレーター機器がが登場するのが珍しい。
 主題歌は「決戦の大空」と劇中で練習生が作詞したこととなっている「若鷲の歌(作詞:西条八十)」。こうして映画主題歌としてヒットしていく軍歌は多 い。

興奮度★★
沈痛度★★★
爽快度★★★
感涙度★★★

(以下あらすじ ネタバレ注意)
 
 土浦海軍航空隊にある予科練で少年飛行兵達が訓練に励む。班長、分隊士、分隊長の指導のもと、機場検定では操縦桿、踏み棒を操作する電動のシミュレー ターで訓練する。それが終わると実機の水上機に同乗しての訓練となる。
 一方、近所にある県立土浦中学校で松村克郎(カッチャン)は木馬(跳び箱)が飛べずにいた。その克郎の家は予科練練習生の立ち寄る「倶楽部」と呼ばれる 休暇家庭になっており、週末になると練習生達が遊びに来るのだ。
 威勢のいい練習生達に、克郎は励まされるが、体の弱い克郎は自信が持てない。そんな克郎を姉の杉枝は心配する。
 練習生達は上等飛行兵から飛行兵長に昇任し、訓練も高等になっていく。そんな時、予科練の先輩である関根たつお氏が武勲を上げ、その取材に新聞記者が やってくる。関根は印度洋で魚雷を抱いたまま敵艦に体当たり攻撃をしたのだった。予科練練習生たちも神妙にその話を聞くのだった。また、克郎も予科練の見 学に行き、次第に予科練を受験する気になってくるのだった。そんな克郎を練習生達は歓迎し、励ますのだった。
 倶楽部から前線の兵士に慰問袋を送る事となる。その中に、練習生の一人が作った予科練の詩を入れたところ、前線で活躍する先輩、中澤けんじ大尉から作曲 され「若鷲の歌」として、返事が返ってくる。中澤大尉は予科練分隊長と同期の操縦士だ。
 ついに克郎は予科練を受験し、合格する。母親も姉も妹も大いに喜ぶ。一方、練習生達は入れ替わるように卒業の時を迎える。倶楽部で最後の時を過ごし、昭 和18年8月15日、次なる訓練基地へ移動していくのだった。
 
(2005/09/26)

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