戦争映画の一方的評論
 
「陸軍航空戦記 〜ビルマ篇〜 評価★★★★ 大空に舞う陸軍航空隊の勇姿 
1943 日本映画社 後援:陸軍航空本部 撮影:陸軍報道班員
出演:記録映画  
91分 モノクロ

 戦記映画復刻版シリーズ(8)。昭和17年初期のミャンマー戦線における陸軍航空隊の活躍を記録した貴重な映画。実機が多数登場するのみならず、命がけ の従軍カメラマンによる機上撮影フィルムなどが盛りだくさん。迫力のある映像とともに、自ら前線に参加しているかのような手に汗握る緊迫感が伝わってく る。ストーリー仕立てではない完全なる記録映画であるが、画面に登場するシーンには目を奪われるばかりだ。同じ戦記映画復刻版シリーズの中でも佳作。な お、映画の挿入歌は「撃ちてしやまむ」。

 昭和17年1月。対米開戦間もない時期に、南方戦線において日本陸軍は盟友タイ国に進軍する。英国と中国重慶政府軍はミャンマーのラングーン、ヴィクト リアポイント、マグイ、ダヴォイに拠点を張っており、援蒋ルートを阻止したい日本軍にとっては極めて邪魔な存在であった。そこで、英軍の拠点であるラン グーン等の敵戦力を撃滅するため、陸軍航空隊がタイに進駐する。
 映像は飛行場(多分バンコク)に来飛する陸軍機の勇姿から始まる。重爆(三菱九七式重爆撃機)、軽爆(川崎九九式双発軽爆撃機)、偵察機(九七式司令部 偵察機)、戦闘機 (一式(隼)戦闘機)の姿が見える。
 手始めに、敵基地の状況を探るため偵察機が出動する。尾翼マーキングは「タコハチ」なので飛行第8戦隊の所属であることがわかる。偵察機は単機で出動 し、交戦は避けて写真を撮影してくるのが重要な任務である。偵察機に同乗したカメラマンの撮影は機内音ともに迫力がある。撮影してきたフィルムはすぐさま 写真班員によって現像され貼り合わされる。手でちぎって貼り合わせる作業は実に手早い。また、別の場面では基地の通信隊が傍受する偵察機からの交信が生々 しい。「貨物車の列を発見」「敵戦闘機三機現る」「交戦中、交戦中・・・・・・ツー」。やられたか!即座に「稲妻」マーキングの第一一戦隊と思われる隼隊 が救援に向かう。間もなく、110発の敵弾 を受けながらも無事帰還する偵察機。弾痕跡が生々しい。
 昭和17年1月26日、ついに第一次ラングーン総攻撃が開始される。手回し発動で重爆のペラを回す整備員。編隊をなして飛ぶ重爆と軽爆を偵察機上のカメ ラマンが追う。ラングーン上空で爆弾投下。敵高射砲の黒い弾幕も見える。一次総攻撃は全機帰還を果たした。
 夜間攻撃も実施された。無線で敵戦闘機撃墜の交信がある。飛行場の着陸誘導用のかがり火が妖しい。
 地上部隊は1/31日モールメンの陥落に成功。飛行隊はモールメンに進出。続いて2/3には第二次ラングーン総攻撃でラングーン周辺の飛行場爆撃を敢行 する。重爆隊には第十二戦隊のマーキングが見える。後日の映像で、敵軍施設のみを破壊し、寺院は無傷である点を映して、いかに日本軍のピンポイント爆撃が 正確かをアピール。
 別日、ラングーン川を遡る海軍輸送船団の援護のため隼中隊6機が飛び立つ。尾翼マーキングは「矢印」のようなので加藤隼戦闘隊で知られる飛行第64戦隊 と思われる。
 戦線が敵陣と接するにつれ、飛行場は敵航空機の爆撃も受ける。英国ブレンハイム爆撃機が来襲し、高射砲と対空機銃を撃つ基地守備隊。うち一機が黒煙をあ げて墜落するシーンは実に壮絶だ。
 第三次ラングーン総攻撃では「タコハチ」マークの第8戦隊所属の軽爆が出撃する。中には迷彩塗装の軽爆も見える。
 3/8 ついにラングーン占領。北部の重慶政府軍、西の英軍と対峙する。ラングーンでの飛行場建設のため、自発的に英人経営ゴム林を切り開く労役に参加 するミャンマー人やインド人の姿がある。西欧植民地からの解放を喜んでいるようにみえる。ラングーンに進撃する地上軍には九五式軽戦車に乗る兵士が見え る。
 北部進撃の地上部隊の支援は九九式襲撃機が受け持つ。尾翼マーキングはZ字状で、飛行第二七戦隊の襲撃機と思われる。敵前線基地を発見するやいなや急降 下で機銃掃射。日本版スツーカである。機内からの映像は実にリアル。いつも機銃掃射されるシーンばかりの日本だが、このシーンこそは胸が空く。しかし、1 機の襲撃機が不時着してしまう。救援部隊は搭乗員を救出し、機密書類と重要部品を回収後、機に火を放つ。実に現実的な対応だ。
 5/1地上軍はラシオ・マンダレーを占領し、ついにミャンマー全土を占領する。英軍はインドに、蒋介石軍は雲南に逃げ込んだ。しかし、日本陸軍の払った 代償も少なくない。隼戦闘隊の加藤中佐(少将)も戦死したのだった。

 登場する航空機は実に多彩だ。先に述べたように、九七式重爆、九九式双発軽爆、九七式司偵、一式戦、九九式襲など。タイ進駐直後は、映像中のマーキング で、軽爆と司偵は第八戦隊であることがわかっている。このことから、昭和17年1月の配置で第八戦隊がいるバンコクを見ると、バンコクには第五飛行集団- 第四飛行団司令部があり、第八戦隊のほか第三十一戦隊(軽爆)、第十四戦隊(重爆)、第六十二戦隊(重爆)、第五十戦隊(戦闘機)が所属している。重爆隊 は機密保持のためなのか、執拗に尾翼マーキングを撮影しないので所属が不明だが、多分第十四戦隊か第六十二戦隊だと思われ る。戦闘機隊も明確なマーキングは不明である。ラングーン進軍後 になると第三飛行集団が加わり、第7飛行団の第六四戦隊(隼)や第十二戦隊(重爆)、第三飛行団の第二七戦隊(襲撃機)、第十二飛行団の第十一戦隊(隼) が登場する。このほか、双軽爆の尾翼マーキングに第三飛行団の第九〇戦隊らしいものも見える。
     
左から九七式重爆、九九式双発軽爆、九九式司偵、一式戦、九九式襲、九五式軽戦車(*アイコン&お絵描き工房さん作

 この映像に修められているのは、戦果輝く戦争初期のもの。この後わずか半年後には、兵站補給線の伸びた日本軍は物量に勝る連合軍に押し返され、多分、こ の映画に登場したパイロット達のほとんどが空に散華したものと想像される。そういう意味で、陸軍パイロットの勇壮さと活躍に心躍ると共に、結果を知ってい る我々現代人にとってはとても胸の詰まる映画でもある。

(2004/09/30)

興奮度★★★★
沈痛度★★★
爽快度★★★★
感涙度★★

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