「北極星」 評価★★ ドイツ軍の侵攻に抗する
ソビエトの村人たち
THE NORTH STAR
1943
アメリカ 監督:ルイス・マイルストン
出演者:アン・バクスター、ダナ・アンドリュース、ウォルター・ヒューストンほか
106分 モノクロ
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1941年、ソヴィエトに電撃侵攻してきたドイツ軍に抗戦するソビエト市民の姿をアメリカが描いた異色作。ヒーローチックな配役と西部劇調のアクション
はいかにもアメリカぽいが、報国的で自虐的な人物描写や叙情
的でスローなストーリー展開はソビエト映画風と言えなくもない。もちろん、ソヴィエト映画特有の過激な赤軍賛美やスターリン賛美はないが、なんとなくアメ
リカ映画にしてはゴマす
りとしか思えない描写も多い。
実は、原作、脚本がリリアン・ヘルマンという左翼映画人で、多分に共産主義的志向が入っているようなのだ。さらに、監督は「西部戦線異常なし」のルイ
ス・マイルストンで、彼自身はソヴィエト生まれで兵役逃れのためにアメリカに帰化した人物で、ソヴィエト芸術映画の影響を強く受けているのだ。この当時、
アメリカでは極端な共産主義排斥もなく、むしろ連合国としてソヴィエトと手を組むかどうかという時期だけに、非常に微妙なポジションの映画となっているよ
うだ。そ
れでも、公開当時はアメリカの各賞にノミネートされたということだから、当時のアメリカ人にはある程度受け入れられたということだろう。
序盤は後半のドイツ軍侵攻という局面への伏線という意味で、静かで平和なソヴィエト農村を強調しており、本作はミュージカル映画かと思うほど、暢気な歌
の場面が続
く。いい加減早回ししたくなるほど間延びした感じだ(笑)。ドイツ軍侵攻後の後半は一転して、パルチザン化した若者や村に残った村人の身を挺した抵抗が描
かれ、戦争映画としてそ
れなりに成り立っている。ただ、仕方のないところではあろうが、役者の多くがいかにもアメリカ人でソビエト人らしくないのが残念。唯一子供(弟)役だけが
ロシア人的な雰
囲気と顔立ちを呈している。
本作の主題は、ソビエト国民の奮闘への共感というメッセージ性にあると思われ、真面目な戦史やパルチザン活動の戦略的な部分につ
いてはほとんど表現されていない。そのためヒューマンドラマ性が高く、登場人物の心情描写に力点が置かれている。平和を乱したドイツ軍憎しという感情を高
めることで、個々の個性と人格を浮き彫りにしていくのだ。
だがどうにも腑に落ちないのは、村に駐屯したドイツ軍指揮官(軍医大佐)が、多少の残虐行為はあるものの、ユダヤ人への偏見がなく温情的という好人物に
描かれているにも関わらず、ロシア人に無情にも射殺されてしまうシーン。時代が時代だけに微妙な表現なのだが、平和ボケした現代から見
るとややショッキングかも。
こうした微妙な価値観のズレがある表現箇所も多く、このあたりは制作者が共産主義シンパであること、アメリカとソビエトの関係、そしてドイツ軍の残虐行
為
がさほど知られていない時期であること、など多様な条件を想定しながら見ると面白いだろう。
登場する兵器類はほとんどなく、キューベルワーゲン風ジープと軍用トラック程度。航空機ではドイツ軍のスツーカ急降下爆撃機のミニチュア特撮が登場する
が、極めて稚拙。ソビエト軍の爆撃機も登場するが何者かわからない。
映画としてはさほど面白い部類ではない。ストーリーもレアな内容ではあるのだが、全体のバランスや盛り上がりという点では今一歩。しかし、ルイス・マイ
ルストンらしい人物描写と叙情的なテンポを堪能するには良い作品である。それとともに、この時代アメリカではソヴィエトをどのように評価していたのか、と
いうことを考えるとなかなか興味深い
作品であることは間違いない。
興奮度★★
沈痛度★★★★
爽快度★★
感涙度★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
1941年6月20日、ドイツはポーランドに侵攻した。しかし、ソビエトの田舎の農村ノーススター村は平和でのどかだった。高校生ダミアン・シモノフは主
席の成績で卒業し、来期からはキエフ大学に進学する。ダミアンはキエフへの卒業旅行を計画し、恋人のマリナ・パブロワ(女)、その友人のクラウディア・
カーリーン(女)、その弟グリシャ、そしてダミアンの兄で空軍兵のユーリャ・シモノフが同行することとなった。5人は野宿しながら徒歩でキエフに向かい、
途中で追い越していく老人カープさんの馬車に便乗した。
そこに、ドイツ軍の爆撃機が飛来し、カープ
さんと5人を除いて皆死亡してしまう。ドイツ軍の攻撃が始まったのだ。一方、ノーススター村ではドイツ軍の侵
攻に備えて、若い男達はパルチザンとして郊外の丘に集結し、残った老人や女子供は村の焼き払いを決意する。村の議長であったマリナの父ボリスは、赤軍の第
12師団第4連隊ペトロフ将軍と連絡し、銃を貰い受けに行く。しかし、その帰路でドイツ軍急降下爆撃機の攻撃を受けて死亡してしまう。そこに出くわした5
人とカープはボリスの意志を受け、銃をパルチザンに届ける決意をする。
ノーススター村にはドイツ軍の医療部隊が病
院を設置するために駐屯した。指揮官のフォン・ハーデン軍医大佐はライプチヒ大学で学び、ユダヤ人でも気にし
ない豪快な性格である。一方、副官のリヒター軍医大尉は経験も浅く、任務に忠実なタイプであった。ドイツ軍は負傷兵の輸血用として村のロシア人の子供達か
ら血漿を採取する。その結果、弱って死亡する子供もあらわれ、クラウディアの父である医師のカーリーンが阻止に立ちあがる。しかし、逆に捕らえられてしま
うが、ハーデン大佐の温情で釈放される。
カープと5人は馬車で銃を運ぶが、道路の横
断ができずにいた。そこで、ダミアンは囮となってその間に馬車が通過する作戦をとる。クラウディアも決死の決
意でダミアンの補佐に赴くが、ドイツ兵の反撃で死亡してしまう。ダミアンも手榴弾によって失明してしまう。
カーリーン医師の報告をうけたパルチザン
は、対抗する武器もなかったが、村のドイツ軍攻撃を決断する。密かに潜入してガソリンを爆発させたのを契機にパ
ルチザンがなだれ込む。そこにようやくダミアン、マリナが到着し銃を渡すのだった。カーリーン医師はハーデン軍医のもとに赴き、リヒター大尉を射殺したの
ち、ハーデン大佐も射殺する。まだ、ドイツ軍への反抗ははじまったばかりだ。
(2006/03/03 2009/3/25修正)
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