戦争映画の一方的評論
 
「轟沈 印度洋潜水艦作戦記録 評価★★★ 敵輸送船団撃沈シーンだ 
1944 日本映画社 監修:海軍報道部 演出・撮影:海軍報道班員
出演:記録映画  
62分 モノクロ

 戦記映画シリーズ(9)。海軍省検閲済第三十三号。国内の一般民衆向けの国策映画で、海軍潜水艦の活躍を撮影した貴重な映像だ。戦争末期の昭和十九年公 開であり、潜水艦隊の戦局も極めて厳しい中での命がけの撮影によるものだ。従って、かなり映像の切り貼りや加工がなされているようで、全体の構成も無理矢 理こじつけたかのようだ。撮影は軍人である報道班員が行っているが、それでも緊迫した前線でのことでもあり、スクープ的な映像はほとんどない。記録映画と しての映像は今ひとつだが、少なくとも潜水艦の生映像は他にないのでそれなりの評価をせねばなるまい。

 映画はある潜水艦が基地を出発し、(単独?)印度洋通商破壊作戦に従事して帰還するまでを描いている。その後に出てくる映像等から昭和18年の夏期の出 撃であることがわかり、となると、ペナンを寄港基地としてこの時期に通商破壊活動していた部隊では、第8潜水戦隊(旗艦イ10)の第14潜水隊(イ27, 29、37)が該当する。映像に写る基地はペナンであろう。
 基地において魚雷と食料を積み込んだ潜水艦が出撃する。数ヶ月にわたり米英補給艦を撃沈するのが使命だ。帽を振って出撃する潜水艦のネームは写されない が、前方砲のついた形状から巡潜丙型か海大5型と思われる。しかしこの時期の印度洋通商破壊戦には巡潜丙型は参加しておら ず、当時ペナン付近にいた該当艦は海大5型の第30戦隊(イ165、イ166)ということになる。このどちらかの艦を撮影したものと思われる。
 出航後甲板上で煙草を吸っていた水兵は「艦内休息法甲法」を命じられ、艦内に入る。甲法は当直以外は艦橋に出てはいけないというもの。つまり、これ以降 水兵は煙草を吸うこともままならないのだ。食事も最初の数日だけは野菜や新鮮な魚が出る。しかし、あとの数ヶ月は缶詰と、甲板に打ち上げられたトビウオを 調理するのみの味気ない生活となる。
 ところで、甲板で煙草を吸っているシーンでは、何と潜水艦後方甲板に砲が写っている。いつの間にか潜水艦が変わっているのだ。この型は巡潜甲型か乙型と 思われ、印度洋通商破 壊に出撃した第8潜水戦隊では巡潜甲型のイ10、巡潜乙型のイ27,29,37が該当する。これらのいずれかの行動を撮影したものと思われる。
 印度洋の敵哨戒圏内に入るまでは、緊張感は感じられないものの、様々な訓練等が行われる。艦橋当直員は敵機発見とともにすばやく艦内に飛び入り、ハッチ を閉める訓練。逆に監視当直には目を洗ってから上がっていくのが面白い。砲術員は砲撃の訓練を行う(ただし、この砲撃訓練シーンは前方甲板に砲があるので 先の海大5型でのやらせ撮影と思われる)。軍医は水兵の健 康診断を施している。
 敵船団をみつけられぬまま数週間が経過する。と、その時いきなり魚雷発射シーンに転換する。「1号発射!」時計を計る。「ゴーン」撃沈だ。敵船が写るが 漁船のように小さい。一人の船員が捕虜として救われる。解説ではほとんどがノルウェー人、アフリカ人船員の英国資本の船と言っている。
 いよいよ敵機哨戒圏内に入ると、数日間の潜水行動となり夜間しか浮上できなくなる。再び敵船団を発見。またもやいきなり、発射シーンとなる。命中!敵油 槽船を撃沈だ。浮上して砲撃をさらに加える。夜間に燃え上がる敵船の姿が浮かび上がる。捕虜が救助される。戦果木札が加えられた。9/14油槽船撃沈 6400t。
 実は、イ10潜水艦の戦果を見 ると、7/22ノルウェー貨物船アルシデス(7634t)。9/14ノルウェータ ンカープラモラ号(6361t)。9/24アメリカ貨物船エリアス・ ハウ号(7176t)。10/1ノルウェー貨物船ストルヴィクセン(4836t)。10/5ノルウェータンカー 、アンナ・クヌドセン(9057t)。10/24イギ リスA・ウェア社貨物船コンゲラ(4533t)を撃沈している。映像の戦果木札とイ10の戦果が全く一致する。つまり、この映画はイ10の行動を追ってい たということわかる。なお、先の撃沈シーンだが、日付は逆転するが、船の規模や船籍から見て、10/24のコンゲラっぽい気がする。
 しかし、潜水艦は攻撃するばかりではない。敵護衛艦に追跡される。ソナー員が敵船の状況を伝える。「左90!」「爆雷!」。映像が暗転する。文字テロッ プで「電球切 れ。補気室浸水のため後方に傾斜。重量品を前部に移す。敵艦は撃沈と誤認して去る」と出る。多分、その時の映像が撮れなかったのか、もしくはそういうシー ンがなかったのでやらせで制作したのだろう。ただし、浮上したシーンで後方甲板の一部に穴が開いていたので、実際には爆雷攻撃にあった可能性が高い。
 いよいよ帰還となり、水兵達は赤飯の缶詰を食べ、バリカンで髭を剃る。数ヶ月ぶりに水兵が甲板で煙草を吸うシーンではやはり後部砲が写っている。

 敵船発見から魚雷攻撃等のシーンはほとんど映像がない。大抵は文字や音声で解説し、映像は発射管での発射シーンのみである。あとは、撃沈した敵船の映像 が入るのみ。いくら海軍報道班員と言えども、緊迫した戦闘中は撮影などしていられなかったのだろう。はっきり言って肝心のシーンが抜け落ちているのは残 念。まあ、カメラなんか意識していて撃沈されたら洒落になりませんからね。従って、映像的にはやらせ撮影も含めて、既存映像を都合良く切り貼りした感じと なっている。バリバリ潜水艦シーンをと期待すると、はぐらかされるでしょう。少ないシーンから色々なことを想像して見るのがいいかもしれません。

 この映画で特に強調されているのは「魚雷を作った挺身隊の皆さん」というフレーズ。潜水艦水兵が狭く暑い艦内で頑張っているのだから、国民も耐えるべし というニュアンスはあるが、それ以上に魚雷を作っている挺身隊の女学生達に対して、「あなた方の作った魚雷はこうして活躍しているのです」というご褒美映 像という気がする。これを見て、挺身隊の人たちはもっと頑張って魚雷を作ろう!と思ったのでしょうか。

潜水艦の戦史を調べるのに近代世 界艦船辞典さんkeyのミリタリーペー ジさんを参考にさせていただきました。どちらも大変素晴らしいページです。
 
(2004/10/05)

興奮度★★
沈痛度★★
爽快度★★★
感涙度★

戦記映画 復刻版シリーズ(9)轟沈戦記映画 復刻版シリーズ(9)轟沈