戦争映画の一方的評論
 
「一番美しく 評価★☆ 非常増産強調運動に挑む女子挺身隊員
1944 東宝 監督:黒澤明 情報局選定国民映画 
出演:志村喬、矢口陽子、入江たか子
ほか 
85分 モノクロ

 あの黒澤明監督の監督第2作目。黒澤監督が国民映画を製作するとどうなるのかという興味津々なわけなのだが、内容的には駄作のレベル。ドラマなのかノン フィクションなのか中途半端な感じで、やはり国民映画で は能力を発揮できないということか。ただ、映画が情念描写が中心となっている点は、なんとなく黒澤監督らしいと言えばそうにもとれるが、女子工員のおどろ おどろしい情念は国策映画として成功だったのかどうかも疑わしい。
 年代的にも敗色濃い中、精神力での兵器増産を謳ったもので、相当な悲壮感が漂っている。無茶苦茶なスローガンと偽善的な発言と行動は、いくらなんでも当 時の観客にだって受け入れがたい物があったのではないだろうか。自虐的な諦め観を植え付ける効果だけはありそうだが。というわけで、映画的には何一つ面白 いことはなく、当時の国民総動員の姿を垣間見る事が出来る記録としての価値があるくらいだろう。地方から上京した女子隊員たちがふるさとの土を一握りづつ 持ち寄って来ることや、寮の部屋に両親の写真や「お母さん」と書いた文字を掲げて挨拶するシーンなどは今の日本には見られない風景である。まあ、それでも 女子挺身隊の本当の姿を描いているとも言い切れ ず、様々な要因を差し引いて見る必要もありそうだ。
 本作で興味深いのは、主人公の女子挺身隊の青年隊長役である矢口陽子が本作出演後に黒澤監督と結婚したという点だ。作品中では強情で意地っ張りなやや暗 い印象が強いのだが、いわゆる大和撫子の典型例ということなのだろうか。
 当然のことながら戦闘シーンも兵器も出てこない。唯一工場が光学機器工場なので、ツノ型双眼鏡(砲隊鏡、カニメガネ)が出てくる。この照準を調整する目 盛修整室が青年隊長の仕事場なのだ。この他、レンズ中に戦闘機を追う映像も出てくるので、戦闘機の照準機も制作しているのかも知れない。

興奮度★
沈痛度★★★
爽快度★
感涙度★★

(以下あらすじ ネタバレ注意)
 
  平塚にある東亜光学の工場では勤労奉仕活動として、全国から集まってきた女子挺身隊員が光学機器の製造にあたっていた。工場では非常増産強調運動が4ヶ月 間にわたって始められる事となり、男子には10割、女子には5割の増産目標が掲げられた。
 この話を聞いて女子隊員たちは不満を募らせ、ひそひそ話に終始する。工場の課長は見るに見かねて青年隊長の渡辺つるに話を聞く。なんのことはない、増産 が不満なのではなく、男子の半分であるのが不満だというのだ。そこで男子の2/3まで増産目標をアップするのであった。
 女子挺進隊員らは寮生活を送っている。寮長の水島のもと夜は鼓笛隊の練習をしている。曲は国民進軍歌である。女子隊員達は熱心に仕事に励み、みるみる増 産グラフが上昇を始める。そんな様子に工場の課長らは、「好成績だが5,000mを100mで走っているようなものだ」と心配する。
 その心配通り、鈴村が熱を出し、父親が迎えに来て帰郷して休養を図る事になると、一気にバランスが崩れ始める。加えて電休日?に山崎さんが屋根から落下 して怪我をし、レンズ磨きのラインは総崩れとなる。課長は渡辺つるに、イライラせずに気分転換をしたらいいと進言し、バレーボールを始めさせる。再び精気 を取り戻した彼女たちは徐々に増産が戻り始める。
 ところが、今度は渡辺つるの母親が衰弱したとの連絡がある。しかし、責任感に萌える渡辺は父親の進言もあり、それを隠して仕事に打ち込む。また、病弱で 熱を出している山口シズ子に頼まれて、熱のことを隠して職場につかせてやる。
 日本の戦局は、タワラ、マキン、クェゼリン、ルオットと悪化の一途を進む。次第に疲れの色の見えてきた女子挺身隊は再び成績が急降下を始めるのだった。 さらに、イライラの増した岡部と服部が口論を始める。寮長の水島が隊員の士気を高めるために病気の癒えた鈴村を呼び戻しに地方へ出かけている間に、女子隊 員達の不満は絶好調に達する。皆の不満を押さえようとする渡辺であったが、逆に岡部に山口に依怙贔屓をしていることを指摘される。皆の冷たい視線に、つい に山口が熱の事を暴露。岡部も服部も反省して、ふるさとの土のもと涙にくれるのであった。
 加えてドタバタに気を取られた渡辺が、照準を合わせていないレンズを納めてしまった。渡辺は数千個の中から徹夜でそのレンズを探すのだった。それを課長 らが共に残って見守る。
 こうした一件があり再び女子隊員達の増産グラフが伸び始める。そして、渡辺の母親が死去。家に帰れと言う課長らに、渡辺は私よりも山口さんを休ませてあ げてくれと言う。それを聞いた水島は、強いばかりでなく、やさしい良い子になりましたと褒めるのだった。
 
(2005/09/13)

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