戦争映画の一方的評論
 
「歓呼の町 評価★☆ 空襲のため疎開を決意する人々
 1944 松竹 監督:木下恵介
出演:上原謙、東野英次郎ほか
約73分 モノクロ


 厳密に言えば戦争映画ではないと思うが、戦時下の日本人の姿を描いたという事で仲間に入れてあげた。監督は木下恵介、主演上原謙、東野英次郎という、今 で言えば蒼々たるメンツだが、当時としてはまだまだ若手だ。
 映画はとある東京の町で、ひどくなる空襲のために疎開勧告に従って田舎へ引っ越しを決意する複数の家族の物語だ。恋愛問題あり、家族問題あり、夫婦問題 あり、と盛りだくさんの内容ではあるが、問題の解決は実に淡泊で、最後も明るくさようならと別れていく。さすが戦時下の映画であると感じるが、木下監督が この映画で示したかった事は何なのだろうか。ストレートに疎開を奨励する意図だったのか、都会にいようが田舎にいようが日本人として頑張るんだということ なのか。題名の歓呼の町というのも今ひとつ意味がわからない。何が歓呼なのだろうか。
 撮影は、ほとんど全てが狭い街角に限定されたセットで行われており、かなりの閉塞感を感じる。1944年当時としては撮影の限界だったのだろう。
 主人公は航空機メーカーのテストパイロットという設定だが、期待した航空機の映像は、映画の最後に登場する点のような機影以外は全く出てこなかった。任 務としては最新鋭機の空輸ということらしい。
 全体として、特に面白いわけでも感動するわけでもないが、日本の風俗を知る上で貴重な映像と言えよう。若き、上原謙、東野英次郎に注目だ。

興奮度★
沈痛度★★

爽快度★★
感涙度★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 東京のとある町。度重なる空襲被害から避難するため、疎開勧告が出されている。町内の地主、銭湯屋、印刷屋、箏曲指導の各家々でも田舎への疎開を検討し ていた。地主の主人は田舎での農業もいいかと思っていたが、娘が会社勤めのため置いてはいけないと婦人が猛反対している。銭湯屋では、釜石にいる娘夫婦が 一緒に住もうと提案するが、頑固な親父がうんと言わない。印刷屋は父の代から二代続いた印刷屋だが、この際廃業して疎開を考えている。航空機メーカーのテ ストパイロットをしている古川慎吾は箏曲指導の母親と二人住まいで、航空機メーカーのある(霞ヶ浦?)への疎開を勧めるが、10年前に家でした夫の帰りを 待つため、引越できないでいる。
 慎吾は地主の娘たか子へ結婚を申し込んでいたが、たか子の母親が慎吾の父親が家出したこと、テストパイロットが危険な仕事である事を理由に許さなかっ た。悶々とするたか子に対し、慎吾は戦争の最中に私事を押し通すわけにもいかない、として許してくれるまで待とうと話す。
 そんな時、慎吾の父親が10年ぶりに戻ってくる。しかし、慎吾に合わす顔がないと渋っているうちに、慎吾は新鋭戦闘機空輸の業務に赴いた。途中で敵戦闘 機と出会うかも知れない危険な業務だ。印刷屋の妻がお産を始めたころ、電話が入る。慎吾が殉職したというのだ。呆然と立ちつくす母親に慎吾の父親も泣きは らす。
 慎吾の父親は慎吾の働いていた航空機メーカーで働く事とする。また、印刷屋も航空機メーカーの勤務となった。皆で慎吾の無念を晴らしてやるのだ。銭湯屋 も店をたたんで釜石に行く事とした。「皆連絡だけは取り合いましょうね」。そう言って各家族は別れていくのであった。
 
 (2005/06/08)

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