戦争映画の一方的評論
 
「雷撃隊出動 評価★★★ 海軍雷撃隊の悲壮な出撃
1944 東宝 演出:山本嘉次郎 製作:村治夫 後援:海軍省 
出演:大河内伝次郎 藤田進 河野秋武 月田一郎 灰田勝彦
ほか
95分 モノクロ


  第二次大戦末期において、日本海軍雷撃部隊の悲壮な出撃を描いた作品。製作は昭和19年11月とあり、まさにマリアナ海戦、レイテ沖海戦と日本海軍が壊滅 状態に陥っている時期でもある。もちろん、国民にはその事実が伏せられてはいるが、後援・監修が海軍省であり、情報局国民映画と名付けられているにも関わ らず、敗北が眼前に至っているかのような悲壮感が漂っているのが驚きだ。それまでの国策映画のような明るさはほとんどなく、もはや1億総玉砕を国民に促し ているかのようだ。しかも、劇中捕虜にした米兵の言葉からもアメリカの物量や質の高さを肯定するような表現があり、それまでの鬼畜米英的憎悪が見あたらな いのも不思議だ。むしろ、死を前にした死に際の美の境地といったところか。
 ストーリーは三上、川上、村上という海軍雷撃隊「3人の上」の少佐を中心に描かれており、艦載雷撃隊、基地雷撃隊の決死の雷撃戦を描いている。地名は出て こないがラバウルあたりがイメージになっているようだ。とにかく、航空機が欠乏している状況が強調され、なけなしの航空機で体当たり的攻撃を仕掛けていく のだが、ラストに航空機生産に携わる国民への感謝のシーンが挿入されているあたり、国内航空機産業増産を促すプロパガンダも意図されているようだ。
 映像は円谷特撮と実写によって構成されている。円谷特撮は主に艦船シーンと空戦シーンだが、ちょっと予算が足りなかったのか物足りない。実写では、九七 式飛行艇、零戦、九七式艦上攻撃機、天山艦上攻撃機、一式陸上攻撃機が見える。特に、九七式飛行艇の着水シーンと、天山艦攻の空母瑞鶴からの発艦シーンは 見物だ。空母瑞鶴は、1944/10/25にレイテ沖海戦で沈没してしまうことから、映画上映時にはすでに沈没しておりいささかもの悲しい。登場する艦攻や 零戦の尾翼マークは「312」「653」の数字が見られ、「312」は昭和19年春まで空母瑞鶴の艦載機に用いられている。「653空」は艦載攻撃隊の第3航空戦隊でマリアナ海戦、レイテ沖海戦にも瑞鶴搭載で出撃してい るが、出撃時以外は内地にいたと思われることから、この撮影はマリアナ海戦前頃からレイテ沖海戦までの間に内地で撮影されたと想定できる。なお、特撮で登場する米軍機はライトニング、B-25ミッチェルのようだ。

興奮度★★★
沈痛度★★★★★
爽快度★★
感涙度★★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

  日本海軍は先の海戦でアメリカ艦隊を空母5隻以下を撃沈するも、日本側も空母2隻戦艦1隻を失ったと発表する(もちろん史実ではない)。失われた航空機の 補充もままならず、ひとまず村上少佐率いる空母雷撃隊は地上基地での待機命令が出る。村上少佐とともに航空参謀の川上少佐も同乗し、基地へ到着すると、そ こには同期の地上雷撃隊指揮官の三上少佐がいた。血気盛んで真面目な村上に対し、三上はあっけらかんとした楽天家である。
 川上航空参謀は東京へいったん戻り、航空機の補充を要請に行く。その間、村上部隊は夜間攻撃に転じる。しかし、米軍は間近にまで迫っており、基地にも米軍機の空襲がやってくる。数少ない零戦も応戦に出るが、数に劣り、地上機もやられていく。
 川上航空参謀が戻るが、東京ではどこの部隊も苦しいと言うことで補充の約束は得られなかった。怒り心頭の村上は「日本人の姿は雷撃精神にある。雷撃とは 体当たりだ」と息巻くのだった。その代わりに川上は慰問映画を持ち帰った。九州だよりという映画の中で、阿久根大尉は母親の姿を見つける。その夜来襲した 空襲で、阿久根大尉は魚雷の誘爆を避けるため大やけどを負ってしまう。さらに、次の空襲ではアメリカ戦闘機も来襲し、阿久根ら患者、子供達にまで銃撃を加 え殺すのだった。その時、撃墜され捕虜になった米兵は「物量・質ともにアメリカが負けるわけがない」と豪語するのだった。
 ようやく、補充の航空機が届く。敵の空襲にも応撃し、81機を撃退する。しかし、この戦闘機隊も前線の状況悪化のため、前線基地へ移動してしまう。戦闘機隊のいなくなった基地は敵機の空襲に為す術がない。
 ついに、潜水艦が敵空母12隻を含む機動艦隊を発見。艦載雷撃隊、基地雷撃隊に出動命令が出る。艦載雷撃隊の村上は一足先に空母に戻るが、その際川上に 煙草を託し決死の決意を固める。天山艦攻に搭乗した村上は、敵空母に決死の雷撃を加えるが、被弾し機上で戦死する。三上少佐もまた一式陸攻に搭乗し出撃す る。空母に雷撃するも被弾し、三上少佐操縦で敵艦へ突入するのだった。
 基地では司令(大佐)と川上少佐が沈痛な面持ちでたたずむ。「補充機が間に合って戦果を上げることができたのは、内地の皆さんのおかげである」。内地に向かって頭を下げるのであった。

(2005/07/31)

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