戦争映画の一方的評論
 
「ミッドウェイ囮作戦 評価★★★★ 実機・実写の多いアメリカ空母戦記
WING AND A PRAYER
 1944 アメリカ 監督:ヘンリー・ハサウェイ
出演:ドン・アメチー、ダナ・アンドリュース、チャールズ・ビッグフォードほか
98分 モノクロ

 題名、製作年代からして期待感はほとんどなかったのだが、予想外に戦記物として面白い映画であった。1942年6月のミッドウェー海戦で アメリカ海軍が戦略的勝利を収めるまでの過程を、アメリカ海軍の空母が囮として日本軍を騙すというシチュエーションとして描いている。この辺りは、アメリ カの戦意高揚映画としての背景もあるので、どこまで史実であるのかは疑問がある(作品冒頭でも、機密保持のため云々のテロップが出る)が、その分を差し引 いても、十分歴史的、資料的価値のある作品である。というのは、日本映画と違って、自国を無理に有利に見せようと言うコンセプトではなく、米軍の弱さをも さらけ出している点、実写フィルムや本物の空母・航空機を用いての撮影なのだ。もちろん、ストーリーとしてのトピック性、完結性も良く、物語としても十分 楽しめる。
 俳優陣もスター級ではないにしろ、渋いところを揃えている。登場人物も空母の指揮官と雷撃隊パイロットを中心とした、比較的少ない人数となっているの で、わかりやすいのがいい。
 映像は、先に挙げたように実写映像のほか、記録フィルムを多少用い、それに俳優の映像を合成させて用いている。良く観察すると、映像の継ぎ接ぎ合成がバ レてしまうが、ストーリーに違和感のない程度にうまく誤魔化している。また、無理な合成画像も多くはなく、適度なのが好印象。
 さて、映画中に登場する航空機だが、主役機のグラマンTBFアベンジャー、F6Fヘルキャットの映像が多い。空母上の駐機、エンジン始動、発艦、飛行、 着艦、雷撃と実に多彩なシーンを見ることが出来る。機体マーキングなどは番号以外ほとんど記入されていないので、どの部隊かわかりかねるが、唯一アベン ジャーに「5-T-11」というマーキングが見え、空母ヨークタウン(CV-5)搭載のVT-5(雷撃飛行隊)所属機であることがわかる。ただし、この初 代空母ヨークタウンは、1942年のミッドウェイ作戦で大破し、直後に撃沈されているので、記録映像でないとすれば異なった所属先でのVT-5ということ になる。ちなみに、後半の映像中に明らかに実戦記録とわかる映像が挿入されているが、この画面に写っている爆撃機尾翼には2代目ヨークタウン(CV- 10:1943年竣工)識別マークが描かれている。日本軍機が突入してくる映像が写っているので、太平洋戦線での特攻攻撃ではないだろうか。
 アベンジャー、ヘルキャットともに塗装がトライカラー迷彩(シーブルーからホワイトまでの3段階グラデーション)の初期型が多いこと、尾翼に空母識別 マーキングがまだ描かれておらず、進入角制御用ストライプが描かれている点から、撮影は1943年前半頃であろうと推測される。映画中にはかなりの数の事 故(墜落、着陸失敗)シーンが挿入されており、継ぎ接ぎ(離陸した機は機番がB-31なのに離陸失敗して墜ちていく機はB-27に変わっていたりする)で 構成されていたりするところを見ると、わざわざ映画の撮影用に撮ったのではなく、訓練風景を撮ったものを流用しているのではないかと想像される。唯一、日 本軍機零戦役としてF4Fワイルドキャットが日の丸塗装で登場するが、これは映画のために飛行しているのは間違いない。
 空母については、上空映像からみてエセックス級空母であることは間違いない。しかし、制作時(1943年頃)に竣工しているものは、先にあげた2代目 ヨークタウンを含めて8隻ほどあるので、どの空母かはわからない。大体において映画撮影に協力するほど余裕があったのかは疑問だが。映画後半に登場する全 速前進しながらの発艦シーンは、真横からの映像でなかなか見応えがあるのだが、空母シルエットは初代ヨークタウン級と思われる。記録映像でなければ、 1943年当時にはエンタープライズしか現存していないので、エンタープライズということになるのだが。
 あと、驚いたのだが、空母の甲板下からも発艦できるのね。カタパルト発艦なのだろうが、後半にそういう映像が出てきたのでびっくりした。
 以上、航空機や空母の映像を見ているだけで満足してしまいそうな映画であった。さすが、実写フィルムを豊富に持っているアメリカだなと実感するのであっ た。

興奮度★★★★★
沈痛度★★
爽快度★★★
感涙度★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 1941年12月の日本軍の真珠湾攻撃で大打撃を受けたアメリカ海軍だが、その後3ヶ月間反撃する事もなく、議会でも追及されつつあった。
 実は、アメリカ海軍は稼動艦船数から見ても絶対不利な状況下で、一発逆転をかけた作戦を考えていたのだ。日本海軍がハワイ攻略の足がかりとしてミッド ウェイ島攻略に来る事を予想したアメリカ軍は、アメリカ軍がトラック島方面に戦力を分散していると見せかけて、密かにミッドウェイで待ちかまえる作戦をと る。
 南方に戦力を分散させていると見せかけるため、1隻の空母に囮としてマーシャル諸島、トラック島方面を徘徊させるのだ。
 空母(エセックス級)に、新たに雷撃隊が配属されてくる。雷撃隊長はモールトン少佐。部下のスコット少尉はアカデミー賞受賞した俳優だった。空母への着 艦の際、やり直し命令が出たにも関わらず、強硬着艦したスコット少尉は、空母の副官?(航空司令?)ハーパー中佐から大目玉を食らう。空母勤務隊員に死傷 者が出ることを危惧してのことだ。スコット少尉らは、空母でのチームワークの重要さを知らされる。
 一方、戦闘機隊には真珠湾攻撃でゼロ戦を撃墜した功績で海軍勲章を得たカニンガム少尉がいた。ただ、戦闘の後遺症で搭乗を許可されてはいなかった。
 空母の艦長あてに22:00開封の命令書が届く。命令書は南方海洋を航行しながら、航空機での索敵を続け、あえて敵に発見させながら交戦しないで逃げろ というものであった。艦長以下作戦の意図は知らされていなかったが、その命令に従うしかない。
 ある索敵飛行の帰還時に、空母が曳航する標的への爆撃訓練が行われるが、その際ブレナード少尉はわざと標的に爆弾を当ててしまう。結果、飛び散った破片 の清掃のため甲板は閉鎖される。甲板勤務員に危険を及ぼしたとして、ハーパー中佐はブレナードを搭乗からはずす。代わりにカニンガム少尉が搭乗を許可され る。
 カニンガム少尉はアベンジャーに搭乗して、発艦を行うが、復帰後の極度の緊張のため失敗して海中に墜落する。カニンガム少尉もまた搭乗をはずされるの だった。
 いよいよ、日本軍との接触が始まる。零戦と遭遇したアベンジャー機隊は、命令通り発砲せずに待避するが、その際、チザム少尉機が撃墜されてしまう。何も 出来なかったスコット少尉は苛立ちを隠せない。代わりに、ブレナード少尉が復帰を許される。
 
 ついに、作戦の真意が明かされる。ミッドウェー海戦が始まった。この空母ももちろん参戦し、モールトン少佐以下の雷撃隊も出撃する。スコット少尉らは日 本軍空母に魚雷を撃ち込んで撃沈させる。しかし、日本軍零戦の反撃で数機が撃墜され、スコット機も行方不明になる。
 一方、空母側でも日本軍攻撃を受けていた。爆撃を受けて甲板が損傷する。雷撃隊の帰還までに応急処置を施す。さらに、日本軍の潜水艦が雷撃を加えてく る。ただ1機甲板下のカタパルトから出撃可能の戦闘機に、カニンガム少尉が搭乗して発艦。カニンガム少尉は、空母に向かってくる魚雷に向かって体当たり突 入を図り、空母の危機を救うのだった。
 雷撃隊は無事帰還するが、スコット少尉機は依然行方不明だった。日本軍の攻撃を避けるために空母はスコール雲の下に待避。その時、上空にスコット機の爆 音が聞こえる。しかし、無線封鎖のために、真下に空母がいる事を伝える事が出来ない。モールトン少佐は、誘導に向かう事を要望するが、空母の乗員の生命を 守るため、ハーパー中佐は許可しない。そして、爆音は海中に没するのだった。
 スコットを見殺しにしたと怒るパイロット達に、ハーパー中佐は3人の乗員のために、3000人の乗員の命を捨てる事は出来ないのだと語る。その時、護衛 艦から、スコットらを救助したとの報が入る。 

 (2005/05/19)

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