「戦略爆撃指令」
評価★★☆ 損失を臆さずドイツ爆撃に向かう米陸軍爆撃隊
COMMAND DECISION
1948
アメリカ 監督:サム・ウッド
出演者:クラーク・ゲイブル、ウオルター・ビジョン、ヴァン・ジョ
ンソン、チャールズ・ビッグフォード
ほか
111分 モノクロ
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第二次世界大戦時の米軍によるドイツ昼間爆撃作戦を題材に、指揮官とパイロットらの確執を描いたヒューマンドラマ。アクション系かヒーロー系の映画かと
思ったが、思いのほかシリアスで重い内容となっている。
実際、イギリス本土に駐留した米軍航空部隊はドイツ空爆の任務につくが、英軍は夜間爆撃、米軍は危険な昼間爆撃を担当することとなる。しかも足の短い連
合軍の戦闘機の護衛範囲は限られており、その結果多くの爆撃機が対空砲火やドイツ軍戦闘機の犠牲となっている。
本作は、その多大な犠牲を払ったB−17フライングフォートレス爆撃機によるドイツへの空爆作戦を描いており、独軍の最新鋭戦闘機(Me262?)製造
工場破壊のミッション「ステッチ作戦」を実行するが、爆撃機100機、搭乗員1,000名にも及ぶ甚大な犠牲を払うこととなる。この無謀ともいえる作戦を
指揮する司令官とその上官や部下との確執がメインとなっているのだが、作戦実行の是非や、指揮官の苦悩や宿命が如実に描かれている。
損害率20%超えという決死の爆撃任務に就くパイロット達の恐怖と心情もさることながら、部下の兵を死に追いやる命令を下さざるを得ない指揮官の苦悩が
苦しい。戦争の不条理とはいえ、大を救うために小の犠牲を止むなしとするのは人としても辛いことである。だが、誰かがやらねばならない宿命でもあるのだろ
う。
また、本作で興味深いのは作戦の実施に影響を与えるのは現場の人間だけではなく、本国の議員たち、そして国家予算、さらにはマスメディアであることも描
かれている点だ。戦争に勝利するためには、現場の将軍は嘘をついてでも議員対策や予算取りにも腐心しなければならないのだ。そのためには従軍記者への広報
活動も重要な任務であり、虚偽の報告や隠蔽工作もやらねばならない。最近の日本に於いても防衛省の事故や過失の隠蔽体質等が指摘され問題となっているが、
現場の士気や作戦行動の成否を主眼に考えるとすれば、軍という存在そのものが大きな矛盾を抱えていることを考えさせられるのだ。国家の勝利という大義を取
るのか、個々の正義を取るのか、いつの時代であっても解決できないジレンマがあるのだ。
ストーリーとしては、各人の個性が良く出ていて面白いのだが、やや戦時中のプロパガンダ映画のような編集の稚拙さを感じ、登場人物の設定や説明がわかり
にくいのが残念。モノクロ映像というのもあるが、淡々とした流れのため盛り上がりに欠けてしまっている。エンディングに向けてもいささか尻切れ的な感じも
した。軍への風刺的内容も含んでいるだけに、製作が難しいタイプの映画だとは思うが、もう少しヒーローチックにしても良かったかなと思う。
本作に登場する爆撃機はB−17爆撃機で、記録映像と実機の実写が用いられているようだ。制作年代が戦後間もないので映像からはなかなか区別しにくい
が、尾翼のマーキングは様々なものが見られ、色々な資料映像を切り貼りしていることが想像される。また、空中での映像は一部模型が用いられているが、機内
からの映像はなかなかリアルで秀逸。
パイロットが負傷し、爆撃手が応急に操舵して着陸するシーンは見物。ふらつくB−17の飛行映像は手に汗握る。
なお、登場する爆撃隊だが勲章を授与されたパイロットが第32爆撃飛行隊と言っていることから、第15航空軍の第301爆撃航空群あたりをモチーフにし
ているのかな。主人公の准将は群司令官といったところで、上司の少将は航空団司令官かな。ただ、たかだか航空群司令官ごときで爆撃作戦を決定しているのは
ちょっとおかしいかも。
内容的にはさほど盛り上がらず、特に面白いと言う映画ではないが、米英軍のドイツ空爆作戦を取り上げた映画が幾多もある中で、作戦実行の裏舞台に主眼を
おいた作品という意味では貴重なものと言える。なお、同じB−17を扱った作品「頭上の敵機(1949米)」とセットで見るとよりいいかもしれない。
興奮度★★
沈痛度★★★★
爽快度★★
感涙度★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
1943
年のロンドン。英情報省ではドイツ本土爆撃作戦に関する記者相手の広報が行われていた。ブロックハースト記者は、夜間爆撃のイギリス軍にくらべ昼間爆撃の
アメリカ軍は戦果が大きいが、被害も大きいことに懸念を抱いていた。爆撃隊の指揮官で「鉄の男」と称されるケイシー・デニス准将の無謀な作戦が原因ではな
いかと疑っている。
爆撃隊指揮官のデニス准将はドイツの工業地帯を壊滅させるため、連日の出撃を命じ、
パイロットたちは全く休暇が与えられていなかった。そんな中ジェンク
ス大尉が任務拒否し、謹慎処分に処す。デニス准将の上司ケイン少将は爆撃作戦の成果に喜ぶものの、議員らによる軍事委員会の視察を目前に控え、損失を少な
くするようデニス准将に命じる。しかし、天候の具合からデニス准将が目論む工場地帯爆撃は議員視察とちょうど重なってしまう。作戦決行に反対するケイン少
将を説得するため、ついにデニス准将は作戦の目的がドイツ軍の最新鋭戦闘機LW1生産工場破壊「ステッチ作戦」であることを明かす。ケイン少将は本国の許
可も得ずに勝手に作戦を実施したことに怒る。そこに、デニス准将の旧友ガーネット准将がやってくる。デニス准将は自分の後任ではないかと疑う。
それでも、ステッチ作戦は実施される。爆撃は成功するものの、出撃36機中11機し
か帰還できなかった。全体では52機の損失だった。さらに、パイロッ
トが負傷し爆撃手が操縦する機体はデニス准将の指示で着陸するものの最後に爆発してしまう。
ところが、帰還したテッド大佐によって爆撃地点が間違いで魚雷工場であったことが判
明。海軍に恩が売れると言う声もあったが、作戦実施の代償は余りに大
きかった。作戦続行を主張するデニス准将だが、ケイン少将は議員団が来ることを心配し、継続をためらう。情報将校のランシング少佐は決行を主張する。ま
た、ブロックハースト記者がステッチ作戦に感づき、ステッチ作戦についてを明かさざるを得なくなる。だが、ケイン少将は作戦の中止を命じる。
議員団がやってくるが、新たな問題としてマルコム議員の甥であるジェンクス大尉が謹
慎処分となっていた。デニス准将は作戦決行の代償にジェンクス大尉を
視察団の案内役として謹慎を解き勲章を与えることをケイン少将に進言する。やむなくケイン少将はステッチ作戦決行を認める。
議員団の目の前で爆撃隊が出撃していく。爆撃は成功するがテッド大佐の機は炎上して
しまう。1,000名の搭乗員の命が失われたことを責めるマルコム議
員。デニス准将は気落ちする。その姿を見て甥のジェンクス大尉はマルコム議員を叱責する。
ケイン少将はデニス准将を解任せざるを得ず、後任にガーネット准将をあてる。ガー
ネット准将は作戦の中止を決めるが、部下のエバンス三等軍曹らがデニス
准将を慕っていくのを見て、ステッチ作戦の継続を決める。本国帰還の挨拶にきたデニス准将は「兵の心情を思いやるのはやめた。上に立つものの宿命だ」と言
う。そこに、デニス准将宛の命令書が届く。左遷と思っていたデニスは、思いがけずB−29爆撃隊の総司令官として着任することとなる。ステッチ作戦の実施
は評価されていたのだった。
(2008/05/22)
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