戦争映画の一方的評論
 
「戦場 評価★★★★ 米101空挺師団のバストゥーニュでの死闘
BATTLEGROUND
 1949 アメリカ 監督:ウィリアム・ウェルマン
出演:ヴァン・ジョンソン、ジョン・ボディアク、リカルド・モンタルバンほか
118分 モノクロ

 第二次世界大戦のドイツ軍最後の反撃アルデンヌ攻勢における、ベルギーのバストゥーニュ包囲戦(約1週間)を描いた隠れた名作。バス トゥーニュは交通の要衝として、ドイツ軍、米軍ともに確保したい戦略拠点であり、大群のドイツ機甲師団に対して、米第101空挺師団(スクリーミング・ イーグルス)が完全に包囲されながらも、持ちこたえたことで著名である。近年では、この舞台を描いた作品として「バ ンド・オブ・ブラザーズ」が知られている。バンド・オブ・ブラザーズは名作だが、戦後間もない1949年に製作された本作も遜色ない内容であるの が驚きだ。
 脚本はロバート・ピロッシュで、後に「二世部隊」 の監督を務めるのだが、ドイツ軍の降伏勧告に米軍司令官が「ナッツ」と返答したり、ドイツ軍偽装落下傘兵の登場など、史実に沿った逸話も忠実に描いてい る。映像、内容ともにバンド・オブ・ブラザーズとかなりの部分でオーバーラップし、バンド・オブ・ブラザーズがリメイクのような印象すらある。原典は一緒 なのかも知れない。そういう意味で、派手なアクションがあるわけではなく、リアリティを重視した映画だと言えよう。
 物語は、第101空挺師団の下士官、兵士に焦点をあてており、途中で分隊長になる軍曹と、段々と一人前になっていく新兵が主役級といえるが、特にヒー ローというわけでもなく、各兵士の心情と葛藤を表現する事により、場面設定の幅を広く見せている。その分、登場人物が把握しにくい難点はあるが。特に、敵 に狙撃されないように肘章(階級パッチ)をはずすというリアルな設定なために、余計人物がわかりにくくなっている。
 また、映像中であえて細かい歴史設定を提示していないため、バストゥーニュ包囲戦を知らない人でも、ある程度は戦場の状況を理解できるようになってい る。とはいえ、あらかじめ小説などで、背景戦史を知ってから見た方が分かりやすいだろう。
 監督のウイリアム・ウェルマンは低予算映画で良質な映画を作る事で知られているが、本作も人物中心で、セットや登場兵器類にはほとんど金はかかっていな い様子だ。バストゥーニュの街の廃墟以外はほとんど森林シーンだからだ。兵器類も、シャーマン戦車が最後に1台登場するのみで、あとはC-47輸送機から の物資投下シーンくらい(記録映像?)。砲兵隊も、敵戦車隊も音声がするのみで実態は登場しない。しかし、それでも十分に臨場感を感じる事が出来るのは、 監督の腕なのだ ろう。
 もっと、いい加減な映画かと思っていたが、想像以上にしっかりとした作りだ。意外と知られていないが、隠れた名作と言っても良いだろう。

(参考)バルジ大作戦(アルデンヌ攻勢)関連地図及 び部隊 


興奮度★★
沈痛度★★
爽快度★★★★
感涙度★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 1944年12月のクリスマス前、米第101空挺師団はそれまでの歴戦から解放され、パリ郊外で休息を得ていた。明日は、パリ見学と興奮する兵士達のも とに、緊急出動の命令が下る。ドイツ軍は劣勢と思われていたベルギーのアルデンヌ地方で、ドイツ軍の大反撃があったのだ。ドイツ軍はルントシュテット元帥 の指揮の下、機甲師団を使っての最後の総攻撃であった。守備についていた米軍は、不意を突かれて敗走した。その救援に向かう事になったのだ。
 空からの降下ではなく、半日以上かけたトラックでの輸送の末、第101空挺師団はバストゥーニュの街に着く。I中隊第3小隊第2分隊は分隊長ウォロ ウィッツ軍曹以下ホーリー軍曹、ジャーベス、ロドリゲス、ハンサン、アプナー、除隊間近のポップ、新兵のレイトンらが街の娘ドニーズの家に泊まる。ホー リー軍曹はドニーズに惚れるが、分隊はすぐさま森林奥深くに前進し、タコ壺掘りに明け暮れる事に。
 道路上での歩哨任務に立ったホーリー軍曹らは、中尉の階級章を付けた友軍に出会う。実は彼らは米軍兵に変装してパラシュート降下したドイツ兵だった。橋 を爆破され、米軍は攪乱される。さらに、ドイツ軍の砲撃に狂乱したベッツが直撃で戦死する。
 新兵のレイトンは、同時に入隊したK中隊の友人を訪ねるが、すでに戦死していた。しかも上官に名前すら覚えて貰っていなかったことに、空しさを覚える。
 ホーリー軍曹ら3名は斥候任務に出る。途中で、米軍少佐のジープに出会う。合い言葉の「テキサス・リーガー」の意味を答えられない少佐に銃を突きつける ホーリー軍曹らだが、女優の話題等でようやく確認ができる。さらに、森林の中で、例の偽装中尉の一群に遭遇する。正体を見破っていたホーリー軍曹は、応戦 しながら脱出を図るが、隠れていた敵戦車の掃射でロドリゲスが負傷。ロドリゲスを廃車の陰に隠して、陣地に戻る。陣地に戻ると、分隊長ウォロウィッツが負 傷しており、ホーリー軍曹が後任となる。
 米軍の援護砲撃の後、ロドリゲスの元に戻るホーリー軍曹らだが、ロドリゲスは既に事切れていた。
 バストゥーニュはドイツ軍に完全に包囲され、しかも深い霧のため空輸補給の飛行機が飛べずに米軍の補給は途絶えてしまった。さらに、負傷者が後送された 野戦病院までもが、ドイツ軍の手に落ちていく。ポップ二等兵にようやく除隊通知が届くが、もはやバストゥーニュからの脱出方法はなかった。
 鉄道線路の守備任務にあたっていた第2分隊は、ドイツ軍の奇襲に遭遇する。何人もの死傷者を出す中、ホーリー軍曹、レイトンらの迂回攻撃で撃退し、ドイ ツ兵を捕虜にする。アブナーは戦死し、ハンサンは自分でも驚くほど勇敢に戦い、負傷する。ホーリー軍曹は、実は恐怖の余り逃げ出そうと思っていたのだった が、新兵レイトンがついてきたために戦う羽目になったのだった。新兵だったレイトンもすっかり一人前の兵士になってきたのだった。
 孤立した101空挺師団のもとにドイツ軍将校がやってきた。降伏勧告をしにきたのだ。しかし、師団の准将は「ナッツ」と返す。意味を問いただすドイツ軍 将校に「糞食らえ」と返す。
 ますます、ドイツ軍の砲撃は厳しさを増し、バストゥーニュの街も廃墟のようなった。あのドニーズの家も、負傷兵の救護所も破壊された。歩ける負傷兵は皆 銃を取らされる。しかし、銃弾も食料も尽きかけていた。
 いよいよ、第2分隊のタコ壺付近へ、ドイツ軍の機甲部隊が迫ってくる。もはや、これまでと銃剣を装着するホーリー軍曹らだが、その時空に晴れ間が覗く。 ついに、待ちに待った米空軍の反撃が始まった。C−47輸送機による食料、燃料、弾薬の落下傘が届くのだった。
 激しい戦闘のすえ、ようやく米軍の機甲師団ら増援部隊が到着。第3小隊は、ボロボロになりながらも、堂々と隊列を組んで後方へ行進していくのであった。

 (2005/05/16)

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