戦争映画の一方的評論
 
「日本戦没学生の手記 きけ、わだつみの声 評価★★☆ 学徒出陣兵と仏文助教授の戦場
1950 東映 監督:関川秀雄 
出演:伊豆肇、沼田曜一、河野秋武、原保美ほか 
109分 モノクロ

 学問半ばで戦場に駆り出された学徒兵とその教授の心情と苦悩、そして戦場の不条理を描いた反戦的映画。学徒兵の手記とあるだけに、学徒兵を好意的に描 き、兵学校出や幹部の不正や不条理ぶりをことさら強調している。学徒兵は軟弱だと言われつつも、士官任官として優遇された複雑な立場がつらい。また、そこ に大学の助教授が兵卒として徴兵されてくるという、二重の伏線が戦場での立場の逆転と上官命令絶対の不条理を際だたせている。大学助教授だとわかるや犬の 真似をさせる士官や、反抗的な部下を射殺する上官など、なかなかキツイ描写もある。
 本作は、後の反戦映画のように顕著な反戦史観やスローガンをあまり前面に出しておらず、映像や人物描写によってそれを著そうとしている点は好感が持て る。従って、映像的にはかなり悲惨なものがあるし、行動も切羽詰まった究極の選択ばかりである。自決シーンや突撃シーンなど、最後まで胸にずしんと重くの しかかるものがある。ただし、仏文助教授と学徒のやりとりなどはインテリさが強調されすぎて、逆にインテリに対する嫌悪感さえ抱かせる。学徒=インテリ= 学生運動=反戦という戦後日本に植え付けられた構図が浮かんでくる。救いは、重傷の見習士官(学徒兵)が口先ばかりで自決すらできないシーンが映画の公平 感を保っている点だ。学徒にもいろいろいるだろうし、学徒の苦悩とは本当にこんなものだったのかという疑問は大いに残る。
 映像的にはやつれた軍装、沼地に屍れる兵隊描写がなかなか秀逸。モノクロだから余計にリアルなのだろうが、後世の映画に負けていない。兵器類は全く登場 しないが、戦闘シーンでの爆薬使用量は少なくない。建物の爆破や手榴弾の爆破シーンは結構迫力がある。ただし、ラストの死体から魂が抜け出すシーンはいか がなものか。1950、60年代の映画にありがちな、滅亡(敗北)からの再生をイメージする特徴的な技法だとは思うのだが。
 

興奮度★★★
沈痛度★★★★★
爽快度★
感涙度★★

(以下あらすじ ネタバレ注意)

 敗色濃いビルマ方面での戦線。東京大学仏文助教授だった大木二等兵と鶴田上等兵は全滅した弓兵団サク部隊の生き残りとして、よう やく柴山部隊にたどり着く。大隊長の柴山少佐は員数外を快く思わなかったが、二人を青地軍曹の小隊に付けることにする。そこに牧見習士官がやってくるが、 実は大木二等兵は東京大学で牧の担当教官でもあったのだ。再会を喜ぶ二人だが、兵学校での岸野中尉はインテリを不愉快に思い、大木二等兵に犬の真似をさせ て制裁を加える。
 牧見習士官の小隊には河西一等兵という学生運動家がいた。同じインテリとして大木と河西は話が弾み、大木は何故もっと戦争に反対しなかったのかと反省す るのだった。
 いよいよ戦局が悪くなり、柴山大隊は後方陣地へ撤退する事となる。その際に歩けない重病患者は置いていく事にする。その選別は野々村軍医中尉が行うが、 慶応大出の野々村中尉は学徒兵に好意的だった。撤退が近づいてきた頃、青地小隊の部下達が鶴田上等兵の扇動で大隊長の馬を殺して食べる事を計画。青地軍曹 は部下の体力の事を思い、それを黙認する。
 怒り狂った柴山少佐と岸野中尉は、犯人が青地軍曹だと知り制裁を加える。それを河西一等兵が止めに入ったため、岸野中尉は叛乱分子として河西一等兵を密 かに殺害してしまう。
 大隊の撤退が始まり、動けない7名が手榴弾を支給されて現地に取り残された。片足の千葉上等兵は後を追いかけるが追いつけるはずもない。他の一等兵は気 が触れた軍曹と自爆する。気丈に振る舞った木村見習士官も自決しようとするが、恐れをなして失敗し、他の兵によって安楽死される。こうして7名全員が死ん でいく。

 一方、移動した大隊も敵と激しい攻防戦を繰り広げていた。野々村軍医も目をやられ毒薬で自決する。劣勢となった柴山少佐と岸野中尉は数名 の部下を連れて脱出する事を画策する。それを見た青地軍曹は「戦争なんてナンセンスだ。誰が始めたんだ」と叫び白旗を掲げて歩いていく。しかし、直撃弾で 爆死する。牧見習士官は胸部に破片を受け、大木二等兵に抱かれていた。二人はモンテーニュについての講義を始め、ついに大木二等兵も銃弾に倒れるのだっ た。

(2005/08/29)

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