戦争映画の一方的評論
 
「勲章 評価★★ 勲章という栄華が起こす家庭崩壊
1954 松竹 監督:渋谷実 
出演:小沢栄、佐田啓二、香川京子、東野英治郎ほか 
119分 モノクロ

 戦後の日本で、陸軍元中将の過去の栄華(勲章)を巡って引き起こされる騒動と、元中将一家の家庭崩壊をシビアに描くサスペンスタッチのヒューマンドラ マ。 見終わった後には、後味の悪い不快感が残る事請け合い。それだけ、勲章という栄華にすがった元中将の時代錯誤観のみならず、中将一家の娘や息子の身勝手 さ、その周辺人物の強欲観や変わり身など、戦後混乱期の世の中の腐敗ぶりと人間の汚さばかりがクローズアップされる。
 そもそも、この作品が戦争映画なのかといえば、ちょっと違うような気はするが、日本国民の戦時中と戦後の変わり身、二枚舌ぶりを理解する上で、世相を良 く表している映画と して評価できる。
 元中将役の小沢栄の迷走、混乱ぶりの名演技と、佐田啓二の軽くて現代調の放蕩息子ぶり、さらには東野英治郎の無骨な軍人役など、役者陣は実に華やかであ る。それも、本作が俳優座映画と位置づけだけ あっ、て個性の強い演技が特徴的だ。これだけ、暗く陰湿な題材をネタにしておきながら、比較的長編の映画がダレることなく構成されているのはさすがだと言 え よう。
 当然のことながら、兵器類や軍装の類は一切ない。まあ、そういうものが入ったらこの映画は駄目なんだろうけど。
 まあ、とにかく今の時代の感覚や道徳観でこの映画を見ると、嫌な性格の人間ばっかりが目に付くのであった。本当に嫌な時代だったのだなあ。
 

興奮度★
沈痛度★★★★
爽快度★
感涙度★

(以下あらすじ ネタバレ注意)
 
  陸軍元中将の岡部は娘ちか子、息子憲治の三人で義弟西野の家に居候している。働き口もなく、義弟の家の犬の調教をして居候する岡部を義弟一 家も母親も馬鹿にしていた。
 義弟の娘久美子の結婚式に、過去に貰った勲章をつけて出席しようとする岡部を皆が諫める。その席で岡部は、知人で保安隊にいる黒住からかつての部下(副 官)寺位大尉が10年ぶりに戦犯収容先のマヌス島から帰ってきて、岡部や三島の消息を尋ねていると聞く。寺位は同じく中将だった三島の身代わりとして戦犯 となっていたのだ。岡部はてっきり寺位が三島へのお礼参りにきたものだと勘違いし、細々とたこ焼き屋を営んでいる三島のもとを尋ね、気を付けろと忠告す る。
 岡部の息子憲治は学生だが、落語のアルバイトをしている。その席で妾女の小松浅子に惚れられて、浅子の家に入り浸るようになる。 
 寺位が岡部の家を尋ねてくる。すっかり三島への報復だと思っていたが、寺位は岡部に再軍備の発起人になってくれと頼む。寺位が属する東亜あけぼの会が後 ろ盾になり、日本の再軍備を促そうというのだ。岡部はしばらく悩んだが、ついに発起人を受ける事にする。すっかり舞い上がった岡部は威厳を取り戻して日本 全国の遊説に駆け回るのだった。
 すっかり元気を取り戻した岡部に、次第に周囲も岡部を認め始め、ちか子も安心する。しかし、岡部は調子に乗ってちか子と寺位を結婚させようと考える。し かしちか子には職工の恋人がおり、ちか子は話すら聞かない岡部に困惑する。
 活動資金に窮した岡部は、寺位の画策で郷里の山に持っていた山を担保に300万円を不動産屋のおよねから借りる。およねはかつて岡部らがいた南方で活躍 していた女で、岡部とは旧知の仲であったのだ。
 浅子の元に入り浸る憲治は、岡部の勲章を持ち出して浅子にくれてやる。浅子は犬の首にぶらさげたり壁飾りにしてしまう。
 いよいよ岡部の活動も境地に入り、寺位から北村元大将が逢いたがっているとの情報を得る。北村は保安隊ともつながりがある人物であり、いよいよ再軍備発 起かと期待を寄せる。しかし、北村が来るという当日、寺位の属する東亜あけぼの会が密輸容疑で摘発される。さらに、北村の用事は執筆中の書物の文献提供の 件であった。しかも、代理でやってきた黒住の口から、岡部の再軍備草案は古くさい上、国際的にも合理的でないと批判される。
 寺位に裏切られ、自分の意見が否定された岡部は、気が触れたように怒りまくる。また、ちか子を嫁にとやってきた恋人も鼻先であしらい、ちか子と恋人は駆 け落ちを決意する。落ちぶれた岡部はおよねの元に走るが、およねも冷たくなり、故郷の山は担保として貰い受けると言い放つ。さらには息子の憲治が自分の勲 章を女にあげてしまったことを知り、失意のどん底に落ちる。
 岡部は憲治を誘って故郷の山に出かける。そこで、勲章など過去の遺物だと蔑む憲治ともみ合ううちに持っていた銃で憲治を殺してしまう。岡部は自決の場を 求めて山をさまよっていく。

(2005/11/04)

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