戦争映画の一方的評論
 
「日本敗れず 評価★★ ポツダム宣言受諾を巡る終戦秘話
1954 新東宝 監督:阿部豊 
出演:早川雪洲、藤田進、山村聡、丹波哲郎、宇津井健ほか
109分 モノクロ


  意外と知られていない、日本無条件降伏受諾を巡る政府・軍部の騒動を描いたもの。降伏に反対する陸軍将校の決起顛末を描いた映画としては「日本のいちばん 長い日(1967)」が有名であるが、本作はそれよりも10年以上も前に製作されたものである。「日本のいちばん長い日」は原作者半藤一利の詳細な取材に 基づいて製作されているのだが、本作は大雑把な作りとはいえ、十分史実に沿って作られているのが驚きだ。脚本の館岡謙之助が優れていたのであろうか。
 戦後映画にありがちな軍部批判や左翼がかったものではなく、淡々と歴史的史実を描いていくのは好感が持てる。ただし、淡々としすぎていて、登場人物像の 描写が少なく面白みには欠けるかも知れない。メインとなる陸相、陸軍決起将校ともに感情移入するにはちょっと物足りないのだ。なお、本作の登場人物はいず れも仮名を用いている。例えば、阿南陸相は川浪大将、米内海相は米田、東郷外相は南郷、田中東部軍司令官は中田、森近衛師団長は林、陸相の義弟である竹下 中佐は竹田といった具合だ。ちょっとした変更なので、大方誰だか推測がつく。役者では、血気盛んな陸軍将校役の丹波哲郎、海軍将校役の宇津井健が熱い。
 あの8月15日の天皇陛下の玉音放送が録音版であり、その放送を阻止せんがために陸軍将校が玉音盤を奪取しようと画策したことなど、多くの若者は知らな いだろう。将校らは天皇に降伏受諾を思いとどまって貰おうと死を持って画策するが、その真意、心境とは何だったのか。自決した阿南陸相の感じた責任とは。 一方、降伏を受諾した東郷外相らの真意とは。たった数日間の出来事ながら、日本の未来を左右する大事が展開されていたことに驚くとともに、混迷する当事者 の痛みや辛さを感じずにいられない。誰が悪いという問題ではないのだ。
 タイトルの日本敗れずとは、戦後十年めざましい復興を遂げる日本は、決して根本から敗れたわけではないということを意味している。徹底抗戦派、決起将校らが危惧した国体、日本人の滅亡には至らなかったのである。

興奮度★★
沈痛度★★★
爽快度★
感涙度★★

(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 昭和20年8月、沖縄戦も敗れいよいよ敗色が濃くなる中、ポツダム宣言が出される。それは一日本軍国主義を抹消、二日本本土を占領、三日本軍の武装解除、四連合国による戦犯の処罰という無条件降伏の通知であった。さらに8/6に広島、8/9に長崎に原爆が投下され、加えてソ連が参戦する。
 8月9日、最高戦争指導会議の場でポツダム宣言受諾について紛糾する。首相、米田海相、南郷外相は無条件受諾をすべきだとするが、川浪陸相、梅沢参謀総 長、豊島軍令部総長はあくまで占領区域の制限、武装解除、戦犯処置は日本が行うこととする条件を付すことを主張する。しかし、条件付きを連合国が受けると は思えず、その場合は徹底抗戦すべきだという。これをうけ、第一回の御前会議が開かれる。天皇はこれ以上の戦争継続は我が民族を滅ぼすものと、ポツダム宣 言受諾の方針を固める。

 一方、国内の和平派の逃げ腰に怒りがおさまらない、陸軍軍務課長新井大佐以下稲垣中佐、黒田中佐、畑少佐、松崎少佐、北少佐ら将校らは政 権転覆のクーデターを画策していた。そのために川浪陸相の同意を得ようと直談判するも、川浪陸相は次の御前会議まで待てと回答を延ばす。川浪陸相としては 将校らの意見も良くわかっているが、やはり天皇の御意に背くことでもあり如何ともしがたかったのだ。事前に中田東部軍司令官と林近衛師団長を呼び、天皇陛 下の御心に従うよう伝える。

 第二回の御前会議が始まる。もはやポツダム宣言受諾しか道はないとの判断で、ついに8月15日正午に玉音放送を行うことが決定される。川浪陸相もこの決定に従った。
 しかし、この決定を知った陸軍将校らは、裏切られたと収まらなかった。新井課長、稲垣中佐、竹田中佐は川浪陸相の意に従うが、畑少佐、松崎少佐、北少佐 らと海軍航空士官学校中原大尉はクーデターを敢行する。まずは玉音盤の放送を阻止することが先決と、中田東部軍司令官のもとへ同意を求めに行くが断られ、 次いで林近衛師団長のもとへ行く。ここでも林師団長に断られ、ついに師団長を殺害し、偽の師団命令を出す。近衛師団第一連隊を出動させ、宮中及び放送局を 占拠し、玉音盤の捜索を行う。玉音盤は宮中で録音され、宮内省内大臣の金庫にしまわれていたが、放送局の田部も宮内省職員も頑として口を割らなかった。
 
 川浪陸相は玉音放送の前に自決を決意する。義弟の竹田中佐の見守る中腹を割いて自決する。偽師団命令が出ていることを知った中田東部軍司令官は急遽近衛 師団のもとに行き、畑少佐らと面会。川浪陸相が自決したことなど説得を重ね、ついに畑少佐らはクーデターを諦めて自決するのだった。
(注意 人名は劇中使用しているもので、実名ではありません)

(2005/08/28)

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