戦争映画の一方的評論
 
「潜水艦ろ号未だ浮上せず 評価★★ 呂号潜水艦乗りの活躍と最期  
 1954 新東宝 監督:野村浩将
出演:藤田進、小笠原弘、美雪節子ほか  
82分 モノクロ
 
 シリアス調の日本海軍潜水艦乗りの活躍と悲話を描いたもので、心情的には海に散った日本海軍将兵への鎮魂として★3つ行きたいところだが、映像的な部分 と史実からやや離脱している部分で評価減とせざるを得ない。
 戦後間もない時期の撮影と言うことで、登場する人物の服装や建物背景はかなりリアルではある。潜水艦シーンも、当時としてはそれなりにセットを組んでい る。ハッチ扉がない、発令所が異様に広いなど若干の違和感はあるものの許せる範疇。戦闘シーンや出航シーンなどは記録映像を転用している様子。従って、リ アル感はあるものの、ストーリーとは全く別の印象となってしまっている。さらに、ミニチュア特撮もあるのだが、直角に潜行する潜水艦はないだろう・・・。
 ストーリーは呂号潜水艦の活躍に絞っているが、所属が第6艦隊というだけで特にモデルとなった潜水艦があるわけではなさそうだ。特に、がっくり来たの が、最期の出撃で原爆の材料(ウラニウム)輸送任務についていた米海軍重巡インディアナポリスを撃沈するのだが、史実では撃沈したのは伊58潜水艦であ り、しかも当時は日本軍はインディアナポリスがウラニウム輸送をしていたことは知らなかったはず。制作当時(1954)頃であれば、まだ戦史情報も定まっ ておらず、この程度のフィクション性は許されたかもしれないが、今となってはかなり興ざめ。
 ヒューマンドラマという面では、士官と料亭の女の恋愛や艦長の家族などが表現されているが、思ったほどの掘り下げや描写がなく、さほどの悲壮感がない。 また、ラストシーンの描写はあえてカットしたのかもしれぬが、あまりのあっけなさで感動が薄れた。せっかくの潜水艦映画だが、この時期ならばこんなもの か。

(以下ネタバレ注意)
 潜水艦呂号(伊号に比べ小型の艦)が 第6艦隊司令部からの命令で横須賀基地に帰投する。艦長は佐々木中佐。つかの間の上陸だったが、立花看護長(大尉)はいい仲になっている料亭の女と過ご し、堅物の永田聴音長(大尉)もまた、下宿の世話をしてくれた料亭の養女幸子と仲良くなっていく。
 佐々木艦長と永田大尉は艦政本部での会議でより優秀な電探の開発を要求するが、聞き入れられずむしろ特効兵器の開発に力が入れられる。
 呂号に南方カロリン諸島のメレオン島地上部隊(海軍防空隊か?)への補給輸送任務が出る。飢餓状態に陥っている陸兵に補給物資を無事に送りつけるが、突 然の敵機来襲に帰還が遅れた立花看護長が戦死する。
 戦争は次第に日本の敗色が濃くなり、昭和20年4月には大和特攻が敢行される。
 同7月、ついに40隻の潜水艦に特攻作戦が下される。佐々木中佐以下、生きて戻れぬ覚悟で出航する。広島型原爆の材料ウラニウム235を搭載した米重巡 インディアナポリスを探して航行するうち、的空母を発見し轟沈。しかし、敵駆逐艦の執拗な爆雷攻撃を受け、15時間もの潜航を余儀なくされた。艦内の空気 も体力も限界に近づいたとき、ついに重巡インディアポリスを発見。最期の魚雷で見事撃沈する。しかし、もはや魚雷はなく浮上しての砲撃戦に突入する。敵駆 逐艦や航空機との戦いで、ついに呂号は「ワレ目下浮上戦闘中。本艦は敵弾命中シ傾斜シツツアリ」の打電を打つ。救助に向かった味方潜水艦が到達したとき に、海面には呂号の残骸が浮かぶのみであった。

(2005/02/26)

興奮度★★
沈痛度★★★★
爽快度★★
感涙度★★

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