「ヒトラー暗殺」 評価★★☆ ワルキューレ作戦の顛末
ES
GESCHAH AM 20. JULI
1955 西ドイツ 監督:G.W.パプスト
出演:ベルンハルト・ヴィッキー、カール・ルートヴィ
ヒほか
73分 モノクロ
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ドイツの敗色が濃くなった1944年7月20日に起きた、ヒトラー暗殺未遂事件「ヴァルキューレ作戦」を描いたノンフィクション風ドラマ。純粋に暗殺
計画を時系列に描いたもので、人間味などの脚色はあまりなされていない。戦後間もない時期にもかかわらず、かなり詳細な描写がなされており、ヒトラーの総
統大本営「狼の巣」やドイツ軍将校の服装などが忠実に再現されている。その分ストーリー性という点では若干面
白さに欠けるが。
本作は、暗殺未遂事件の中心人物で実行犯の伯爵クラウス・フォン・シュタウフェンベルグ大佐(予備軍参謀長)を中心に描かれる。ヴァルキューレ作戦は二
段階で行
われ、まず、シュタウフェンベルグ大佐がプロイセンの総統大本営でのヒトラーとの作戦会議に出席した際に、アタッシュケースに入った爆弾を爆発させる。
第二段階として、ベルリンで待機していた反ナチの一派(ベック上級大将、オルブリヒト大将など)が大爆発でヒトラーが死亡したと判断し、国防省や警察、放
送局
の占拠を目論むのだ。だが実際には、国防省でフロム予備軍司令官の軟禁に成功するが、ナチ宣伝相のゲッベルスはヒトラーが生きていることを知り、逆にゲッ
ベルス逮捕に向
かったレーマー少佐の寝返りに成功する。放送局の占拠にも失敗し、反ナチの一派は次第に形勢が不利になり、逆に逮捕されてしまうのだ。
情報伝達の不備と指令系統の不備が失敗を招いた一つの要因だが、本作ではその過程が比較的良く描かれている。ヴァルキューレ作戦を描いた映画はいくつか
あるが、本作はそれらの中でも、蜂起部隊が武器学校や火薬学校、歩兵学校といった新兵で、しかも歩兵学校のヒッツフェルト大将が不在だったというようなミ
スが比較的詳しく描かれている。また通信部の混乱も詳しく描かれ、ヒトラー側の電信かシュタウフェンベルグ大佐側の電信のどちらを選択すべきか悩むのだ。
結局ヒトラー側につくのだが、この功績で通信部のローア少尉が大尉に、フェルケン下士官が少尉に昇進するシーンも登場する。
この時期にしてはかなり史実に沿って作られていることに感銘するが、爆弾をペンチで起動させること、狼の巣の検問を嘘電話で突破すること、フロム上級大
将が即決軍事裁判でシュタウフェンベルグ大佐のことを「名を口にするにも値しない」と称することなど、既にこの時期にきちんと検証されているのが凄い。た
だ、オルブリヒト大将の副官名がデュレンシュタイン大佐となっていること、ベック上級大将の自決が一発で成功すること、最後の銃殺が四人一緒といったあた
りなどは、現在の史実とは若干異なるようだ。
登場する兵器類では、シュタウフェンベルグ大佐らが移動に用いる航空機としてハインケルHe111爆撃機が出てくる。飛行シーンもあるが、モノクロなの
で実機なのか記録映像なのかは判然としない。地上兵器ではM47パットン中戦車、M8グレイハウンド装甲車がドイツ軍として登場。ドイツロケなので、戦後
駐留していた米軍のものを使用したのだろうか。このほか、キューベルワーゲンやメルセデス・ベンツなどのソフトスキンも登場する。
全般にシンプルかつ真面目に作られている印象が強い作品だ。面白みという点では劣るし、内容の性格上登場人物が多い割に名前がわかりにくいとう欠点はあ
るものの、この時期の作品にしては歴史モノとしてかなり上出来な部類に入るだろう。現在でも色あせずに見ることができる作品だ。
なお、ラストに「この犠牲を生かすも殺すも我々次第である」というテロップが流れる。戦後間もない新生ドイツとして、ナチスドイツの犯した罪を反省し生
まれ変わろうとする、真摯な意思を垣間見ることができ、本作の置かれた想像以上に真面目なポジションを確認できるのが興味深い。
興奮度★★★
沈痛度★★★★
爽快度★
感涙度★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
反ヒトラー派のシュタウフェンベルグ大佐やベック元上級大将らが集っている。現在のドイツ国民の名を語る横暴の数々を阻止し、悔い改めることが急務だと
考え、ヒトラー暗殺を計画する。シュタウフェンベルグは唯一ヒトラーに爆弾を仕掛けることができる人物であるととともに、その後のクーデター実行にも必要
な人物だった。従ってヒトラーの死を確認することなく脱出する必要があり、そのことが懸念された。
シュタウフェンベルグ大佐は実行当日、兄
弟?のベルトルドから爆弾を渡され、教会に寄り、ヘフテン中尉と合流して狼の巣に向かう。2つの検問を通過し、通信総監のフェルギーベル大将と最後の打ち
合わせを実行する。暗殺成功をフェルギーベル大将がオルブリヒト大将に連絡し、通信を遮断。その後、ベック上級大将がラジオ放送、ヒッツフェルト大将の歩
兵学校が通信施設を占拠することとなっていた。
シュタウフェンベルグ大佐はカイテル元帥と
会見後12:15からの会議に向かう。大佐は鞄を忘れたとしてちょっと戻り、鞄の中の爆弾の信管をペンチで起動する。会議は防空壕ではなく、通常の会議室
に変更されており、大佐は入口の兵に電話があったら呼んでくれと言い残して、中に入る。ヒトラーの近くに鞄を置いて大佐は退出。だが、鞄は蹴飛ばされて机
の奥に置かれてしまった。爆発が起こり、大佐と中尉は空港まで脱出を図る。
フェルギーベルは「想定開始」の電話を入れ
るが興奮のあまり聞き取れなかった。通信も遮断され、オルブリヒト大将は作戦開始の決断が付けられない。シュタウフェンベルグ大佐は検問所を嘘電話とメン
ドルフへの電話で突破してベルリンに戻る。だが、ベルリンではワルキューレ作戦が発動されていなかった。すぐさまワルキューレ作戦が発動され、通信室に
ヴィッツレーベン元帥からの指示が追加される。武器学校は橋頭保を確保、火薬学校は中央電信電話局占拠、兵器庫に指揮所設置、レーマー少佐の守備大隊は国
防省(ベントラー地区)防御、武装SS・親衛隊の武装解除、ゲッベルス逮捕が命じられた。
オルブリヒト大将と大佐はフロム上級大将の
所へ行く。フロムはカイテル元帥に電話し、ヒトラーが生きていることを確認する。フロムは参謀長ケルスト大佐が勝手にワルキューレ作戦を発動したことに怒
るが、副官室に軟禁されてしまう。また、大佐は出頭してきたゲシュタポ幹部を逮捕する。一方ゲッベルス逮捕に向かったレーマー少佐は、ヒトラーとの直接電
話で生存を確認、逆に反乱軍鎮圧を命じられる。
パリではゲシュタポを拘束するなど順調だっ
たが、キンツェル大将が命令拒否、ヒッツフェルト大将の所在が不明で放送局が占拠できないなど綻びも見え始める。さらに、大本営がラジオでヒトラーの生存
を放送、通信所では両陣営からの電信が錯綜し、通信士官はオルブリヒト側からの通信を止めることを決断する。ヒムラーが国内予備軍総司令官に任命され、オ
ルブリヒト側の通信を遮断したローア少尉は功績で大尉に、フェルケンは少尉に昇任される。各地で蜂起した部隊も元に戻るよう指令が出される。
シュタウフェンベルグ大佐らはなんとかゲッ
ベルス逮捕を目論むが、人員が確保できず、歩兵学校のミューラー大佐がようやく出頭するも遅すぎた。オルブリヒトは妻エヴァにさよならの電話をかけ、国防
省内のヒトラー派将校との銃撃戦で腕を撃たれたシュタウフェンベルグ大佐は、解放されたフロム上級大将によって逮捕される。
観念したベックはフロムから拳銃を借りて自
決。オルブリヒト大将は遺書を書き、ヘプナーは法廷闘争を望む。即決軍法会議でオルブリヒト大将、幕僚長デュレンシュタイン大佐、名を口にするにも値しな
い大佐と中尉に銃殺刑が申し渡される。4名は中庭に並べられ、銃殺される。
その後も事件の犠牲者は続き、戦争が続いた
ために一般兵や民間人の犠牲者も続いた。
この犠牲を生かすも殺すも我々次第である。
(2004/08/11 2009/3/22加筆修正)
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