戦争映画の一方的評論
 
「ソ満国境2号作戦 消えた中隊 評価★ 上層部の謀略に消えた中隊
1955 日活 監督:三村明
出演:辰巳柳太郎、河村憲一郎ほか  
94分 モノクロ

 ソ連と国境を接する満州における日本陸軍(関東軍)の話。ソ連軍と対峙していた中隊がある策謀の渦に巻き込まれて消失するというサスペンス的な展開。戦 後間もないとはいえ、フィルムの画質と音声は極度に悪い。そのため、画面が暗転した状態も多く、音声も聞こえにくく、ややストーリーを正確に把握しきれな かったのは残念。原作は井手雅人の「池の塩」を黒澤明、菊島隆三が脚色したものである。そのためか、ストーリーは謀略的な作りとなっており、凝っていると 言えばそうだが、わかりずらいとも言える。出演者は「新国劇」が総出演だそうだ。

 (以下ネタバレ注意)
 昭和16年6月、黒竜江でソ連軍と対峙している関東軍の一中隊は北満の部落付近の監視哨勤務に就いている。この中隊に士官学校での香川大尉が着任する。 それまでの指揮官小隊長岸中尉は、東北なまりの木訥とした中年で、部下にも部落民にも優しく好かれている。しかし、香川大尉は部下の規律のなさと、部落民 との交流など軍人としての姿勢がなっていないとし、厳しい訓練を中隊に課す。
 部隊(大隊?)司令部参謀新田中佐着任の歓迎会で、香川大尉は新田中佐、参謀藤倉中佐、謎の満州人の密談に遭遇してしまう。香川大尉は命を助ける代わり に、密謀の片棒をかつぐことを強要される。密謀とは、ソ連との開戦を促すために、邦人の拉致もしくはソ連側からの銃撃をさせようと画策するものだ。
 中隊隊員が香川大尉の名で、慰安所の女ハルコあてに悪戯手紙を出した事件で、岸中尉が部下をたしなめている一件を目撃してから、香川大尉は次第に岸中尉 に親近感を覚え始める。
 部隊に南進命令が出、藤倉中佐らはあせりはじめる。たまたま、部落の子供が川に落ちたところにソ連軍が発砲。ただちに中佐は反撃を命じる。しかし、現地 では岸中尉が発砲をやめさせ、川の中の子供を救出していた。
 藤倉中佐は命令違反だとして岸中尉を軍法会議で銃殺にすべきと息巻く。香川大尉は何とか命を救おうと嘆願するが、悪いことに上級司令部から発砲事件の顛 末についての追求が始まる。密謀がばれることを恐れた新田中佐と、藤倉中佐は、岸中尉を首謀者とする反乱軍が蜂起したこととしろと香川大尉に命令する。
 監視所の中隊と部落に砲弾の雨が降る。しかし、それはソ連軍ではなく味方の砲弾だった。

 音声が聞き取りにくいのもあって、ストーリーがややわかりづらかった。謎の満州人の存在も今ひとつ理解できなかったし、藤倉中佐らが何故ソ連開戦を画策 していたのかも不明。ただ、人のいい岸中尉と間にはさまって苦悩する香川大尉の心情がひしひしと伝わってくる。後味としてはあまりいい映画ではない。
 軍部上層部の無知や無謀が原因で下級兵士が死んでいくストーリーは、敗戦国の戦後映画によく見られるパターンだ。厭戦感と戦争否定からくる反動の一種だ と思うが、見ていてあまり気持ちのいいものではない。善悪を明確にし、犯罪者をはっきりさせることで自らの正当性を著す手法は自国卑下史観の顕著な現れだ ろう。戦後直後期に特徴づけられるパターンである。 

(2004/10/15)

興奮度★★
沈痛度★★★★
爽快度★
感涙度★