戦争映画の一方的評論
 
「ミスタア・ロバーツ 評価★★☆ 南太平洋での米貨物船の船 長と兵士の悲喜劇
MISTER ROBERTS
 1955 アメリカ 監督:ジョン・フォード
出演:ジェームズ・ギャグニー、ヘンリー・フォンダ、ジャック・レモンほか
121分 カラー

 南太平洋のアメリカ海軍の貨物船で引き起こされる、艦長と船員らの確執を喜劇タッチで描いた映画。元水兵の書いた短編小説をもとにブロー ドウェイで上演されていた演劇の映画化。本作の9割までは、なかなか面白いコメディなのだが、ラストの展開でやや悲劇調子が入るのが残念。時代も戦意昂揚 でもあるまいし、必要なシチュエーションだったのだろうか。
 コメディと言っても、主演のフォンダは冷静な演技だし、艦長役のギャグニーも神経質な役柄。そこに、アカデミー賞助演男優賞受賞のジャック・レモンが癖 のある士官役で、ひと味スパイスを利かせている。そういう意味で、バランス良く人物が構成されており、スムーズにストーリーに没頭できる。登場人物も少な めだし、わかりやすい。
 乗員の少ない小規模艦内ではあるが、艦長の嫌みたっぷりの呼び出しアナウンスが印象深い。「ミスター・ロバ〜ツ」。また、この映画は椰子の木がキーに なっている。戦時下とは思えないのどかさが椰子の木の運命を握っているのだ。また、急造スコッチの作り方も面白い。

 登場する艦船や地名は全て架空のもので、戦記としての価値はほとんどない。しかし、ある意味タブーとされている艦長と部下の確執をストレートに描いたも のとして、前年に制作された「ケイン号の叛乱(1954)」とともに、海軍内部の問題を垣間見る事ができる作品とは言えようか。管理職である艦長の出世欲 と、それに絶対服従で振り回される部下というのは、永遠のテーマなのであろう。
 貨物船はいわゆる補給船である。もちろん戦闘シーンはない。記録映像として日本軍の特攻隊シーンが挿入されるのがやや痛い感じ。

興奮度★★
沈痛度★★
爽快度★★★★
感涙度★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 第二次世界大戦中の南太平洋。アメリカ軍は日本軍と戦闘状態にあるが、貨物船(補給船)リラクタント号(別名バケツ号)は、のどかで単調 な補給任務についていた。
 艦長(ギャグニー)は、自身の出世を考えてばかりで、神経質で偏屈な男だ。優秀な成績の記念品として拝領した椰子の木を、殊の外大事にしている。
 先任士官のロバーツ大尉(フォンダ)は、真面目な男で戦闘艦への異動を希望し続けていた。すでに2年4ヶ月勤務しており、異動の条件は満たしている。し かし、毎週のように書く上申書は、艦長によって握りつぶされており、ロバーツの怒りも最大になっている。しかも、本来なら与えられる上陸許可も許されず、 部下達の不満も高まっている。
 そんな鬱屈とした中、甲板上では船員らが双眼鏡で、陸地の看護婦のシャワーを覗き見ていた。バケツ号のもう一人の士官パルヴァー少尉は、洗濯担当だが、 実に怠け者でほとんど勤務らしい勤務をしていない。すでに1年以上も乗船していながら、艦長ともほとんど接触していない。そのパルヴァー少尉が用務で上陸 した折りに、看護婦の艦への招待を取り付けてくる。しかし、看護婦に振る舞うことを約束したスコッチがなく、仕方なくロバーツと軍医大尉の協力を得て、ア ルコールにコーラ、ヨード、ヘアトニックを混ぜて急造スコッチを作り上げる。だが、招待した看護婦らに船員がのぞき見していたことがバレて計画は失敗に終 わる。

 バケツ号は補給任務で、南の島イリジウム島に寄港する事となる。船員らは南国の島での上陸を心待ちにしているが、艦長は許可を与えなかっ た。怒ったロバーツは艦長室に怒鳴り込むが、逆に、艦長は部下の上陸とロバーツの絶対服従(上申書を書かない事、艦長に逆らわない事)を取引してくる。や むなく、取引に応じ、部下達は上陸することが出来た。
 上陸して大騒ぎの部下達だったが、この日以降ロバーツが艦長の言いなりになったことに不満を抱き始める。軍医もパルヴァー少尉も、ロバーツが大人しく なった理由を聞き出そうとするが、ロバーツは答えない。
 欧州戦線がドイツの降伏で終戦し、勝利を喜ぶロバーツだが、前線に参加できない事や部下の信頼が崩れた事に対して、怒りが爆発する。艦長の大事にしてい る椰子の木を海中に捨ててしまう。椰子の木がなくなって怒り狂う艦長は、犯人をロバーツと推定し艦長室で絶対服従の約束を破った事をなじるのだが、その音 声は全て艦内に筒ぬけだった。事情を知った部下達はロバーツに謝意を示すのだった。
 念願叶ってロバーツは駆逐艦へ異動する事となった。実は、軍医や部下達が異動上申書をロバーツに内緒で作成し、艦長のサインを偽造して提出していたの だった。そして、部下達は椰子の木勲章をロバーツに渡す。
 ロバーツの後任はパルヴァーが任命された。艦長は映画上映禁止など厳しい規制を船員に命じていた。しかし、パルヴァーは艦長のお気に入りであり、艦長に は強く物が言えなかった。
 ある日、ロバーツから手紙が来る。しかし、その直後にロバーツ戦死の報も届く。日本軍の特攻機の直撃を受けたというのだ。パルヴァーは意を決して、新た に設置されていた椰子の木を海中に投げ捨てるのだった。

 (2005/05/16)

DVD検索「ミスタア・ロバーツ」を探す(楽天)