戦争映画の一方的評論
 
「夜と霧 評価★★★☆ アウシュビッツ強制収容所ドキュメンタリー
NUIT ET BROUILLARD
NIGHT AND FOG

1955 フランス 監督:アラン・レネ
ナレーション:ミッシェル・ブーケ
32分 一部カラー


  ポーランド南部の町オヒシフィエンチムにあるドイツ軍の強制収容所「アウシュビッツ」を描いた記録映画。アウシュビッツ収容所は元はポーランドの政治犯を 収容する予定であったが、後にユダヤ人の大量虐殺の場と化していくことで最も有名な収容所である。現在もその施設の一部が残り、国立オヒシフィエンチム博 物館として世界遺産にも登録されている。約150万人のユダヤ人が送り込まれ、その9割以上が射殺、ガス室、、実験、餓死、病気によって死亡したとされて いる。
 本作はフランス人監督の手によるもので、戦後間もない1955年段階で、ある意味タブーとも言えるホロコーストを題材に取り上げた勇気は評価に値する。 映画としてはたった32分という短編ドキュメンタリーでありながら、その後に製作される強制収容所ものドキュメンタリーと比しても、そのインパクトや語り かけてくる説得力という点では抜きん出ていると言えよう。
 と言うのは、その映像手法と時代性にある。戦後の映像はカラーを用い、戦時のアウシュビッツ映像はモノクロを用いるという明暗の分け方や、静止画像を多 用することでの視覚のインパクトが強く、失った時と生命が戻らないことを語りかけてくる。しかも、戦後の映像と言っても1955年段階のものであり、現在 のような博物館化したアウシュビッツではなく、廃墟そのものである。その微妙な年代差が実にリアルな生と死の間を予感させるのだ。また、淡々としたナレー ションは感情的にならずに冷静に事実を直視することを見る側に強制する。単に、ドイツの批判を並べ立てるのではなく、事実の羅列によって見る側の判断力を 呼び起こすのだ。
 映画のラストにはユダヤ人が解放されて終わったのか・・・という投げかけがなされる。現在の我々には遠い過去の出来事になりつつあるが、製作当時としては戦犯問題、パレスチナ問題など未解決も問題も多々あった背景が偲ばれる。
 短編の割には内容が濃く、正座して見る気にさせる正当派ドキュメンタリー映画と言えるのではないだろうか。1956年のジャン・ヴィゴ賞受賞。

興奮度★★★★
沈痛度★★★★★

爽快度★
感涙度★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

  ポーランドオヒシフィエンチムにあるアウシュビッツ収容所。ドイツの建設業者が利権を争って作り上げた一つの町である。収容所にはユダヤ人刑事犯(赤マー ク)、ユダヤ人政治犯(青マーク)、ドイツ人刑事犯(カポ)が収容されており、赤<青<カポ<SS親衛隊の順に序列が出来ていた。収容所内ではカポによる ユダヤ人いじめや懲罰のほか、親衛隊の新人いじめなどもあった。
 夜にトイレに行き酔ったカポに出会うことは極めて危険なことであった。(カポは飲酒が許されていたということ)ユダヤ人の中にはカポに対抗する政治組織も作られたという。
 収容所内は一つの町を形成するほどであったが、医務室とは名ばかりで死の注射を撃つ場所であったし、外科ブロックと言えば、親衛隊の医師や怪しい看護婦らが無為な人体実験を行っていた。また、売春宿も設置されそこは唯一の食料を得ることが出来る場であった。
 1942年親衛隊長のヒムラーが視察。「生産的に処分しろ」の一声で、アウシュビッツでの虐殺は加速していく。列車でアウシュビッツに送られてきたユダ ヤ人らは、「選別」と呼ばれる振り分けで、強制労働行きかそれ以外に分けられる。それ以外とは婦女子や老人が主で、シャワー室に見せかけたガス室行きであ る。量産される死体の山に火葬場は処理しきれず、ついに効率のいい窯が開発される。また、収容者から奪った頭髪は毛布に、人骨は肥料に、死体は石鹸に、皮 膚は紙にまで再利用しようという目論見すらあったのだ。こうした、労働力としてのユダヤ人を目当てに、シュタイヤー、グレップ、ジーメンス、ファルベンと いったSS親衛隊も立ち入ることが出来ない私設収容所も設けられていた。
 連合軍の進撃によりアウシュビッツのユダヤ人は解放される。しかし裁判でSS親衛隊の将校やカポは、命令に背けなかったとして無罪を主張する。ナレーターが語る、「これで終わったのか。今も隣にカポ、親衛隊、密告者がいるのだ」。
 
 (2005/06/26)

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