戦争映画の一方的評論
 
人間魚雷回天」 評価★★★☆ 若き予備士官の海上特攻の悲話
1955 新東宝 監督:松林宗恵
出演者:岡田英次、木村功、宇津井健、沼田曜一、津島恵子ほか
87分 モノクロ


 日本海軍の海上版特攻兵器「回天」を扱ったヒューマンドラマ。海軍の予備学生は航空機での特攻作戦にも多く駆り出されたが、航空機の欠乏してきた後半に は小型潜航艇に炸薬を積んだ特攻魚雷「回天」にも出撃した。回天を扱った映画には「人間魚雷 あゝ回天特別攻撃隊(1968)」「人間魚雷出撃す (1956)」などがあるが、前者は松方弘樹、後者は石原裕次郎主演で、前者の出来が秀逸だ。本作は、前者に匹敵するくらいの出来であり、特に予備学生の ヒューマンドラマに焦点を当てたものとなっている。
 岡田、木村、宇津井が演じる予備学生を中心に、死に直面する精神的な心の揺れ動きが良く描かれている。戦争を美化するものではなく、かといって無為に反 戦的なものでもない。いささか、臭い芝居が見られるのは気になるが、本作は詩的な感動的セリフが多く目に付いた。涙腺が緩くなった名セリフをいくつか。
「俺たちは生きているんじゃない。生きていると思えば苦しくなるばっかりだ」
「(体罰を兵卒に加えている下士官に対して)人を人と思わないのが海軍のしきたりならそれは間違っている、と予備士官が言っていた事を思い出してくれ」
「(元大学の教官に自分の哲学書を手渡して)もし教壇に立つ事があったら、もっと若い人にこの本の一部を教えてやって下さい」
「未来を語る事が若者の特権だと思っていたが、それもできないんだね」
「(恋人と最後の別れに際して)あと3時間しかない。(恋人が)私のとあわせて6時間もあるわ。」
 このほか、脇役だが潜水艦の野木一水役が回天特攻に向かう予備学生に対して、ガクガクと震える演技は見事だ。確か、「戦艦大和(1953)」でも山添少 年兵役で出ていた人だ。
 残念なのは、ヒューマンドラマ中心のため、時代背景や武器についての説明がほとんどないことと、戦闘シーンにリアル感がないこと。その分、回天特攻への 盛り上がりに欠けてしまっている。その点では、「人間魚雷 あゝ回天特別攻撃隊(1968)」が一歩秀でている。
 映像的にはあまり金がかかっていないようで、登場兵器はないに等しい。陸上では回天の模型が登場するが、海上(中)は全てミニチュア。秀逸とは言い難い 出来。訓練中の伴走船はモーターボート。敵大型輸送船もどうみても小型漁船。
 何故か、航空機特攻ものよりも回天ものの方が秀逸な映画が多い。やはり、航空機よりも潜航艇の方が閉塞感や孤独感が強く、より悲壮感を感じるせいだろう か。回天は操作性も悪く、欠陥品も多かったという。そういう視点でみると、ラストの「我未ダ生存セリ」はとにかく悲しくなってくる。

興奮度★★
沈痛度★★★
爽快度★★
感涙度★★★★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 昭和19年秋。大津島基地隊の嵐部隊は海軍「回天」特別攻撃隊である。小型の特殊潜航艇に炸薬を積み、敵艦に体当たり攻撃をするのだ。予備学生出身の朝 倉少尉、玉井少尉らは関屋中尉の指導のもと訓練を行う。回天は極めて操作性が悪く、訓練中の事故死も多発した。
 そんな中、先に出撃して戦死したと思われていた村瀬少尉が帰還する。トラック島方面に出撃したが艇の不調で戻ったのだ。幹部らは村瀬が生きて戻った事で 士気が低下する事を懸念し、再度出撃させるが再び艇の故障で戻ってくる。玉井少尉らは純粋に喜ぶが、村瀬は複雑な心境だった。
 訓練中に朝倉少尉の艇が故障し浮上できなくなる。なんとか、浮上できた朝倉少尉は「生きているって素晴らしい」と実感するのだった。
 いよいよ、朝倉少尉らに出撃の命令が出、上陸休暇が許される。朝倉少尉は上陸せずに、基地にとどまる。学問半ばの哲学書を読んで過ごそうと考えたのだ。 下士官に体罰を受けていた年老いた当番兵田辺一水は元大学の教官であった。朝倉少尉は逆転した立場ながら田辺一水と語り合い、将来の日本を託すのだった。
 玉井少尉は上陸し、酒を飲むが他の隊員がするように女を抱く気になれなかった。そこに、玉井の恋人早智子が訪ねてくる。死に向かう玉井は忘れてくれと言 い放つ。しかし、次第に気を落ち着かせ最後の時間を過ごす事にする。
 朝倉少尉、玉井少尉、村瀬少尉、関屋中尉の4名はイ36潜水艦に搭乗して出撃する。基地の見送りを受けイ36は出航する。それを見送っていた早智子は入 水する。
 潜水艦の軍医は艦長より青酸カリを渡される。万が一艇が故障の場合には回天搭乗員に飲ませようと言うのだ。しかし、軍医は渡す事はできなかった。
 航行中に敵大型輸送船を発見。艦長は回天を用いることなく魚雷戦で轟沈させる。回天には敵戦艦や空母を狙わせてやりたいのだ。しかし、攻撃地点直前で敵 駆逐艦に発見される。危機にさらされた潜水艦だが、関屋中尉の志願で回天が発進して敵駆逐艦を撃沈する。
 いよいよ攻撃地点のアドミラルティー泊地に到達し、朝倉少尉らは回天出撃に意を固める。ところが、直前に艦隊司令長官より作戦中止の打電が入る。3人は 束の間生き延びた事に安堵するが、朝倉少尉が村瀬少尉に言うのだった。「おまえは、こんな状況を2度も耐えてきたのか」。
 しかし、潜水艦の電探員が泊地に空母や戦艦がいることを知らせる。艦長はこの機を逃すまいと回天発進を決意する。朝倉少尉ら3名は互いの手を取り合って 回天に搭乗する。玉井少尉は恋人の名を呼びながら空母に突入。村瀬少尉も駆逐艦に突入する。朝倉少尉の艇は水漏れのために敵艦に到達できずに着底。艇内に 溜まっていく水の中、朝倉少尉は小刀で「19年12月12日 1530 我未ダ生存セリ」と刻みつける。
 
(2005/12/15)

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