戦争映画の一方的評論
 
「「雲の墓標」より 空ゆかば 評価★★★☆ 学徒出陣の海軍特攻パイロットの苦悩
1957 松竹 監督:堀内真直
出演:田村高広、田浦正巳、渡辺文雄、岸恵子
105分 モノクロ


 数ある特攻隊映画の一つだが、そのうちでもストレートで実直な作りの一本である。阿川弘之の文学作品「雲の墓標」の映画化である。製作年代が古い点もあ るが、へたな小細工や枝葉の話をつけていない。また、50、60年代を境として見られなくなった美しい日本語と敬語による会話が心に染みる。ある意味、大 根役者というか、臭い芝居でもあるが、現代のような歯が浮くような臭さではなく、純朴な臭さなのだ。
 映画は旧制四高(現金沢大)の三人の学生が学徒出陣のうえ、海軍特攻隊員として敵艦に体当たりするまでを描いているが、特に目立ったエピソードや盛り上 がりがあるわけではない。しかし、先にも述べた実直で純粋な作りであるが故、随所に涙無くして見る事が出来ない箇所がある。学徒ゆえ学問への未練、残して きた家族や恋人への想いを断ち切っていくまでの過程に心が揺れる。ただし、特攻映画ともなると、どうしても学徒出身者を擁護するものが多く、予科練出身者 は暴力的に描かれるが、本作も若干その気はある。
 映像的には時代を考えれば致し方ないところだが、かなりチープさは感じる。軍装等の考証についてはさほど違和感はないが、兵器類ともなると心許ない。飛 行シーンや空中戦シーンのほとんどは模型による特撮だが、かなりチープ。特攻シーンは記録映像を使っている。何回か出てくる実機の地上及び飛行シーンは、 不可思議な迷彩を施したテキサンが登場。一応、設定が艦爆隊なので二人乗りである点は許されるが。また、上官が搭乗していく機体は模型だが双発機で銀河か なと思われる。
 映画中のエピソードで気になる点は、「あ号燃料」の話と「特攻信号」。サツマイモのアルコール燃料である「あ号燃料」でエンジンが止まって墜落してしま うのだ。また特攻信号の方は「敵戦艦発見 天皇陛下万歳」という信号を「ケタシタ? テバカタ?(映画中ではそう聞こえる)」と言っている。
 若き田村高広が美青年だ。恋人役の岸恵子はちょっと化粧が濃い?

興奮度★★★
沈痛度★★★★★

爽快度★
感涙度★★★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 昭和18年の冬、第四高等学校の級友である吉野次郎、藤倉、坂井の三人は予備学生として海兵団に入隊した。坂井は両親を早くに亡くし、肉親は姉一人だけ で源氏物語の研究をしていた。藤倉は実家が台湾にあった。吉野は両親共に健在だが、兄はすでに徴兵され南方に赴いていた。
 三人は土浦海軍航空隊に行き、山田大尉のもと基礎訓練に明け暮れる。やがて、単操縦訓練のため出水航空隊へ転属、さらに宇佐海軍航空隊に行き、三名とも 艦爆隊となる。その訓練中「あ号燃料」によるエンジン不調で若月機が墜落死する。三名とも戦争の意義に疑問を感じてはいたが、吉野は次第に命を捨てる事を 宿命と考え始め、二人と意見が食い違ってくる。そんな中、吉野はふらりとよった深井家の庭で令嬢蕗子と知り合、次第に恋心が芽生えていく。
 学徒出身兵は特攻隊員となる運命に、三人の心は激しく揺れる。ついに坂井も源氏物語を破り捨て、現世への未練を捨て去る。最後まで冷静だった藤倉は二人 の心変わりに落胆する。
 出水航空隊基地にかつての教官山田大尉がやってくる。燃料を搭載して山田大尉は飛んでいくがそれは特攻であった。いよいよ三名は少尉に任官される。それ は特攻隊員として認められた事を示す。しかし、出水航空隊に敵機の空襲が襲い、出水基地は撤収し、三人は宇佐航空隊に移動する。
 いよいよ学徒兵達にも特攻の日が近づいてくる。予科練上がりの兵達は学徒出身兵に精神がたるんでいると難癖をつけたがるが、同じ学徒兵である野本大尉が 止める。しかし、予科練の少年兵たちもまた人間爆弾桜花搭乗兵であり、藤倉は彼らの酒を飲んでやる。
 ついに、最初の特攻隊が組織される。しんのう隊に坂井少尉が割り当てられる。先に一人で行かねばならぬ坂井、吉野と藤倉は「先に行って待っててくれ」と 言うが、坂井は「でもな、是非ともおまえら来るな」と言って笑って搭乗していく。坂井は姉のことを想いながら敵艦に突入するのだった。
 坂井の突入を聞き、藤倉の心は揺れる。吉野も蕗子への想いを抱きながらもそれを断ち切ろうとする。二人は酒を酌み交わして冷静さを取り戻していく。そし て、野本大尉と共に吉野と藤倉は特攻機に乗り込んでいくのだった。
 
 (2005/07/11)

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