戦争映画の一方的評論
 
「スターリングラードからの医者 評価★★★ シベリア抑留のドイツ軍医の男気 
DOCTOR OF STALINGRAD
1958 西ドイツ 監督:ゲザ・フォン・ラドヴァニィ
出演:O・Eハッセほか  
102分 モノクロ

 第二次世界大戦が終結した後、スターリンのソ連は何年もの間捕虜を不正に抑留してきた。日本兵のシベリア抑留で多数の死者がでたことを我々はよく知って いるが、同様にドイツ兵も多くがシベリアに抑留されていた。
 この映画は、スターリングラードの激戦で捕虜になったドイツ兵のシベリア抑留の話である。

 戦争終結から4年もたった1949年、シベリアの収容所に多数のドイツ人捕虜がいた。過酷な環境下での過酷な労働によって半数近くが病気にかかっている 状態である。その治療にあたっているのがドイツ軍捕虜のフリッツ・ベーラー軍医大尉。彼は本国では優秀な脳外科医だった。しかし、ろくな医療器具も薬も与 えられず、手術も認められていない。しかも、冷徹な収容所のソ連軍女医カザリンスカヤ大尉は重病の患者ですら「労働可」として働かせている。また、彼女と 恋仲の警備隊マルコフ中尉も冷徹に反乱分子らを処罰していく。
 そんなある時、捕虜の一人が盲腸炎となる。緊急の手術が必要にもかかわらず、ベーラー大尉は執刀を許されず、ソ連軍のカザリンスカヤ大尉も内科医のため 執刀できない。ソ連軍外科軍医クレシン少佐の到着が遅れたため、ベーラー大尉はやむなくフォークやスプーンを使って無許可で執刀する。ベーラーは責任を問 われるが、ベーラーの技術を尊敬するクレシン少佐の取り計らいで事なきを得る。
 いよいよ一部の傷病兵の本国帰還が決まった。一方、、ベーラー大尉の部下ゼルノフ軍医中尉は次第にカザリンスカヤ大尉と恋仲になっていく。それを面白く 思っていないマルコフ中尉。追い打ちをかけるように、マルコフに密告していたドイツ軍捕虜がリンチで死亡した。怒ったソ連軍は本国帰還を延期する。ま た、、ゼルノフ、カザリンスカヤ、マルコフらは益々複雑な関係となっていく。そんな時、たまたまソ連軍収容所長の息子が脳腫瘍を患っていることが判明。こ れ以上の犠牲や帰還の遅れを危惧したベーラー大尉は、脳腫瘍の手術執刀を取引条件に本国帰還を進めさせる。
 そして、いよいよ第一陣の本国帰還でゼルノフ中尉の帰還も決まった。ゼルノフはカザリンスカヤ大尉ものとに最後の別れに訪れるが・・・・
 ベーラー大尉の帰還は遅れ、1958年に最後の兵として帰還する。

 結構、複雑な人間関係が入り乱れているので、ストーリーを的確には表現しきれなかった。大きくは2つのテーマがあると思われる。一つはベーラー大尉をめ ぐる男気と責任の行方。捕虜全体の生命をあずかる立場として、一人の人間としての尊厳を基調とするベーラー大尉と、兵士か医者かの立場に揺れ動くソ連軍外 科クレシン少佐の男気が美しい。もうひとつは、若者達の恋愛。ドイツ軍ゼルノフ中尉とソ連軍カザリンスカヤ大尉、マルコフ中尉の三角関係。決して、相容れ ない立場での愛と憎悪。
 最終的に何を意図していたのかは、最後のシーンではっきりわかる。帰還したベーラーが見た世界は、各国の軍備拡充の姿であった。先の大戦であれだけの苦 渋と苦難を与えられ、それをやっと乗り越えてきたのに、世界は何も学んでいなかった。そういった風刺が込められている。

 映像的には、ほとんどが捕虜収容所でのシーンだが、冒頭の方で爆撃機の空中分解シーンがちょっとだけ入る。実写なのか良くわからないが、結構インパクト があった。また、主演のO・Eハッセは相変わらず存在感のある役者である。ちょっと役が強すぎて、他の役者が薄れてしまい、全体のバランスがちょっと悪い かなという印象。

 なお、スターリングラードに関する映画としては「ス ターリングラード」「壮 烈第六軍ー最後の戦線」がある。また、ドイツのシベリア抑留を描いたものに「9000 マイルの約束」がある。

(2004/08/23)

興奮度★★★
沈痛度★★★
爽快度★★
感涙度★

 
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