戦争映画の一方的評論
 
「重臣と青年将校 陸海軍流血史 評価★☆ 張作霖爆死事件から2.26事件まで
1958 新東宝 監督:土居通芳  
出演:宇津井健、
細川俊夫、中山昭二ほか 
79分 モノクロ

 記録映画でもなし、ヒューマンドラマでもなし、歴史教育映画に近い非常に堅い作品。内容的には淡々と陸海軍の青年将校の血気盛んな行動を追い、どちらか というと不遇の青年将校を擁護する立場に近いかも知れない。しかし、とにかく登場人物が多いにもかかわらず、登場人物のテロップが出るわけでも、人物説明 が出るわけでもなく、張作霖爆死事件、満州事変、上海事変、5.15事件、相沢事件、2.26事件と事件の背景を良く知っていないと、何の事やらわからな い箇所が多すぎる。また、時間的には昭和3年から昭和11年までを扱っており、焦点が絞り切れていない。ちょっと盛り込みすぎの感がある。
 一応前半は関東軍の河本大佐、橋本中佐を中心に、後半は磯部大尉と安藤大尉を中心に据えてはいる。堕落した軍上層部、財閥、政治家の腰抜け施策に憤慨 し、国家改造、革命に燃える青年将校の熱い情熱だけは伝わってくる。情熱の空回りと、勘違いが悲しい結末を呼ぶのが切ない。ただし、もっと青年将校の心情 に突っ込んだ作りをすれば映画としては面白かっただろうと思う。本当に歴史教科書のような映画なのだ。
 登場する兵器類は陸軍戦車として、自衛隊のM24チャーフィー軽戦車が疾走している。航空機では記録映像と思われるが、三式初歩練習機?か九〇式初歩練 習機の陸上機仕様のような複葉機が登場するが機種名は良くわからなかった。

興奮度★
沈痛度★★★
爽快度★
感涙度★★

(以下あらすじ ネタバレ注意)
 
 時は昭和3年。陸軍強硬派は満州の利権を確保するため、国内軍部の制止を無視して対中開戦を目論んでいた。昭和3年6月、東宮大尉らの関東軍は満州鉄道 で、張作霖の乗る列車を爆破転覆させ張作霖を爆死させる。関東軍は中国人の仕業と仕組むが、国内外共に関東軍の仕業と露見していた。時の田中総理は関東軍 の出動を拒否し、首謀者の厳罰を意図するが、閣僚に反対され、軽度の処罰に止まる。
 昭和4年6月、田中内閣辞職。次期首相は浜口首相で陸軍大臣は宇垣となる。関東軍は、右翼大川周明と結託し、再び昭和維新を画策し、橋本中佐を首謀とし て浜口首相を狙撃、宇垣将軍に決起を促すが反対され、再び失敗する。
 これで収まらない関東軍河本大佐と橋本中佐は、昭和6年9月満州事変勃発と共に、再度軍政府樹立を画策。さくら会を中心に決起するが、担ぎ上げた荒木大 将に反対され、再び憲兵に取り締まられる結果となる。
 昭和7年2月上海事変が勃発。海軍陸戦隊の活躍を契機に、今度は霞ヶ浦航空隊の古賀中尉、三上中尉らが国家改造を目論み決起。陸軍の磯部大尉にも同調を 要請するが、先の失敗で改革派以外の勢力が多いために陸軍側は無理と判断する。海軍青年将校らは犬養首相を暗殺する5.15事件を実行する。しかし、これ も結局成功せず、三上中尉らは禁固15年の刑に罰せられる。ただし、この刑罰の軽さが後の青年将校らの増長につながっていく。
 昭和10年8月には相沢中佐によって軍務局長永田鉄山が殺される。これによって軍首脳部は、血気盛んな青年将校を有する第一師団を満州に派遣し、封じ込 める事を計画する。
 これを知った陸軍青年将校らは再び決起を思い立つ。第一師団の安藤大尉は周囲からの決起催促にしばらく思案するが、友人の藤野記者が憲兵に拷問死させら れたのを機に決起を決意する。昭和11年2月26日、2.26事件が実行される。決起は成功するが、決起上奏が届かず、天皇は決起軍を反乱軍扱いし、頼み の真崎将軍も翻意してしまう。ついに、勅命が下り、国賊扱いとなった決起軍の安藤大尉らは部下の下士官、兵を原隊に復帰させ、軍法会議の場で戦う事を決意 する。しかし、その軍法会議は弁護人もつかない暗黒裁判となり、首謀の6名は銃殺に処される。
 
(2005/09/20)

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