戦争映画の一方的評論
 
追撃機」 評価★★★ F86Fセイバー対ミグの空戦
THE HUNTERS
1958 アメリカ 監督:ディック・パウエル
出演者:ロバート・ミッチャム、メイ・ブリット、ロバート・ワーグナーほか
108分 カラー


 朝鮮戦争におけるF86Fセイバー戦闘機隊の攻防と、その隊員達にまつわる恋愛を描いたメロドラマ+アクション映画。朝鮮戦争を描いた映画としては比較 的古い部類に属するが、それだけに実機のF86Fセイバーがこれでもかと言うほど登場し、空戦モノとしても評価が高い。
 監督はあの「眼下の敵(1957)」の ディック・パウエルの最後の作品。主演のサビル少佐役はロバート・ミッチャムで、眼下の敵と同じメンバーだ。ただ、眼下の敵がシリアスに展開されるのに対 して、こちらはメロドラマが加えられている分、作品としては微妙。同じミッチャムでも「白い砂(1957)」の時の ような無骨さはなく、ちょっとスカした隊長役がいけ好かない。本作は108分だが、日本のTV公開版は71分に縮小されている。カットされているのは、メ ロドラマ部分が多くなっており、サビル少佐が部下のアボット中尉の妻クリスと恋仲になるという、不倫シーンが当時のお茶の間にはふさわしくないと判断され たのではないだろうか。カット版を見たことはないが、無駄な不倫と恋敵対決シーンがない分、すっきりとした空戦映画に仕立て上がっているのではないだろう か。
 映画の舞台はもちろん韓国・北朝鮮だが、司令部は日本の伊丹空軍基地にあり、日本の風景シーンも多数出てくる。登場する日本人の多くはしっかりとした日 本語は話しているが、「トコリの橋(1954)」 ほどではないが、服装や仕草に結構違和感がある。部分的には日本でのロケと思われるシーンもあるが、どうもアメリカの日本人街やセットでの撮影も多いよう に思える。韓国のシーンは不明。
 登場する航空機はもちろんF86Fセイバー。尾翼のチェッカーマークに黄帯の機体であり、第51戦闘迎撃航空団の戦闘機のようだ。(劇中ではK-13基 地の第54航空 群となっている。ちなみに、朝鮮戦争当時F86を運用していたのは第4戦闘迎撃航空団と、第51戦闘迎撃航空団であり、1952年から航空群が航空団と呼 ばれる。K-13基地は水原。)編隊飛行シーンなどでは8小隊ほどの30機以上が飛行機雲を曳いている勇姿も見ることが出来る。敵方(北朝鮮・中国軍)の Mig-15ファゴッ ト戦闘機に扮するのはF-84Fサンダーストリーク。F-84Gの改良型で米軍機では最もMigに似ているかも知れない。きちんと中国軍マーキングを施し ての登場である。F86Fとの空戦シーンもあり、少なくとも6機以上が登場している。しかも、F86の12.7mm銃に対して、Mig仕様のF84Fの方 は機関砲の発射音にしており、空戦モノとして考証もしっかりしている。このほか、輸送機として空軍仕様のDC-6輸送機が出てくる。いずれも、空軍の全面 協力というだけあって、実機の迫力は満点である。もっと、飛行シーンや空戦シーンを見たかったところだ。なお、戦闘機の着陸炎上シーンは実写が用いられて いるようだ。
 是非ともメロドラマシーンをカットして空戦シーンを付加したリメイク版を期待したい作品である。

<参考になる図書>
Fー86セイバー空戦記 Fー86セイバー空戦記 4FIGのF86パイロットの手記

興奮度★★★★
沈痛度★★
爽快度★★★
感涙度★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 1952年、第二次大戦の英雄サビル少佐(ミッチャム)は日本の伊丹空軍基地に降り立つ。最後の前線勤務として朝鮮戦争に参加したのだ。少佐はソウル経 由でK-13基地の第54航空群に配属となるが、その晩にバーで同僚のアボット中尉と対面する。前線の緊張から酒に溺れた中尉は酔いつぶれてしまい、少佐 はアボット中尉の変わりに待ち合わせていた女性と会う。彼女はクリスと言い、アボット中尉の妻であった。
 K-13基地についたサビル少佐はかつての戦友であり、現在の指揮官であるイミル大佐と再会を喜ぶ。翌日、ミグを11機落としたエースモンカページ大佐 を模擬空戦で負かし、腕が落ちていないことを示す。
 教化訓練のため一端日本に戻ったサビル少佐は、クリスと再会し食事をともにする。サビルはクリスに惹かれ始めていた。しかし、クリスは一線を画して固辞 し、逆にアボット中尉を少佐の隊に入れてやって欲しいと頼むのだった。
 少佐の隊にはコロナ中尉、アボット中尉、ペル中尉が列機となる。しかし、腕はいいが協調性のないペルの単独行動で分隊リーダーのコロナ中尉が被弾。着陸 に失敗して爆破戦死してしまう。責任を問うサビル少佐だったが、イミル大佐は逆にペルをリーダーに据える。
 ペルとサビルは出撃ごとにミグを撃墜。両者ともエースパイロットにのし上がる。一方、アボット中尉は撃墜できずに功をあせりはじめる。休暇で京都に戻っ たサビル少佐はクリスの元へ向かう。求愛するサビルだが、クリスは出会うのが遅すぎたと断り、再びアボット中尉のことを守って欲しいと頼む。
 アボット中尉はサビル少佐が恋敵であることを察し、妻を譲る代わりに、サビル少佐に敵側の7-11マークをつけたエースパイロット機への攻撃を要望す る。
 米、英、トルコ、ギリシャ軍の兵士18,000名が谷に取り残され、ブレイディ基地のC-119輸送機が物資投下を行うことになる。その護衛任務として 航空群のセイバーが総出動となる。この空戦で7-11機の攻撃でアボット中尉が被弾負傷し落下傘脱出。7-11機はサビル少佐が撃墜したが、サビル少佐は 敵地内に降下したアボット中尉を助けるために、自ら不時着。さらに、それを助けるために飛来したペル中尉も被弾して降下。
 3人は、敵軍の追跡をかわしながら南へ向かう。教会で助けてくれた朝鮮人家族は、北朝鮮軍によって虐殺される。3人はさらに南下していき、ついにギリ シャ軍の兵士と出会う。
 日本の病院へ戻ったアボット中尉のもとへ、妻クリスがやってくる。アボット中尉はアメリカ本土送還が決まっており、もう一度やりなおそうと語る。一方、 サビル少佐はクリスに帰って欲しくないと伝えるが、クリスの決意は変わらなかった。 

(2006/1/3)

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