戦争映画の一方的評論
 
「勝利なき戦い」  評価★★★★ 「朝鮮半島でのリアルな塹壕戦」 
PORK CHOP HILL
1959 アメリカ 監督:ルイス・マイルストン
出演:グレゴリー・ペック、ハリー・ガーディノ、ジョージ・シバタほか  
97分 モノクロ

 米陸軍L・A・マーシャル准将の実話小説に基づいた朝鮮戦争が題材の映画。登場人物も実名で登場する。監督は「西部戦線異状なし」で有名なルイス・マイ ルストンであるが、反戦映画として企画を持ってきたのは、主演のグレゴリー・ペック自身であったとか。世に反戦映画とは言われるものの、西部戦線・・・と 同様にストレートな反戦表現はなく、実に淡々と戦争の無慈悲さを映像で描いていく手法である。あえて言えば、中国軍との休戦協議をいかに有利に進めるかと いう国家的見栄による無意味な陣地争いが、末端の兵士の命を無駄に散らせているといった風刺だ。こうした無駄な戦略と、上層部の無理解というのは良くある 話で、戦争映画においてはよく取り上げられる題材である。ベトナム戦争ものでは「ハンバー ガー・ヒル」でも似たようなケースが描かれている。視点を変えれば、無駄・理不尽とわかってはいても命令に従わざるを得ない指揮官の苦悩でもある。戦場離 脱兵が次第に心変わりするシーンも印象的だ。はっきり言って、反戦と言うよりも戦場での友情物といった風合いが強い気がする。

 この映画の凄いところは、97分の映画中9割以上が戦場のシーンであるということ。ある意味、ここまで純粋に戦争映画である映画は他にあまり類を見な い。
 舞台は朝鮮戦争時のポークチョップヒルという変哲もない高地での中国軍と米軍の激戦であるが、ほとんどが塹壕線での銃撃戦シーンである。小銃と機関銃、 手榴弾以外は兵器らしき物は登場しない。実にシンプルで安上がりな印象だが、それはそれでリアル感を生み出す結果となっている。あえて、モノクロで製作さ れているのも映像のチープさを押し隠す意味でも生きている。

 主演はグレゴリー・ペック扮する中隊長だが、ちょっと映画中では浮き気味な感じ。存在感がありすぎなのですな。本作ではなんと言っても、副官に日系人が 登場するのが印象的だ。先の第二次大戦では日系人士官はほとんどいなかったのに対し、朝鮮戦争で登場するのがなんだか嬉しい。歩兵442連隊の生き残りか しら。朝鮮戦争なのに、朝鮮人が全然出てこないのも独特だ。また、中国軍のプロパガンダ放送役の独特のイントネーションの英語が妙に耳に残る。「ヘロー  ジーアーイ」

(以下ネタバレ注意)
 1953年朝鮮半島。北朝鮮と韓国の戦争は、米軍と中国軍の代理戦争の形となっていた。中国とアメリカは休戦会談を度々持つが、決裂している。米兵の間 にも休戦を待ち望む声が出るなど厭戦ムードすら出てきている。その休戦会談の手札として両軍はいくつかの陣地争奪戦を繰り広げていた。その一つがポーク チョップヒル高地だった。
 キング(K)中隊の中隊長クレモンス中尉(グレゴリー)は、イージー(E)中隊が守備していたポークチョップヒルの陥落を受け、大隊長デーヴィス大佐か らポークチョップヒル再奪取の命令を受ける。約100名の中隊を率いて、正面攻撃をかける計画で側面はラブ(L)中隊が守備することとなっていた。副官の オオハシ(*その後はスギと呼ばれている)中尉(シバタ)とともに、正面突破を図るも、中国軍に完全に読まれており、中国軍のプロパガンダ放送で恐怖心を あおられる始末である。
 多大な損害を出しながらも、塹壕線の一部を奪取するも、側面のラブ中隊が敵の攻撃に晒されて来ない。側面の守備がないままに司令所奪取のために前進をせ ざるを得なかった。よううやくラブ中隊が到着するも、ラブ中隊の残兵は12名に過ぎなかった。
 ようやく司令所を奪取し、予備隊として残しておいたC小隊を呼び寄せるが、新任のワルドフ少尉では心許なく、スギ中尉が指揮をとることに。しかし、ポー クチョップヒルを守備するには人員も、弾薬も食料も足りなくなっていた。
 大隊本部に増援と補給を頼むみ、ようやくクレモンス中尉の義理の弟であるラッセル中尉率いるジョージ(G)中隊がやってくるが、大隊の大佐は敵を撃破し たと勘違いしていたことにより、師団司令部からG中隊の撤退命令が出てしまう。取り消しを求めるクレモンス中尉だが、聞き入れられず、K中隊とL中隊の生 き残り25名だけでヒルの死守を命じられる。
 中国軍のプロパガンダ放送で降伏せねば大攻勢をかけるとの圧力に、一時は撤退を申し出るクレモンス中尉だが、大隊大佐は許可しない。もはやクレモンス中 尉らは死を覚悟し、中国軍の大攻勢を待ちかまえるのだった。
 その頃、休戦会談はまたもや決裂。米軍の将軍が言うのだった。「果たしてポークチョップヒルに戦略的な価値があるのか」と。

(2004/12/13)

興奮度★★★★ 
沈痛度★★★★
爽快度★★
感涙度★

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