戦争映画の一方的評論
 
「戦場のなでしこ 評価★★★ ソ連軍の慰安婦にされた日本看護婦 
 1959 新東宝 監督:石井輝男
出演:小畑絹子、三ツ矢歌子、大空真弓、宇津井健ほか  
78分 カラー

 日本軍に慰安婦にされたなどという映画は星の数ほどあるが、これは日本人看護婦が終戦後にもかかわらず、満州に侵入したソ連兵や中国人に無理矢理慰安婦 にされるという話。敗戦国である日本では、自国のこうした悲劇については「臭い物には蓋」で、語られることが少ないが、ソ連兵の強姦・殺人、中国人の掠 奪、殺人がひどかったことを題材にした貴重な映画である。きちんとした記録に基づいたドキュメンタリーではなく、あくまでフィクションではあるが、こうし た側面があったということも知っておくことは、公正な歴史観を考える上で大事なことであろう。というよりも、昭和40年頃まではこうした事実は半ば公然と 語られていたものの、それ以降はすっかりその事実すら隠されているのが逆に不思議である。
 戦勝国ならば何をしてもいい、敗戦国だから何をされても我慢すべきであり、いつまでも謝罪と補償を要求され続けて当たり前という論理が未だ一部にある が、戦争における戦勝国と敗戦国とは何なのかをじっくりと「日本的視点」で考える機会を与えてくれる映画だ。
 出演は三ツ矢歌子、若き宇津井健。演技はさすがに「臭い」が、これが伝統的日本活劇の姿と思えば、それはそれで味がある。ストーリーもいささか突飛な部 分もあるが、とにかく全般に悲壮感漂う雰囲気でカバー。そして、日本伝統の「肉体は朽ちるとも、精神は残る」的エンディング。日本人の思考・精神を如実に 現す究極の「美」の追求は、今や忘れ去られようとする日本人の心の原点でもある(ちと飛躍しすぎか)。

(以下 ネタバレ注意)

 1945年日本の敗戦とともに、満州にはソ連軍が日ソ不可侵条約を無視して侵入。満州にいた婦女子はソ連軍や中国人の暴力から逃れるために身を隠してい た。
 日本軍従軍看護婦だった女子30数名は救護所に身を寄せていたが、ソ連軍と中国人に徴用され、救護所で看護婦の業務をさせられるようになった。そこに、 軍医だった吉成(宇津井)が赴任する。日本軍に受けた仕打ちの仕返しとばかりの中国人の嫌がらせに耐えながらも看護業務を続けるが、ある時中国人の総務課 長が5人の看護婦を別の勤務所に派遣することを言い渡した。
 しかし、1ヶ月がたっても5人は戻らなかった。そこで、秀子ら5人が交替を申し出て勤務先に赴いたところ、そこは救護所ではなくソ連兵の慰安所となって いたのだった。5人も無理矢理にソ連兵の相手をさせられ、そのうち京子が監視の目を盗んで脱走。しかし、途中で銃弾を受け、元の救護所に着いて間もなく息 絶えた。
 京子の話を聞いて、吉成軍医は直接ソ連軍慰安所へ馬を飛ばし、夜までに戻らなければ死んだものと思ってくれと言い残す。一方、婦長の喜代子はソ連軍司令 部に直訴に行く。
 吉成はソ連軍の監視所を突破してソ連兵に真偽を確かめるが、逆に逮捕されそうになる。「また助けに来る」という言葉を残して命からがら脱出する吉成。そ の帰路の途中、ソ連軍司令官に話をつけた喜代子と出会い、再び慰安所へ。調査の結果、仲介役の中国人を逮捕射殺。秀子らは無事解放された。
 しかし、救護所では残された看護婦達が、帰ってこない吉成と婦長を死んだものと判断し、このまま慰安婦にされるのは「生き恥」だし、きれいなまま集団で 死ぬことを決意していた。
 ようやく、救護所に戻った吉成や秀子らだったが、そこにあったのは、死に装束できれいに両手を胸であわせた看護婦達の姿であった。
 
 母親を想い、子を想う看護婦達の死に様は悲しくつらい物がある。こういうエンディングは泣かせる。
 ただし、いただけないのは、吉成が慰安所に馬で突入するクライマックスシーンで、背景が突然雪景色になるところ。ええ、いつの間に雪降ったの?。ちょっ とお粗末な撮影だなあという箇所もあった。 

(2005/01/20)

興奮度★★★
沈痛度★★★★★
爽快度★
感涙度★★★★ 


DVD検索「戦場のなでしこ」  

DVD  2002/07/01 テックコミニュケーション\5,040