「あゝ 特別攻撃隊」 評価★☆ 予備学出身と兵学出の確執
1960 大映 監督:井上芳夫
出演:本郷功次郎、三田村元、野口啓二、野添ひと
みほか
95分 カラー
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日本海軍の特別攻撃隊を描いたヒューマンドラマで、予備士官と兵学校出の確執とともに、男女の悲恋を描いたもの。戦争末期の特別攻撃隊には多くの学徒出
陣による予備士官が駆り出されており、訓練中や特攻待機の際には、叩き上げの兵学校出の士官と熾烈な確執があったことが良く知られている。こうした確執を
描いた作品は多々あるが、たいていは学徒兵の予備士官を物腰柔らかく賢い人物として善玉に据えられるが、本作もその路線である。
また、1960年にしてカラー映画であるのは特筆できる。戦後15年ほどたち、戦争の記憶を辿る戦
争物が多産されている時期でもあり、カラーを採用する意欲は高く評価できる。だが、内容的には真面目に作ろうという意思は感じられるものの、資金や能力が
伴わな
かった残念作の部類に入る。
本作の主人公は海軍予備学生士官の野沢少尉(本郷)。野沢少尉は母校が浦和高等学校という設定で、井上監督の母校も浦和高校だそうだ。まさか自身をモデ
ルにしているということもなかろうが、主人公野沢の違和感はすさまじいものがある。その違和感は野沢少尉のしゃべり言葉で、馬鹿丁寧かつ坊ちゃん風なの
が、現代人にとってはかなり変。今風に言えば、「キモイ」かも(笑)。演じる本郷が舌足らずなのもあるが、台詞自体がクサく、「わたくし」調がずっと続い
ていくので、かなりテンションが下がる。反対に、対立する暴力的な小笠原中尉は、常に過激で「きっさまー」てな感じでやりすぎ。もうちょっと普通に演技
(演出)できなかったのか、舞台風すぎる印象。
もう一つ、野沢少尉の恋人令子(野添ひとみ)だが・・・あの化粧はないんじゃないかな。まるで白粉の化け物・・・。もしかもすると、年齢を偽っている
か・・・。もっと純粋な娘役メイクで演じて欲
しかった。まるで、心情移入できない・・・。
肝心のストーリーだが、、今一つ展開自体のつながりや設定が悪すぎて、盛り上がりに欠ける。ストーリーの根底を流れるべき特攻に対する悲壮感も今ひとつ
だった。唯一、女
房持ちの林少尉が特攻
する前日の夫婦のシーンだけはお涙ものだったが。この女房役の吉野妙子がこの作品では当たり役といったところか。
映像面では、戦闘機隊と言っていながら特攻機が複座式だったり、それが「テキサン」とモロバレなのはちょっと寂しい。まあ、動く実機を探してきたらこれ
しかなかった
というところだろうが、それもほとんどが地上滑空シーンばかりで、ラストにようやく3機が編隊で飛ぶ程度。ちょっとお粗末。また、令子が空襲で死
ぬシーンだが、外に飛び出した令子を直撃したのは手榴弾程度のものが数発。なんじゃそりゃ。いくらなんでもお粗末すぎる。
蛇足で最後に・・・。野沢少尉の兵舎に令子が出没するシーンがある。野沢は幻かと思っていたが、会いに行った先で令子が「先ほどわたくし野沢さんのとこ
ろへいきたいと、そればかり念じてお
りましたですの」。それって幽体離脱ではないかぁ・・・。オカルト映画だったのか・・・。
ということで、坊ちゃんしゃべりと怖いモノ見たさなら是非どうぞ。
興奮度★★
沈痛度★★★
爽快度★
感涙度★★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
海軍予備学生士官野沢少尉(本郷)は、休暇
中に母校の浦和高等学校の図書室で古本屋の娘令子と知り合
う。二人は文通で親密になっていく。戦局が悪くなり、野沢少尉の乗り込むべき空母も撃沈され、野沢少尉は里浜の302航空隊に転勤する。そこには海軍兵学
校での小笠原中尉(三田村)がいた。小笠原は娑婆っ気の抜けない野沢ら予備学生を事あることに罵倒する。
戦局はさらに悪化し、1944年10月から
神風特別攻撃隊が出撃するようになった。野沢らの隊も特攻部隊に編成され、小笠原中尉、野沢少尉らもいよいよ出
撃が決まった。野沢は会いに来た母親をいたたまれずに早々に追い返してしまう。そして、女房持ちの林少尉がいち早く出撃。野沢は最後の休暇で令子に会いに
行くが、目の前の爆撃で令子は死んでしまう。基地に戻った野沢の目の前で米軍の爆撃が始まり、特攻機が次々に破壊され、小笠原中尉は怪我をする。残った3
機で特攻を決意し、野沢は機に乗り込むのだった。
(2004/07/13 2010/5/29一部修正) |
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