「三八線上」 評価★ 三八度線、停戦ラインの米中情報戦攻防
On the
38th Parallel
1960
中国八一電影 監督: 史文幟
出演者:王伯玲 張良ほか
74分 モノクロ
初めて中国映画DVDを購入。とりあえずはきちんと映ったが、パッケージケースが凄い悪臭で閉口。いや閉鼻。子供の頃、下町の工業地帯で嗅いだような機械油のような臭い。まあ、それはともかく、字幕は中文繁体と中文簡体、英語の3種類。繁体は比較的文字面で理解しやすいが、それでも細かい表現になるとわからない。英語はかなり省略されてはいるが、逆にわかりやすくなっているのでお勧めだ。
本作は朝鮮戦争後間もなく作られた抗米的映画だが、その根底にあるのはやはり抗日であった。アメリカもよそ者の泥棒扱いだが、その原因を作ったのも、アメリカと戦う気力を奮い起こさせているのも日本という位置付けなのである。本来、本作の作意は援朝親北の風潮づくりと中国人の人格と行動美化にある。しかし、抗日を根底にしておかないと、決起戦う意識も、中国人の美化も成り立たないということがありありとわかる。そう言う意味で、日本人からすると不快だが、逆にここまで徹底的に誤解、固執されると滑稽ですらある。
舞台は題名通り三八度線であるが、1953年7月の停戦協定前後の設定のようだ。すでに、三八度線では停戦状態にあり、米中両軍の情報戦模様と化している。米側が停戦を無視してスパイを送り込み、それを阻止して赦免する中国側の技能と懐の深さを声高らかに鼓舞するのだ。
演じているのは中国人民解放軍兵士と火戦文工団で、合唱は中央兵団合唱隊。もちろんアメリカ軍側も中国人が演じている。いわゆる二世かバター顔の中国人を配役しているのだろうが、とにかく滑稽。演技もしかりだが、中国人がアメリカ人をどのように見ているのかが良くわかる。アメリカ人を笑い物にするのが意図ということなのだろう。一方、中国兵と北朝鮮兵は軍服の違いで見るしかない。
中国抗日映画の特徴は、女子供を前面に出して悲壮感を醸し出す手法にあるが、本作も北朝鮮人叔母さん(オムニ)が準主役級として活躍する。感情的で敵意むき出しの表現は、中国・朝鮮特有のものだが、本当に鬼の形相とでも言えよう。驚くのは意図せず敵となっていた実の息子に対して、「おまえなど息子ではない」と冷たく言い放つシーンは、母親の愛情など微塵も感じられない。日本なら、オロオロしつつも息子に駆け寄るシーンだと思うのだが、こう言うところに文化の違いを感じる。
米軍が利用するスパイの親玉は日本人「山本太郎」(爆笑)。善良な中国人を生き埋めにし、女を拷問の上木にくくりつけて火を付け、幼い子供を略取するという、極悪日帝の戦犯ということだが、意地でも日本人を悪者にしなければ気が済まないようだ。出っ歯で禿頭の風貌は中国の日本人像なのだろうか。
ストーリー的にはかなり稚拙。設定も編集も杜撰で、都合の良い中国万歳場面をつなぎ合わせているようなもの。従って、アメリカ軍側の企図もスパイが求めている情報内容も明確に理解できない。本作の制作意図からは、そんなことどうでもいいのだろうが、映画としては致命的欠点。さらに、中国人を美化するシーン展開がかなり前から読めてしまうのでちょっと興ざめ。一方、中国らしさという点では、幾度か挿入される踊りのシーンがいかにも京劇調であったり、挿入音楽が中国風な点。
撮影はかなり狭い範囲で行われたようで、司令部家屋内、民家と三八度線の山間地のセットしか登場しない。いわゆる中国版低予算映画と言える。戦闘シーンも冒頭のプロローグ的シーンのみ。ただ、このシーンだけは爆薬使用で人海戦術などそれなりに激しい。一瞬だがT-34/85戦車の進撃シーンも映る。ちょっと期待させておきながら、あとは一切無しというのも残念だった。
もっと対アメリカ戦に奮闘する中国軍の姿を期待していたのだが、面白くもなんともない映画だったし、何かというと中国美化に走って、胸を張っている姿にも辟易。
カチューシャがバンバン飛ぶ
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T34/85が何台も・・・
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勝利で喜び合う中国・朝鮮指揮官
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絶叫するオムニ(おばさん)
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ちょっと怪しげな米軍大佐と女兵
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おまえなど息子ではないと突き放す
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母に冷たくされて指を噛むボクちゃん
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布きれで仕切られた三八度線
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そうです私が日本人山本太郎です
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寄せ集め人種の米軍
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興奮度★
沈痛度★
爽快度★
感涙度★