戦争映画の一方的評論
 
「謎の要人悠々逃亡 評価★★★☆ ブラックユーモアで描いた収容所脱走
VERY IMPORTANT PERSON
1960 イギリス 監督:ケン・アナキン
出演:ジェームス・ロバートソン・ジャスティス、スタンリー・バクスターほか  
98分 モノクロ
 
 邦題がなんとも映画らしくない感じなのだが、意外と巷ではこのストレートな邦題が受けているらしい。第二次世界大戦を背景にしてはいるのだが、戦闘シー ンや死者は全く出ないブラックユーモアがきつく効いた脱走劇。どちらかというとヒッチ・コックの映画のようなサスペンス的な感じがしないでもない。
 ストーリーは、いわゆる謎めいた「要人」が戦争に巻き込まれ、敵国(ドイツ)の収容所から脱走する話なのだが、邦題にあるとおり「悠々」逃亡するのが痛 快なのだ。主人公である「要人」の風貌や演技がとにかくインパクトがあり、最期までそのテンションが切れることなく続く。ほとんど笑うことなく、無愛想な 主人公であり、最初はとっつきにくい印象が強いのだが、最後の最後にはそれも愛着がわいてくるのは不思議だ。ただ、奇想天外な脱走劇であるがために、収容 所内での脱走資材の調達など設定には若干無理がある。
  先にも述べたが、戦闘シーンが出てこない上、背景となっている戦争についても解説はほとんどないので、戦争ものとして見るといささか物足りない。しか し、あえて戦争の背景をカットしているがために、登場人物に没入できるのであろう。奇抜な映画として、映画史に残る一作品である。 

興奮度★★★
沈痛度★★
爽快度★★★★★
感涙度★

(以下ネタバレ注意)
 
 戦後、著名なイギリスの科学研究所所長アーネスト・ピーズ教授は、彼の人 生を振り返るバラエティテレビ番組に出演していた。しかし、教授は元来より偏屈な堅物であり、母親が出てきても、大学時代の友人が出てきても不快な顔しか しない。次に登場したのはイギリス軍のビッグス将軍だった。しかし、ピーズ教授は面識がないという。
 ビッグス将軍は、戦時内閣の戦時機密に関して面識があるのだと語り始める。(フラッシュバック)

 1942年8月、応用航空科学の権威であったピーズ教授の下に、当時少佐だったビッグスが戦時機密を携えてやってくる。ピーズはビッグスには目もくれな かったが、機密書類に目を通すとシャルストンビー空軍基地に赴いた。戦時内閣はピーズ教授が開発中の新装置の実験を行うことを要請したのだ。
 実験は空軍機でドイツ上空に飛んで実験を行うというものであり、ピーズ教授は正体を隠すためファローという名と、空軍中尉の階級を与えられた。しかし、 ぼうぼうのあご髭づらのピーズ教授では、髭禁止の空軍の規程に反してしまう。そこで、苦肉の策でピーズ教授は髭がOKの海軍中尉となった。
 第408飛行中隊の機でドイツに飛んだ教授だが、ドイツ軍の対空砲火で輸送機の腹に穴が開き、教授だけがドイツ領内に落下してしまった。こうしてピーズ 教授はドイツ軍捕虜収容所に収容されてしまうのだった。
 あらかじめ、情報部から捕虜になっても「ファロー海軍中尉」としか話してはいけないと言い聞かされていたうえ、偏屈で堅物な性格さから様々なところで問 題を起こすことになる。
 収容所では元々軍人ではないために、横柄な態度で顰蹙を買う。しかし、ピーズ教授は早く本国に戻らなくてはと脱走計画を大真面目に考えている。36号室 で同室となったクーパー、ベインズ、エバレットらは密かに地下トンネルを掘っていたが、異様な雰囲気のピーズ教授を信用していなかった。
 ある時、ドイツ軍収容所長スタンフェル少佐を怒らせてしまったピーズ教授は独房に入れられる。ピーズ教授は早期に釈放されたが、同時に所長の査察が入っ たことで、ベインズらはトンネルを密告したのではないかと強く疑い詰め寄る。その時、捕虜脱走委員会にチャーチル首相から「至急ピーズ教授を本国に脱走さ せること」との暗号指令が入る。捕虜収容所中が脱走計画に協力することとなり、ピーズ教授が何者なのかと驚くが、教授本人は平然として脱走計画を練るの だった。
 ピーズ教授が考えた脱走計画は、スイス赤十字委員会の査察にあわせてスイス人委員に変装して脱走するというものだった。あまりにも大胆な方法に成功をい ぶかしがる向きもあったが、ピーズ教授は大真面目。服装や道具などの資材を調達し、エバレットは収容所長スタンフェルト少佐に化け、ピーズ教授とベイン ズ、クーパーの3人がスイス委員になりすまして脱走は成功するのだった。
 本国に戻った教授は、ちょっと散歩に行ってきたかのように何食わぬ顔でまた業務に戻るのだった。しかし、そこには前のように堅物なイメージが消えつつ あった。(現在のシーンに戻る)

 テレビ番組は佳境に入る。ビッグス将軍の後にやってきたのはオーストラリアでデザイナーをするベインズ、インドの伝道師となったクーパー、イギリスで葬 儀屋を営むエバレット、そして一流の芸人となったスタンフェルト所長であった。やっと笑みを浮かべたピーズ教授と彼らは堅く握手を交わすのであった。

(2005/03/03)


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