「パレンバン奇襲作戦」 評価★★ マレー精油所奇襲作戦の落下傘
部隊
1963
東映 監督:小林恒夫
出演者丹波哲郎、江原真二郎、織本順吉、今井健二、山本麟一、岡田真澄ほか
94分 モノクロ
1942年2月14日、マレー半島のパレンバン制圧のために、日本陸軍の第一挺身団(落下傘部隊)約430名が奇襲降下し、パレンバン飛行場、精油所を占拠、成功を収めた作戦を題材にしたもの。パレンバン降下は太平洋戦争緒戦の快進撃の中でも晴れ晴れしい活躍であり、この作戦を描いたドラマ、ドキュメンタリーは多い。しかし、本作はその晴れ晴れしい活躍の陰で先兵となって決死の降下を果たした小部隊を主役に据え、やや悲壮感を感じる作りとなっている。陸軍中野学校の隊員が降下に参加したことは知られているが、本作のように先行降下した部隊があったというのはフィクション設定だろう。
主役はもちろん丹波哲郎。すでに独特のオーラを醸し出しており、他の役者とは存在感が全く違う。丹波さんは民間人(軍属)役として登場するが、もし軍人役だったら上下階級関係などがまるでブチ壊れてしまうだろう(笑)。この当時はまだ眼光がさほど鋭くなく、お茶目なシーンも多いのが楽しい。このほか若き岡田真澄も蘭印ハーフ役で登場するが、とにかく本作は戦争という題材を借りた、東映スター物なのだ。シリアスなストーリー展開ながら、随所に格好良いセリフ、決めゼリフなど、東映スターの大喜利が散りばめられている。
内容的には、パレンバン戦勝を賛美するようなものでもなく、むしろ丹波扮する砂見軍属の「俺は軍人じゃない」というセリフが何度も繰り返され、反戦的姿勢が色濃く出ている。では、反戦的映画かというとそうでもない。殺人は嫌だけど、結局は仲間のために戦っちゃうわけで、そこに恣意的な思想はないと言える。やっぱり東映スター映画なのだ(笑)。
撮影は国内で行われたと思われるが、歴史考証やリアルな映像追及はかなりいい加減。落下傘降下では輸送機シーンが不可欠なわけだが、カーチスC-46Dコマンド輸送機の実機が5機も登場するかと思えば、なんともチープな特撮もある。C-46Dは1955年から1957年に空自が米軍から供与を受けた機体で、胴体に日の丸が記され「61-1128」「51-1118」「51-1122」「51-1106」「51-1116」のシリアルNOがわかる。97式輸送機のつもりなのだろう。尾翼上端には黒色の識別帯が入り、マーキングは黒で「Q」に似たようなものが描かれている。どこの部隊か調べてみたがわからなかった。一方、特撮の模型には九七式重爆もどきとC-46輸送機もどきが登場するが、飛んでるんだか止まってるんだかわからない。東映特撮陣のやる気が全く見られない。というか、スタッフ見たら特撮監督っていないのか・・・
地上のオランダ軍では戦車が登場するが、なんとM-24チャーフィー軽戦車。車輌no「90-0325」。まあ、当時の日本には陸自のこれしかなかっただろうから仕方ないにしても、ちょっとねえ。せめて装甲車クラスにして欲しかった。
また、パレンバンの山地だというのに、きれいに舗装された道路というのも・・・。しかも、どう見ても白バイのオランダ兵が何台も。時代感覚がちょっと麻痺しそう。まあ、この辺は許すにしても、戦闘シーンや日本兵のシーンはいただけない。拳銃やナイフで格闘するのだが、「ぎゃーやられたー」と言わんばかりののけぞりや、刺されるまで待ってます的演技がひどずぎる。演武指導はなかったのかな。加えて、本当に日本人の製作かと疑うぐらい日本軍の突撃シーンはひどい。まるで、某隣国の作った抗日映画のようなヨタヨタ突撃にバンザイ戦死。いいのかこれで・・。
この他、本作は意外に残酷なシーンも多い。平気で現地民を殺してしまうし、オランダ軍が高射砲や機関銃で落下傘降下中の日本兵を撃ち殺すシーンも見るに堪えない。多分、あまり他意ははないのだと思うが、こういう表現でも許される時代性だったのだと実感させられる。ラストは「空の神兵」の歌で締め。それもちょっと違和感があるのだが。
流れで見ればそこそこ面白いし、戦友との友情に感銘することもあるのだが、いかんせん戦争映画としては戦史的に内容が乏しい。繰り返すけど、やっぱり東映スター映画なのだね(爆)。
興奮度★★
沈痛度★★★
爽快度★★★
感涙度★