戦争映画の一方的評論
 
太平洋の翼」 評価★★ 精鋭が集められた343空の紫電改
1963 東宝 監督:松林宗恵 特撮:円谷英二
出演者:三船敏郎、加山雄三、夏木陽介、佐藤充、渥美清ほか
101分 カラー


 大戦末期の本土決戦を前に、各地の精鋭を集めて結成された海軍第343航空隊(紫電改装備)を描いたアクション映画。実際の343空の301飛行隊(新 撰)、407飛行隊(天誅)、701飛行隊(維新)の飛行隊長(菅野、林、鴛淵大尉)をモデルにしてはいるが、核心となる部分はほとんどフィクションであ り、しかもちょっとあり得ない設定は娯楽活劇アクションという位置づけである。どうせなら、もっとリアルに仕立て上げて欲しかったが、1960年代の加山 雄三、石原裕次郎などの青年スターのための映画のようなものなので、致し方ないのだろうが。
 個人的には、加山雄三、佐藤充が出てきた時点で戦争映画の期待はしないことにしているのだが、本作も加山雄三の鼻にかかった芝居が、戦争映画の醍醐味を 見事にぶち壊している。血色の良さ、現代口調、傲慢な演技、どれをとっても雄三映画の芝居でしかない。
 一方、佐藤充は「あゝ陸軍隼戦闘隊(1969)」の加藤中佐役はそこそこだったが、彼の破天荒な役作りのために、本作もあえて無茶苦茶な設定が多くなさ れている。米軍魚雷艇を奪い取って、パイロットのみで操縦して駆逐艦に魚雷攻撃までしてしまう。そこまでしてしまうと、さすがに日本版マカロニウエスタン と言わざるを得ない。だが、実は、この設定は渥美清が出ている事で救われている。ボケ役で戦艦大和信奉者である兵曹役なのだが、掛け合い漫才のような会話 で、楽しいコメディが盛り込まれている。
 以上のように、メインでは紫電改での消耗的空戦の悲劇を描きながら、加山雄三の若大将ぶり、佐藤充の破天荒アクション、渥美清のコメディと実に盛りだく さんの内容だ。これでは、本作の主題もわからないし、ラストに加山雄三が米軍機に向かって「日本の空から出てけー」と叫ぶシーンも感動はおろか、駄々っ子 にしか見えないというお粗末さにつながっている。B級アクションならそれに徹するし、コメディなら全編コメディにした方が良かったのではないかな。
 特撮映像は円谷監督が務める。ミニチュア戦艦大和と紫電改、コルセア、サンダーボルト、B−29の編隊飛行と空戦シーンが主だったものである。円谷特撮 だけあって結構な出来映えだが、素晴らしいというほどのものでもない。離陸シーンも、秀逸なものとそうでないものが混在し、資金的には余り力が入れられて いないのかなあという印象。ただ、気になったのは潜水艦と駆逐艦の映像。かなりリアルに見えるのだが特撮だろうか。
 この他、実物大として潜水艦浮上状態と駆逐艦前方部、米魚雷艇が出てくる。登場シーンがさほど多くないにも関わらず、しっかりとした作り込みで、チープ 感はあまり感じない。
 ストーリーには脚色がされているので、史実とは異なるが、それでも全体的には343空の理念のようなものは伝わってくる。決して死を急がず、本土制空戦 のために戦力を温存するのだ。特攻隊を出さなかった部隊でもあり、その辺りの位置づけは良くわかる。
 感動したというか、格好よかったのは、戦艦大和の特攻出撃を見捨てる事ができず、命令に背いて支援に向かった紫電改3機が、低空パスをしながら問われた 官氏名を返答するところ。その1機には戦艦大和が大好きな丹下兵曹(渥美清)も含まれている。大和乗組員からすれば、感激の一コマである。

興奮度★★
沈痛度★★★
爽快度★★
感涙度★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 昭和20年、日本の敗戦色も濃くなってきた頃、海軍軍令部では1機1艦必殺の特攻攻撃が推進される。しかし航空参謀千田(三船)は、精強な航空隊を再編 成し、本土防衛の任務につかせ、制空権を奪回するべきだと主張する。軍令部次長は、特攻攻撃の継続を明言しながらも、千田の意見を取り入れる事にする。
 千田は海軍の零戦に変わる新鋭機紫電改を装備した第343航空隊を結成する。その麾下の3飛行隊には南方で生き残っている優秀な搭乗員を呼び寄せる事と し、301飛行隊長にはフィリピンで陸戦隊として行動中の瀧大尉(加山)、407飛行隊長にはラバウルの矢野大尉(佐藤)、701飛行隊長には硫黄島の安 宅大尉(夏木)を指名する。
 硫黄島の安宅大尉は潜水艦での脱出を試み、敵哨戒機や哨戒艇に阻まれて次々に戦死者を出すが、何とか本土に帰還する。
 ラバウルの矢野大尉は飛行機もなく安穏と日を過ごしていたが、芋泥棒を働く丹下兵曹(渥美)らとともに、米軍魚雷艇を奪取して島を離れる。途中で日本軍 駆逐艦を誤って攻撃してしまうが、なんとか帰還する。
 フィリピンの瀧大尉は輸送機での脱出を図るが、陸路と機上で次々に部下を失う。燃料タンクに被弾した輸送機上で、少しでも荷を軽くするため、瀧大尉は非 情に部下の遺体を放棄する。
 松山に終結した343空では、敵艦に向かう特攻隊をよそ目に、敵空襲からの待避活動を続ける。というのは、本来の目的は敵戦闘機との交戦による制空権奪 回であり、敵爆撃機は目的外なのだ。特攻隊員からの罵り等を受け、いらだつ隊員らだが、ついに敵戦闘機隊との対決の日がやってくる。この交戦で撃墜63 機、未帰還被害17機の大戦果をあげるが、これに気をよくした軍令部は343空の受け持ち範囲を拡大させる。この結果、3飛行隊が分散して運用される事と なり、本来の能力を発揮できなくなっていく。
 407飛行隊長の矢野大尉は丹下兵曹の機体を借りて迎撃に向かう。しかし、被弾して機体はなんとか戻したものの戦死してしまう。それに怒った瀧大尉は単 機で空に上がるが、敵機に囲まれてしまう。そこを助けたのは千田司令であった。千田は勝手な行動を叱責する。
 戦艦大和が片道燃料で特攻に出撃する。千田司令は343空全機に支援に向かわせるが、0800にはどんな事があっても引き返せと厳命する。しかし、戦艦 大和に惹かれる丹下兵曹は、どうしても見捨てる事が出来ず、命令を破る。同じく安宅大尉、稲葉上飛曹、永野二飛曹らが追随し、大和と運命をともにする。
 たった一人残った隊長、瀧大尉は敵襲に迎撃するが、列機は皆撃墜され、瀧大尉の眼下にはB-29の編隊があった。千田の引き返せとの命令を無視して瀧大 尉は「日本の空から出てけー」と叫んで体当たり攻撃を仕掛けるのだった。

(2005/12/05)

DVD検索「太平洋の翼」を探す(楽天)