戦争映画の一方的評論
 
「大列車作戦 評価★★★★ 名画を死守する鉄道レジスタンス
THE TRAIN
 1964 アメリカ 監督:ジョン・フランケンハイマー
出演:バート・ランカスター、ポール・スコフィールド、ジャンヌ・モローほか
131分 モノクロ


 第二次世界大戦時、ドイツ軍によるパリからの名画輸送を、フランス鉄道レジスタンスがあの手この手で阻止しようとする映画。タイトル からして、アクション映画のようなイメージを受けるが、確かにそういう場面もあるのだが、意外とシリアスな社会派ドラマだったりする。
 あえて、モノクロにしたのが良かったのか知れないが、列車シーンなどは実写中心で迫力ある映像だし、ストーリーにもアクションのみならず、トリックを用 いたサスペンス要 素が十二分に加味されており、ハラハラし通しだ。加えて、原作が実話を元にしたものであることから、史実に沿ったリアリズムが加味され、レジスタンスの悲 壮感や涙を誘うラストシーンまで実に多彩な側面をもっている。これらが、互いを損なうことなく、131分の間にうまく収められているのが不思議なくらい だ。
 また、戦争という背景を通して、毒々しいほどのヒューマンドラマも盛り込まれている。異常なまでに絵に執着しドイツに絵を移送しようとするドイツ軍大佐 と、たかが絵を守るために何人もの命が失われる事に懐疑心を抱く鉄道レジスタンスの二人の心の葛藤と駆け引きがうまく表現されている。特にラストシーンに その極限を見る事が出来、私にとってはかなり上出来のエンディングであった。また、ホテルの女主人、実直な機関士、修理担当のドイツ軍少佐など、個性的な 登場人物が物語に華を添えている。単なるドイツ軍批判や、レジスタンス賛美になっていないところがいい。
 
 登場する兵器類は少いが、撮影にフランス鉄道、フランス軍の全面協力があっただけあり、鉄道シーンは破格の力の入れようだ。蒸気機関車の走行シーンはも ちろん、缶焚きや連結、ポイント切り替え、脱線、激突など、実にリアルな映像は見事だ。また、主人公が行う部品修理やレールをはずすシーンなどは、そこま で忠実でなくてもと思うくらい忠実に描いており、自分がやっているかのような錯覚に陥るほどだ。
 蒸気機関車の型番は知らないが、衝突シーンも本物だ。何トンもある機関車が衝突して引きずられるのは圧巻としか言いようがない。貨車や建物の爆破シーンも本物を爆破しており、迫力満点。装甲列車も出てくるが、こちらはハリボテ工作だとか。この他、偽装した列車 積み荷に、ティーガーII戦車ポルシェ砲塔らしきものが見えるが、ハリボテだろう。
 航空機は英軍戦闘機(スピットファイア)と爆撃機(マーチンBー26マローダー)が出てくるが、どちらも本物の実写だ。スピットファイアの方はヘリから の撮影で、機体からの撮影シーンもすごい。爆撃機は実際に5機を超低空飛行(地上9m)で飛ばせているのが大迫力。フランス人パイロットだそうだ。
 このほか、最後の方で退却するドイツ軍車列の中に、トラックの他にキューベルワーゲン、米軍のものと思われる重車輌、6輪装甲車が出てくる。6輪装甲車はM8グレイハウンドではないかと思われる。いずれも、第二次大戦時の車輌で、動かすのが大変だったとか。
 合成や特撮、CGに頼らない、大変な労苦が忍ばれる映画だが、それだけの迫力は十分に感じることが出来る。

 
興奮度★★★★★
沈痛度★★★★
爽快度★★★
感涙度★★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 1944年8月2日のパリ、ジュ・ドボーム美術館。パリがドイツ軍の占領下となって1511日目のことである。ドイツ軍のウォルトハイム大佐がやってく る。占領にあたってピカソなど著名な絵画を焼き払わなかったことを感謝する女性館長のビラー女史だが、意外な事に大佐は絵画を全てドイツに移送すると言い 出す。連合軍によるパリ奪還が近づいている事を知り、絵画の価値を知っている大佐はドイツへの持ち出しを意図したのだ。
 フランス国有鉄道パリ駅のリーダーであるラビッシュは、レジスタンスの一員であったが、ビラー女史から絵画の移送をなんとか阻止して欲しいと頼まれる。 英国本部も、フランスの国宝である絵画をドイツに移送させないようとの意向である。しかし、すでに18人いたレジスタンスが3人になっており、ラビッシュ は「たかが絵のためにこれ以上人の命を無駄に出来ない」として一旦は断る。しかし、絵画の価値は理解できないが、絵画がフランスの国宝であり、フランス人 のプライドであると聞かされ、ラビッシュは絵画の鉄道移送の妨害工作を始めることに。
 一方、ウォルトハイム大佐は絵画移送用の列車がなかなか確保できない事にいらだち、西部方面指揮官のルビッツ将軍に絵画の貴重性を直談判して、列車を確 保する。ただし、戦局が悪くなればキャンセルさせるとの約束だが。
 
 絵画輸送列車は出発前にルビッツ将軍から中止命令が来るが、ウォルトハイム大佐は無視して列車を出発させる。これに対して、英軍が朝10時にベア駅を爆 撃するとの情報で、ラビッシュはベア駅の構内作業の妨害工作を図る。10時になり、英軍の空爆が始まるが、絵画を乗せた機関車の運転士パパ・ブルは愚直な あまり、ラビッシュの意図を無視して爆撃の中を突破してしまう。しかし、実はパパ・ブルもレジスタンスとしてオイル管にコインを入れて、機関車を故障させ るのだった。機関車は故障したが、コインを入れた事がばれ、パパ・ブルは射殺されてしまう。ラビッシュはウォルトハイム大佐に部品の修理を命じられ、しか もパパ・ブルの代わりに機関士を命じられる。
 ドイツ軍の修理部門担当のヘレン少佐は、横暴なウォルトハイム大佐に苛立ちを覚え、日中にもかかわらず、修理の終わった機関車を出発させる。その途中、 ラビッシュらの操作する機関車は英軍機の攻撃を受ける。
 
 ラビッシュは結局ウォルトハイム大佐からドイツまでの運転を命じられる。しかし、その頃には壮大なスケールの妨害工作が計画されていた。メス駅以外の駅 長には全て連絡がさなれていたが、メス駅の駅長は真面目すぎてラビッシュからの直接命令がなければ言う事を聞かなかった。ラビッシュは、メス駅に電話をか けるため、宿泊していたホテルから抜け出して駅長室に潜入する。しかし、運悪く入ってきたドイツ兵を殺害せざるを得なかった。ラビッシュが臭いとにらんだ ウォルトハイム大佐だが、ぎりぎりでホテルに戻ったラビッシュはホテルの女主人に助けられる。しかし、女主人はレジスタンスの勇敢な行動には批判的であっ た。
 列車はドイツ国境のサンダーボール駅で連絡を入れろとの命令で出発する。順調に列車は進んでいくが、途中で列車は迂回を始める。一瞬は訝しがるドイツ兵 だが、通過する駅名が正しい事を見て納得する。実は、駅名看板を入れ替えていたのだ。次々と通過する駅もみな同じように偽装し、ついにサンダーボール駅に 到着する。ここは実はコマシー駅なのだが、警備のドイツ兵もレジスタンスが化けており、まんまと同乗するドイツ兵らは騙される。すっかりドイツ領内に入っ たと勘違いしているドイツ兵だったが、実は列車はぐるりと迂回してもとのベア駅に戻ってきていたのだ。

 ベア駅では、駅長ジャックと機関士ペスケの策略で機関車を脱線させた。一方、ラビッシュは機関車と客車を切り離し、機関車から飛び降りる。暴走した機関 車は脱線していた機関車に激突。さらに、惰性で走ってきた客車が追突する。怒り狂ったウォルトハイム大佐は、すぐさまヘレン少佐に復旧を命じ、駅長ジャッ ク、ペスケのみならず、各駅長や子供達まで見せしめのために殺害する。ラビッシュはホテルの女主人のもとに逃げ戻ってくるが、女主人は迷惑がる。実は、女 主人の夫もレジスタンスで殺されていたのだ。
 アジトに戻ったラビッシュのもとに、英国のレジスタンス本部から指令が入る。明朝ベス駅に英軍機の空爆があるので、絵画への誤爆を防ぐため、客車に白ペ ンキを塗れというのだ。もはや残っているレジスタンスは2名。絵画のために、これ以上の犠牲が必要かと怒るラビッシュだったが、駅長ジャックの甥の協力も あり実行する事に。なんとか、白ペンキを塗る事に成功したラビッシュらだが、ジャックの甥がドイツ兵に見つかり射殺される。また、塗り残しを塗っていた最 後の仲間ディドンも殺される。

 翌朝英軍の空爆が始まる。しかし、列車には爆撃されない事を知ったウォルトハイム大佐は、チャンスと知り、復旧した列車を発車させる。ラビッシュは先回 りして線路を爆破する。しかし、先頭に民間人を乗せており、機関車の転覆はできなかった。修理はすぐに行われる。再び爆破される事を恐れ、ヘレン少佐は 8km先まで線路を警備させた。ラビッシュはひたすら先回りし、ついにドイツ兵のいない場所までたどり着く。そこで、レールの留め金をはずしていく。よう やくはずし終わったときに列車がやってくる。いち早くレールの異常を認めたウォルトハイム大佐だったが、列車は転覆してしまう。ヘレン少佐はもはや修理は 無理だと言う。そこに、隣接する道路を退却してくるドイツ部隊が通りかかる。ウォルトハイム大佐は無理矢理車列を止め、兵隊を降ろして代わりに絵画を積み 込むよう命令する。しかし、退却部隊の隊長は階級が低かったにも関わらず、命令に従わずトラックを進めていく。射殺しろと命令するウォルトハイム大佐にヘ レン少佐は、もはやあきらめなさいと諭す。
 ヘレン少佐らは退却部隊に便乗して退却する事に。しかし、ウォルトハイム大佐は一人列車に残るのだった。列車のもとに戻ってきたラビッシュは、退却の際 に射殺された民間人の死体を見つける。そしてウォルトハイム大佐と出会う。「絵画の価値などわからないくせに。絵画は私にこそふさわしいのだ」と言う大佐 をラビッシュは無言で射殺するのだった。

 (2005/06/02)

DVD検索「大列車作戦」を探す(楽天)