「キング・ラット」 評価★★★ 日本軍収容所内での生き延びる術
KING RAT
1965 イギリス 監督:ブライアン・フォーブス
出演:ジョージ・シーガル、トム・コートネイ、ジェームズ・フォックスほか
133分 モノクロ
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1945年第二次世界大戦末期、シンガポールの日本軍チャンギ捕虜収容所における出来事を描いたヒューマンドラマ。ジェームズ・クラベルの原作によるもので、日本軍の捕虜
収容所というと、日本兵の残虐性がクローズアップされ、頑張って米英兵が脱出するというパターンかと思いきや、全く裏切られる。日本兵の出番は少ない上
に、結構いい人達で、むしろ収容されている米英兵の確執が題材となっているのだ。ジェームズ・クラベルは映画「将軍」の総指揮をとった人物でもあり、どちらか
というと親日派なのかしら。
シンガポールのチャンギ収容所と言えば、かの有名な映画「戦場にかける橋」クワイ河収容所の捕虜の移送元収容所らしい。チャンギからクワイ河へたくさん
の英米兵が送られたということらしい。
ただ、この収容所のシーンはあまり飢えや病気で捕虜が死んでいく場面がなく、犬や鶏を飼ったり、煙草もある。あまり
絶望の中で「生き延びる」という緊迫感は感じられず、むしろ、収容所内でのイギリス兵とアメリカ兵の覇権争いのドラマといったものが主題となっている。収
容所内では生き延びるために、世渡り術に長けたものが優位に立つのであって、いつしか階級など無意味になっていく。そこにアメリカ人とイギリス人の国民性
が加わり、収容所では新しい秩序が出来上がっていくのだ。
さすがにイギリス映画だけのことはあって、アメリカ人の描き方は辛辣で特徴的である。脳天気で功利的、「金」と「自由」のため
ならばどんな悪いことでもする、という偏見が思い切り現れている。端から見ていると面白いのだが、アメリカ人とイギリス人の間には連綿と流れる確執がある
のだと実感する。
とはいえ、映画そのものとしてはどちらが悪玉である、という結論に導くものではなく、実直で
誠実なイギリス人グレイ中尉と自分勝手なキング伍長及びそれに巣食う英軍上級将校達の対立、という構図を楽しんでいる感がある。
また、日本軍に対しても悪者ということはない。戦時下の収容所という特殊な環境下で起こった、特殊なコミュニティ組織の発生と、その崩壊を表現して
いるに過ぎない。生き延びるために起こるべくして起こった出来事であり、どこにも悪者はいないのだ。
そういう意味で、押しつけがましい価値観がなく見やすい
し、見ていて面白い映画であった。また、女性が一人も出てこず、男ばかりであるのも硬派で好印象だ(笑)。
日本兵は日本人の役者ではないようだ。いかにも日本人らしくはないが、そんなに違和感は感じなかった。また、表題のキング・ラットは主人公のアメリカ兵
キング伍長が食用に飼育する大型鼠のことで、伍長自身が親分鼠といった意味合いもあるのかもしれないが、したたかさを象徴しているようだ。
全般に、イギリス映画といえば、反日的イメージが強いのだが、本作は素直に映画のストーリーを堪能できる佳作であった。
興奮度★★★
沈痛度★★
爽快度★★★★
感涙度★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
シンガポールのチャンギ収容所は、天然の要害を活かした収容所で前面を海、背面をジャングルに囲まれ、脱走は死を意味する収容所だ。従って日本軍の歩哨
も少なく、収容所内の生活は、食料や薬品の配給が少ないことを除けばかなり自由である。しかし、このことは要領のいいものが優位に立つという構図を産み、
やせこけた捕虜達の中で良い服を着、血色のいい米軍キング伍長(シーガル)を産み出した。
キング伍長は、したたかに取引をし、金を貯めて階級を超えた取り巻きを作っていた。彼の上官となる曹長をはじめ、英軍の大佐級、少佐級までも取り込んで
いる。配給食料のごまかしも組織的に行われている。皆食うことに必死なのだ。これらの不正行為に敵意を燃やしているのが英軍の憲兵隊長グレイ中尉(コート
ネイ)だった。特にキング伍長を憎んでいたが、なかなかしっぽをつかめない。
そんな中、英軍の中尉マーロウ(フォックス)がキングと親しくなる。マーロウは金のためではなく、プライドと友情のためにキングとつきあっていくが、あ
る時腕に大けがを負い、切断の危機が訪れる。キングはヤミから薬を手に入れ、なんとかマーロウを助ける。マーロウはキングに恩義を感じる。
さらにある時、キングらは大きい鼠を捕らえて、繁殖させることで鼠の肉を売ることを思いつく。数ヶ月後、試しに将校達に食わせたところ大好評。腹を抱え
て笑うキング達。今や、キングらは食うことと儲けることに強い結束力を持っていた。
ついに、終戦の日がやってきた。英軍の解放軍がやってくるが、捕虜達は歓迎できない。今までの生活に慣れすぎて、新しい生活を受け入れられないのだ。彼
らの強い結束力は収容所内でのみ発揮されるものだったからだ。だが、次第に、移送が始まるにつれ、キングに従う者はいなくなっていった。もはやキングはた
だの伍長でしかなかった。マーロウに「サー」をつけるキングに対してマーロウは「いつでも友人だ」と言うが、キングは「君を雇っただけだ」と言い放つ。そ
んな落ちぶれたキングを見てグレイ中尉は「いいざまだ」と言う。それを聞いたマーロウは「君もキングに敵意を燃やすことで生き延びることができたはずだ」
と言うのだった。
(2004/06/22 2009/2/26修正) |