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戦争映画の一方的評論
 
「憂国 評価★★★☆ 青年将校の自刃、幻の名作がDVDで復活
1965
日本  監督:三島由紀夫
出演者:三島由起夫、鶴岡淑子 演出:堂本正樹
28分 モノクロ

 
 二.二六事件に関係する陸軍中尉夫妻が忠義と大義の間で自害して果てるという三島由紀夫の短編小説「憂国」の映像化である。三島自身が憂国を自身の全て を体現した小説というだけあり、三島の人生観、世界観、美意識が凝縮されている。製作後に海外で上映されたのち国内でも上演されているが、1970年の三 島の自害の後、庸子夫人の希望により上映が禁止された。コピー版が海外で出回ったこともあったが、夫人の死後、プロデューサーによってフィルムが発見され 今回のDVD化に至ったものである。

 私はこの映画を見たことはなかったが、幼稚園時代に三島の自決を新聞で知り、「切腹」という行為と「激」というものの存在に激しい衝撃を受けた。その後 三島に深く傾倒してゆき、中高生時代には友人の間から三島信奉者と呼ばれるほど、三島の文体や行動を模倣したこともあった。それほど、三島の人生観や 思想論に影響を受けた私であるが、突き詰めれば突き詰めるほど、三島の美学と死生観には共鳴出来ない部分が多くなり、若干の距離を置くようになって いる。
 従って、三島の生き様を凝縮したとも評される本作のDVD化は興味津々であり、語りたいことは山ほどあるのだが、ここではあくまでも映画作品に関する 事に限定していきたい。

 本作は三島が憂国という作品を自分自身で作り上げたい、という熱情が詰まったものであり、一般的な娯楽映画とは一線を画するものであり、いわば芸術映画 という範疇に入るかと思う。映像は日本人の美意識の原点である白黒の世界であり、白が映えるような衣装と背景には日常の生活物品を極力排除した素朴な空間 が広がる。撮影セットは完全に能舞台を模しており、場面転換、動きまでもが能の影響を強く感じる。能の持つ空間感覚と時間軸が本作の本質にマッチしたのだ という。戯曲を多く執筆した氏ならではの感覚でもあろう。
 また、本作は完全に無声映画となっている。三島の小説が往々にして饒舌で理屈的であるのに対し、映画では三島直筆による字幕以外は映像テクニックのみに よって表現されなければならない。はっきり言って演じている三島と鶴岡は役者としては一流とは言えないので、全ては映像(空間)と編集(時間)の美意識に かかっており、そこに三島の新たなチャレンジが感じられる。もともと、自身の肉体改造や仕草といった自己陶酔的美意識に情熱を傾けた三島の真骨頂とも言え ようか。従って、三島の美的感覚に親しんでいない者が見ると、いささか嘲笑的な場面も多いのではないかと思うが、物理的な「美」ではなく精神的な「美意 識」を映像にどう表現するか、という観点で見た場合大変興味深いものがある。本作の場合、中尉の妻役の表情や行動にそれが強く表れているといっても良いだ ろう。三島はそれを「エロース」と呼んでいる。本作だからこそできたテーマであり、ここまで表現しきった作品は他にはないだろう。
 反面、三島扮する武山中尉の方は美とは程遠いものがある。割腹という衝撃的な「グロ」と「死」に対する恐怖と尊厳が表現される。三島の演技力のなさが逆 にそれをリアルに際だたせている。吹き出る血潮、溢れ出る内蔵シーンはいささかやりすぎの感があり、個人的には死生観、死の美学といったものを表現するに は逆効果だったと思う。ただ、後年三島が自ら割腹して果てるという結末を知る身としては、ここに三島の「美しき死への憧憬」を抑えきれなかった心情を垣間 見る。簡単な言葉で言えば「怖いもの見たさ」であるが、切腹という行為について深く思念すればするほど、その実行へ自己を追い込んでいく過程なのだ。
 本作のテーマを三島自身は「日本人のエロースが死といかに結びつくか」にあると述べている。ここが私の三島に共鳴できなかった一点でもある。エロースの 美と死の美は違うところに発しているというのが私の感覚であり、それを同一の起点に発する三島はやはり世俗を脱した存在なのであろう。
 切腹という自殺行為は欧米人には到底理解しがたい行為であろう。切腹とは「死」という結末を導き出す自殺行為というだけでなく、行為の間に藻掻き苦しみ 自身の現世を精算するという目的にある。銃や薬に頼れば楽だが、それでは自決の意味が果たされない。言うまでもなく、これは武士道、禅の精神に乗っ取った ものである。それは現世の世俗を断ち切る「潔さ」の表れでもあるが、逆に言えば世俗に生きる庶民には到底出来得ないことなのでもある。
 無声映画のバックミュージックは、三島自身が選んだというワグナーの「トリスタンとイゾルデ」。果たして本作に合っているのかどうかは微妙だが、二.二 六事件の1936年製作のレコードを買い求めたという凝りようである。

 このほか、製作に当たっての三島の意図や経過は三島自身が「憂国・映画版」新潮社で発表しており、今回発売のDVDにも同梱されているので、そちらをご 覧いただきたい。なお、DVDには日本版のほか、米版、仏版、仏の別版も付いているほか、台本を収録したマルチアングルにも対応している。
 本作は映画としては決して面白いものではない。しかし、少しでも「美」とか「死」というものに興味があるならば、自らを振り返る意味でも、視聴して損は ない。作品の背景にあるものを深く思慮すべし。 

興奮度★★★★
沈痛度★★★★★

爽快度★
感涙度★★

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(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 二.二六事件の青年将校の同志であった武山信二中尉は、妻帯者であるという理由で二.二六事件の実行部隊からはずされていた。さらに、武 山中尉の所属する近衛輜重大隊は青年将校の討伐隊に駆り出される事となり、天皇陛下への忠義と友人である青年将校への大義の間で揺れ動く。
 結果、武山中尉は自決の道を選択し、妻の麗子も一緒に死を決意する。二人は死にあたり情交を結び、中尉は割腹を図り、麗子が介添えを果たす。そして、妻 の麗子も夫の後を追う。

(2006/06/14)

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