戦争映画の一方的評論
 
「アンツィオ大作戦 評価★★★ 失敗の上陸戦に従軍記者が見たもの
THE BATTLE FOR ANZIO
 1968 アメリカ 監督:エドワード・ドミトリク
出演:ロバート・ミッチャム、ロバート・ライアン、ピーター・フォークほか
112分 カラー


  連合軍によるアンツィオ上陸戦を描いたもの。アンツィオ作戦はイタリア本土に居座るドイツ軍を連合軍(米英仏など)が南方から駆逐していたところ、ローマ 南部のモンテ・カッシーニで頑強な抵抗にあったため、北部の海岸アンツィオに迂回上陸して挟撃しようとした作戦である(詳しくは下記で)。上陸は大成功を おさめたが、司令官の判断ミスにより挟撃戦そのものは甚大な被害を出した、いわゆる失敗と評されるものである。
 本作は、従軍記者の目から見たアンツィオ作戦を描いており、戦争とは何かというヒューマンドラマ調の命題を持たせている。が、主役の従軍記者役ロバー ト・ミッチャムは存在感が強すぎ、たかが従軍記者のくせにいきなり部隊を指揮してしまったり、反吐が出るような戦争観(実はこれが主題なのだろうが)は、 この映画の最大のガンだ。また、アクションシーンや演技、設定はかなり稚拙であり、アクション戦争映画としては二流以下の評価となる。ところが、驚いたこ とに、登場する将校名が架空のものであること以外、かなりの部分で史実に沿って忠実に作られているのだ。登場する部隊、その軍装(袖章)、チステルナ奇襲 偵察隊全滅、司令官解任など、この作戦の戦記部分をきちんと網羅しているのだ。この映画は、むしろ戦記物として見るといいだろう。
 劇中に登場する上陸部隊指揮官レスリー少将は第6軍団長のルーカス少将のことで間違いない。その上官らしきカーソン将軍は第5軍のクラーク中将であろ う。レスリー少将のパッチは確認できないが、司令部内の兵隊が第6軍団のパッチをつけている。ただ、カーソン将軍が後半で第3師団のパッチをつけているの は謎。主人公の従軍記者のパッチは「OFFICIAL U.S.WAR CORRESPONDENT」をきちんとつけている。また、メインとなる戦闘部隊は第1特殊任務部隊(通称  悪魔の旅団)とレンジャー部隊と思われるパッチをつけている。対するドイツ軍はケッセルリング将軍が実名で登場。
 兵器類は残念ながら時代考証はなされておらず、撮影当時のままで登場する。艦船類は上陸用舟艇の類のほか、ヘリポート付きの駆逐艦が出てくる。戦車はほ とんどM47パットン中戦車で、ドイツ軍側の戦車もM47パットン(M41ウォーカーブルドックもしくはM24チャーフィーかも)にドイツ軍マークを付け ただけ。しかも、ドイツ軍の戦車にはスピーカーが取り付けられている のは笑える。このほか、ソフトスキンの類は多々出てくるが、ジープの他にはM6スタッグハウンド装甲車らしきものが見える。ドイツ軍側はキューベルワーゲ ンがある。
 全体に二流アクション戦争映画の匂いと、正当な戦記物の匂いが混在しており、娯楽としてみるか、シリアスとしてみるか悩むところだが、私としてはヒュー マンストーリー無視で戦記として楽しむのがいいのではないかと思うのであった。
なお、参考までにアンツィオ上陸戦の概要を記しておく。

(参考)アンツィオ上陸戦概要
アンツィオ上陸戦
 1944年1月17日、アンツィオ上陸作戦に先立ち、南方の対峙戦(モンテ・カッシーノ)で英第10軍団と米第2軍団(第34,36歩 兵師団)が攻撃に転じる。しかし、ラピド川渡河作戦で1万4000人の戦死を出すなど大敗を喫す。1月22日、連合軍第6軍団はドイツ防衛戦の後方、アン ツィオに上陸敢行。上陸はほぼ無血で成功するが、ドイツ軍の勢力を過剰評価したルーカス少将の慎重戦略により、一気に攻め入ることをしないまま、アンツィ オ周辺に防衛塹壕線を築く。その間、ドイツ軍に防衛ライン増強をしたいがままにさせてしまい、結局、増強されたドイツ軍を破ってローマに進軍できたのは5 月に入ってのこととなる。連合軍側で2万9200人の死傷者を出している。
アンツィオ上陸戦参加部隊
第5軍(クラーク中将)-第6軍団(ジョン・ルーカス少将)
 米:第3歩兵師団(ルシアン.トラスコットjr少将)、第751戦車大隊、第82空挺師団第504パラシュート連隊、第509パラシュート歩兵大隊(ウ イリアム.ヤーボロウ中佐)、1st,3d,4thレンジャー大隊(ウィリアムO.ダービー大佐)→(上陸完了後)第45歩兵師団、第1機甲師団CCA部隊、第1特殊任務部隊 (2/1)
 英:第1歩兵師団、第46王立戦車旅団、2個コマンドー大隊→(増援)第56歩兵師団
チステルナ奇襲偵察戦
 1月30日、ようやくローマが無防備状態と悟ったルーカス少将は、第1、3,4レンジャー大隊と歩兵第15連隊(第3師団)に、偵察のためにチステルナ へ向かわせる。しかし、すでに増強を図ったドイツ軍第 715機械化歩兵師団及びHermann Goering機甲師団の待ち伏せ、包囲戦にさらされ、767名中自陣に帰還できたのはたった6人であった。

(参考HP)
anzio1944 
509th PARACHUTE INFANTRY BATTALION AND 504TH REGIMENTAL COMBAT TEAM LAND AT ANZIO 
特殊作戦博物 館さんHPの第1特殊任務部隊ページ 
1st Special Service Force(thefreedictionarycom) 

 
興奮度★★★
沈痛度★★★★
爽快度★
感涙度★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

  1944年1月、従軍記者のエニスは次に行われる作戦の情報を仕入れに、レンジャー大隊の知人スティムラー軍曹のもとに出向いていた。そこに、ブラックデ ビル(悪魔の旅団)と恐れられる第1特殊任務部隊のラビノフ伍長が乱入してくる。
 1月22日、0200時、アンツィオ上陸作戦が開始される。この作戦は防御陣地の構築である、と消極的作戦説明を行う第6軍団長のレスリー少将に、エニ スは厳しい質問を浴びせかける。エニスは、先般のラピド川渡河作戦での失敗を報道して准将一人を解任に追い込んだことがあるのだ。レスリー少将は不快感を 露わにする。
 艦砲射撃の後、連合軍は上陸を敢行するが、ドイツ軍の抵抗は全くなかった。一気に進軍を勧める英軍を制して、レスリー少将は5km地点で塹壕構築を命じ る。ドイツ軍の反撃に対しての防衛線を作るためだ。
 エニスは軍のジープを借りて戦線を視察して回る。しかし、ドイツ軍の影はほとんどなく、途中で第1特殊任務部隊のラビノフ伍長を同乗させて、ついにロー マ市街にまで至る。ここにはドイツ軍がいたが、警備部隊程度であった。ドイツ軍はモンテ・カッシーノの戦線に全軍を投入しなければならず、手薄になってい たのだ。
 エニスはローマまでの道がほとんど無敵状態であることをレスリー少将に報告するが、レスリー将軍は動こうとしなかった。その間、ドイツ軍のケッセルリン グ将軍は、連合軍指揮官の無能さに驚きながらも、急遽イタリア北部、フランスなどから救援の部隊を増強、さらに「シーザー線」と呼ぶ防衛陣地を構築し始め る。
 1月30日になって、ようやくレスリー少将はチステルナへの奇襲偵察を計画する。レンジャー3個大隊と歩兵第3師団による総勢767名で、先導は第1特 殊任務部隊のラビノフ伍長が努める。エニスもまたその一隊に加わるのだった。しかし、部隊はドイツ軍の巧妙な待ち伏せに逢い、戦車部隊に包囲されてしま う。レンジャー大隊の大佐は戦死し、多くの兵が捕虜となった。エニス、ラビノフ伍長、スティムラー軍曹ら7名だけが命からがら脱出することが出来た。
 スティムラー軍曹は一刻も早くアンツィオに戻るべきだとするが、ラビノフ伍長は敵陣を偵察してからと反論する。結局二手に分かれ、エニス、ラビノフら3 人がドイツ軍の秘密防衛陣地を探りに行く。エニスは鉄条網の迷路に迷い、ドイツ兵に発見されそうになる。それをリチャードソンが助けるが、リチャードソン は子供の写真を拾おうとして射殺される。
 一行は民家に入るが、そこにはイタリア人の母娘が住んでいた。そこにドイツ兵がやってくるが、スティムラー軍曹らはドイツ兵を全滅させる。このままでは 危険だと連れて行こうとするエニスだったが、イタリア人母娘は家を離れようとしなかった。
 自陣に近づきつつあったが、ある地点でドイツ狙撃兵に囲まれてしまう。ゲーム感覚で楽しむドイツ狙撃兵に次々と撃ち殺されていき、ついにラビノフ伍長も 戦死する。残ったのはエニス、スティムラー軍曹ら3名だけ。これまで銃を持たなかったエニスも、ついに銃を手に戦う。やっとの思いで狙撃兵を倒したエニス だったが、その心は穏やかでなかった。
 アンツィオに戻り、報告をすませるエニスだったが、レスリー少将は部隊全滅の責任で解任され、後任はハワード少将になっていた。エニスはレスリー少将に 「人は死ぬのが怖くて緊張している。だからこそゲームのように楽しんで人を殺すのだ。」と言うのだった。

 (2005/06/04)

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