戦争映画の一方的評論
 
「空軍大戦略 評価★★★★ 実機によるバトル・オブ・ブリテン再現
BATTLE OF BRITAIN
1969 イギリス 監督:ガイ・ハミルトン
出演:ローレンス・オリヴィエ、マイケル・ケイン、ロバート・ショウほか
133分 カラー


  空物好きには評価の高い逸品。1940年のイギリス本土上空でのドイツ空軍対イギリス空軍の死闘16週間を描いた作品で、ダンケルク敗走から、ドイツ軍の イギリス本土攻撃断念までである。この作品にはあまり物語性はないと言って良い。一応コリン少佐とその妻マギー軍曹の掛け合いが中心に据えられてはい るが、イギリス軍ダウディング卿、ドイツ軍ゲーリング元帥など著名人の面々が次々と登場し、ストーリーというよりはヒストリー(戦記)として色合いが強い のだ。そういった意味で、有名な 史実(エピソード)がいくつも盛り込まれているので、一度見ただけでは完全に理解しがたい物がある。また、機上で戦死する英独の名もなき兵士達の顔が幾度 も大写しになるので、誰が主役かなどということは関係なくなってくる。端役の役者にとっては嬉しいかも知れないね。
 さて、この映画の特筆すべき点は登場する航空機の大部分が実機である事。英軍ハリケーン、スピットファイア戦闘機(20機余)、独軍ユンカース Ju52/3m輸送機、ハインケルHe111爆撃機(50機余)、メッサーシュミットBf-109戦闘機(60機余)、ユンカースJu87爆撃機(1機) が本当に空を 飛び、空戦を繰り広げているのだ。全部で100機以上の実機を揃えたそうだ。もちろん、1969年製作なので、第二次世界大戦当時の機体はほとんどなく、 ス ペイン空軍で訓練用に使用していた戦後仕様の機体が用いられているそうだ。パイロットの多くもスペイン空軍が協力しており、スペイン空軍はこの機体を売却 した利益 でジェット機を購入したという逸話もある。
 複数の実機が飛行し、空戦するだけでも臨場感が著しいのだが、空戦による破壊、地上や海上への墜落シーンもリアルだ。空中での爆破シーンは明らかにミニ チュアか模型、もしくは合成だとわかるものも多いが、墜落シーンは実機ではないかと思わせるほどリアルだ。これらのの多くはラジコン模型を用いたものと思 われるが、画面の合成によるものもありそうだ。
 実機映像で圧 巻なのは冒頭のBf-109の低空侵入シーン。機銃掃射シーンはちょっとタイミングおかしいが、低空(2,3m)で侵入してくる戦闘機の恐怖を体感できる 素晴らしいカットだ。とにかく、地上の柵にぶつかりそうなぐらいすごい低空なのだが、実写だということだ。パイロット命張ってるなという印象。また、数度 出てくるパラシュートによる機体からの脱出映像だが、そのうち1回は足が変な風に折れて、最後までパラシュートが開かない。ダミー人形による失敗映像らし いが、そのまま作品に用いられたそうだ。
 地上映像もなかなか手がこんでいる。飛行場や市街地はセットの細かいところにまで時代考証がなされている。市街地等はスペインで撮影されたそうだが、炎 上破壊シーンはスペインのセント・キャサリン造船所の再開発を利用して爆破・破壊シーンを撮影したとのこと。また、飛行場格納庫は本物を爆破しており、 残った格納庫は現在博物館になっているそうだから、もったいないことをしたものだ。
 ただ、時代が時代のため、戦闘シーンはいささか稚拙な部分も認められる。爆撃機や戦闘機の機内からの映像シーンが多用されているが、機体への被弾や血の りシーンはちょっと違和感が強い。今ならもっとリアルな映像が作れるだろうが。また、飛行シーンで何度か同じ映像を使い回しているような気がする。あれ、 この絵見たぞということが幾度か。ついでに苦言を呈すれば、せっかくの空戦シーンだが実機を撮影したという安堵感からか、今ひとつ空戦の全体像が見えてこ ない。そのあたりを編集でも良いから位置関係がわかるようにしてくれたら、よりGOODだったと思う。
 いずれにせよ、女性兵士マギー軍曹の存在が必要なんだかどうだかは気になるところだが、激しい戦闘に息を飲んで視聴した事だけは間違いない。

興奮度★★★★
沈痛度★★★

爽快度★★★★
感涙度★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 1940年5月、フランスのイギリス軍はドイツ軍の猛攻の前に大きな被害を出している。もはや、損耗戦となったフランス戦線に見切りを付けた、戦闘機部 隊司令のダウディング大将は、チャーチルに「もうフランスへは飛行機を送るな」と直訴する。
 6/4、ダンケルクで英軍がフランスから撤退し、イギリスは本土決戦の決意を固める。しかし、ヒトラーはすぐさまのイギリス本土への侵攻を躊躇した。こ れによりイギリス軍は体制の立て直しの時間を得るのだった。
 独空軍元帥のゲーリングは、まず空軍で制空権の確保が重要だとして「アシカ作戦」(イギリス本土上陸作戦)に先立って、イギリス航空基地への攻撃を始め る。歴戦の強者のドイツ空軍に対し、戦闘経験の浅い英軍パイロットは次々に撃墜される。南部の航空基地はひどい打撃を受け、虎の子のレーダー基地も破壊さ れる。英軍パイロットのコリン・ハーベイも戦闘にかり出され、妻のマギーも予備空軍軍曹として戦地に出るのだった。
 第11連隊のケイス・パーク大佐は隣区の担当第12連隊のリー・マロリー大佐の迎撃が遅いと非難するが、マロリーは大編隊攻撃の効率性を主張する。しか し、現実にはとにかくパイロットが足りないのだった。
 8/24、ドイツ軍のミスで爆撃機がロンドンを爆撃してしまう。報復のためにチャーチルはベルリン爆撃を連日実施する。怒ったヒトラーは、イギリス攻撃 を飛行場からロンドンに切り替えてしまう。この結果、英軍はロンドンの市民への被害は増大したが、飛行場での戦闘機やパイロットの回復のチャンスを得たの だった。さらに、ポーランド、チェコの義勇兵も戦線に参加し始めるのだった。
 次第に英軍も戦い方を得はじめ、ドイツ軍の爆撃機や戦闘機の被害が大きくなってくる。加えて、ゲーリングの戦術の誤りから、ついにドイツ軍はアシカ作戦 の実施を断念せざるを得なくなる。しかし、マギーの夫コリン少佐の機は撃墜され、脱出するも大火傷を負うのだった。
 こうして、バトル・オブ・ブリテンは終結する。チャーチルは言う。「これまで、人類の戦争で、これほど多くの人間が、これほど少ない人間に、これほど多 くの恩を蒙ったことはない」。
 
 (2005/07/01)

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