「大反撃」
評価★★☆ 独軍アルデンヌ攻勢から籠城防戦するアメリカ兵
CASTLE KEEP
1969
アメリカ 監督:シドニー・ポラック
出演者:バート・ランカスター、ピーター・フォーク、ジャン・ピエール・オーモン、アストレッド・ヒーレン
ほか
105分 カラー
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第二次世界大戦時のベルギーを舞台に、ドイツ軍の攻勢を古城に立て籠もって防戦する8名のアメリカ兵を描いたアクション系ヒューマンドラマ。ヒューマン
ドラマとは言うものの、実はかなりカルト的で、「キャッ
チ22(1970)」、「ジョ
ン・レノンの僕の戦争(1967)」にも似たブラックコメディとも、なんちゃってシリアスとも言えるような微妙な作風。
時期的には、バストゥーニュの森の戦い(1944.12)前後のようで、いわゆるアルデンヌ攻勢(バルジの戦い)のドイツ軍反攻が描かれている。アメリ
カ軍敗残兵で溢れる町はサンクロワと呼ばれており、籠城する城はフランス国境近くのベルギーにある10世紀頃の古城という設定になっている。
冒頭から宗教がかったような叙情的な出だしで、登場人物は職業軍人、作家志望、牧師見習い、美術史家、音楽演奏家、フォルクスワーゲンマニアなど、それ
ぞれが個々の哲学を持った変人の集まりだ。ストーリー展開や、映像には隠喩的な場面も多く、真面目にストーリーを追うと、訳がわからなくなってくる。厭戦
的・好戦的、強欲的・禁欲的、理想的・功利的など様々な対比された人間模様が描かれているのだが、それが行こうとしている方向性はなかなか理解しづらい。
正直、私は??だった箇所が多いのだが、監督一流の厭戦や人間の不条理メッセージだったのだろうと理解している。
では、全編メッセージ性ばかりなのかというとそうでもなく、終盤は信じられないくらい激しい戦闘シーンに転換する。それまでの隠喩的な表現は何だったの
か、と唖然とする視聴者(私)を無視して(笑)、ドンドンバリバリと機関銃、戦車、バズーカ砲、迫撃砲が撃ちまくられる。使用した火薬量はかなりの量と想
定され、城のセットは見事に破壊されていく。戦闘シーンのリアル性はややチープだが、激しさだけは一流だ。その激しい戦闘の中に死を見いだしていくアメリ
カ兵に、監督は厭世的メッセージ性を込めているようにも見える(成功しているようには思えないが・・・)。衝撃度も高く、そう言う意味で「戦
争のはらわた
(cross of
iron)(1977)」に通じる部分もあるように思えるが、いささか叙情と技巧に走りすぎた嫌いもある。
ロケはユーゴスラビアで、この当時はチトー大統領のもと外国資本の映画ロケ地の提供が良く行われていたようだ。それだけに、登場する兵器類はユーゴスラ
ビア軍のものが使用されている。ドイツ軍戦車に化けているのは、砲身先にマズルブレーキが取り付けられたソヴィエト製T34-85戦車で、もちろん稼働し
て射撃も行っている。何台かは娼婦たちにモトロフの火炎瓶を投げつけられて炎上してしまうけど。
また、ドイツ軍航空機として上翼単葉の一見シュトルヒ風の飛行機が登場する。いつの間にか設置してある城上の機関銃で撃墜してしまうのだが、ユーゴスラ
ビアオリジナルだろうか、水平尾翼の形状が長方形でシュトルヒとはちょっと異なる。あと、フォルクスワーゲンが水に沈まないシーンも余興で面白い。何故か
ハシゴ消防車まで登場するが・・・(笑)。
防御舞台となる古城はセットで、激しい爆破シーンで破壊されていくが、やはりセットだけに古城としてはややチープ感が漂う。とってつけたような庭や彫刻
が・・・・笑える。
主人公のアメリカ兵8名は補充兵という位置づけらしく、階級も所属もバラバラのようだ。少佐、大尉、中尉、軍曹、一等兵となっており、肩パッチもバラバ
ラだ。
せっかくアルデンヌを舞台にしてある映画だが、戦史的な視点を期待すると残念な結果に。全然「大反撃」じゃないし(笑)。また、バート・ランカスターが
登場するからといって正統なアクションを期待しても駄目。ちょっと一人で空まわりしている感もあり。まあ、風変わりな戦争風風刺映画でも良いというのなら
ば、怖いもの見たさでどうぞ。面白いような面白くないような、自分の価値観が壊されたような、何とも微妙な気持ちで見終わること請け合いである。
(参考)
動画youtubeより
シュトルヒ似航空機シーン
トレイラー
興奮度★★★★
沈痛度★★★
爽快度★
感涙度★★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
1944年秋、疲れ切ったアメリカ兵8名が
ジープでマルドレーを目指してやってくる。そこに現れたのは白馬にまたがったマルドレー伯爵で、彼らはマルドレー伯爵の城を目指していたのだ。
指揮官のファルコナー少佐は隻眼で、マルド
レー城をドイツ軍防戦の拠点にしようと考える。美術史家のベックマン大尉は城の調度品や美術品の山に驚嘆し、これらが戦塵に帰すことを恐れて、居城にする
ことに反対する。マルドレー伯爵や姪(伯爵夫人)もそれに賛同するが、少佐は頑として聞き入れない。
ファルコナー少佐はマルドレー伯爵夫人と関
係を持ちながら、部隊の指揮を執る。ある日、伯爵と少佐は斥候中にドイツ斥候隊と遭遇。途中のあばら屋で応戦して撃滅する。だが、ドイツ兵の指揮官が見あ
たらず、彼は城の伯爵夫人に会いに行っていた。彼もまた伯爵夫人と姦通していたのだ。実は伯爵は不能者で、姪であり妻である夫人に妊娠させようとしていた
のだ。
真面目に哲学を述べるベックマン大尉は小説
家志望の黒人ベンジャミン一等兵と話題があうが、その他のアンバージャック中尉ら5名は町にある娼婦宿「赤い女王」が気になって仕方がない。彼らは赤い女
王に通い女を楽しむ。また、その隣に主人を失ったパン屋があり、パン屋だったロッシ軍曹は未亡人と一緒になりパン屋を始める決意をする。その外では勝手に
除隊したアメリカ兵が気勢をあげている。
城ではクリアボーイ伍長が伯爵の所有する
フォルクスワーゲンに執心となる。アンバージャック中尉は斥候に出かけドイツ兵と笛で懇意になるが、部下が射殺してしまう。城の上空にはドイツ軍航空機が
襲撃をかけ、城を戦場としたくないベックマン大尉だったが、機関銃で応戦しこれを撃墜する。
いよいよ、少佐はサンクロワの町に攻勢に出
て、ドイツ兵を挑発することを決意。娼婦宿の娼婦たちにモトロフの火炎瓶を与えて戦車に攻撃するよう指示する。また、町の敗残兵を城に連れ戻り戦力にしよ
うとするが、逃亡するか、ドイツ軍の砲弾の餌食になってしまう。
ロッシ軍曹はパン屋を続けるつもりだった
が、仲間に説得され軍に戻る。アンバージャック中尉、クリアボーイ伍長、ロッシ軍曹は街中で応戦しながら敵戦車を奪取する。娼婦達も火炎瓶を投げて敵戦車
を炎上させる。
だが、多勢のドイツ軍は城に接近する。少佐
は跳ね橋を上げさせ、地下に避難させた美術品が駄目になるのを覚悟で堀の水を流すようベックマン大尉に命じる。ベックマン大尉は美術品をついに諦めるの
だった。跳ね橋の外側では中尉やロッシ軍曹、ドバッガ軍曹、クリアボーイ伍長、エルク一等兵ららが応戦するがついに戦死する。
城の上ではファルコナー少佐、ベックマン大
尉、ベンジャミン一等兵が応戦しているが、少佐も大尉も負傷する。マルドレー伯爵は戦場に飛び出し、撃たれて死亡。少佐はベンジャミン一等兵に堀にガソリ
ンを撒き、伯爵夫人を連れて逃げるよう指示する。そして少佐と大尉は戦死するのだった。以上がベンジャミンの書いた小説の一幕であった。
(2009/3/4) |