「戦略大作戦」 評価★★★☆ 銀行に眠る金塊を奪取せよ
KELLY'S HEROES
1970
アメリカ 監督:ブライアン・G・ハットン
出演者:クリント・イーストウッド、テリー・サヴァラス、ロナル
ド・サザーランド、ドン・リックルズほ
か
144分 カラー
第二次世界大戦のヨーロッパ戦線を舞台にしたコメディアクションの名作。二等兵に降格されたケリー元中尉(クリント・イーストウッ
ド)の企画で、金に目がくらんだ寄せ集めの兵隊が、膠着していた前線を離脱突破して敵陣地の銀行に眠る金塊を盗んでしま
おう、というハチャメチャな設定で、戦争的にはありえないのだが、映画にぐんぐん引き込まれていく面白さ。それも、クリント・イーストウッドの飄々とした
ポーカーフェースと、回りを固めるサザーランドやサヴァラスといった個性的な役者の面白さ、さらに登場する戦車(シャーマン)の迫力と美味しいところが満
載なのだ。西部劇を模したシーンもあるし、軽快なテーマソングも耳に残る。ただ、やや長編でダレる傾向にあるり、もう少しスムーズな展開で短編に仕上げて
も十分だったのではないかとは思う。まあ、それでもこの映画なら許せちゃうところがすごいのだが。
この手の内容だととかくB級映画になりがちだが、やはりイーストウッドを始めとする役者の功績は大きいだろう。クリント・イーストウッドの観客を寄せ付
けない冷静さはいうまでもないが、楽天家の戦車長役サザーランド、堅物曹長役のサヴァラス、金に目がない主計軍曹役のドン・リックルズなどそれぞれ強い個
性を発揮しており、観衆は知らず知らずのうちに、登場人物のうちの誰かの贔屓になっていたのではないだろうか。私はサヴァラスのいぶし銀のような演技に惹
かれたが、ちょっと刑事コジャックの印象とダブっていたりして(笑)。あと、コルト将軍役のキャロル・オコナーの大いなる勘違いとキレぶりも特筆できる。
本作はコメディストーリーとしても面白いのだが、ミリタリー的にも評価が高い。確かに、架空の戦闘だけあって、敵陣地を突破するとかあり得ない作戦手法
なのは致し方ないが、細かな戦闘シーンや兵器類にはこだわっている。小銃や機関銃はいささか乱射気味の傾向があるが、手榴弾の使い方や機銃の設置などはそ
れなりにリアルで「コンバット」並み。すごいのは現役M4A3シャーマン中戦車が20台近くも出演している点。本作の撮影はユーゴスラビアで行われてお
り、ユーゴに供与したシャーマンが沢山残っていたというわけらしい。また、ドイツ軍ティーガーI戦車が3台登場するが、こちらはT-34/85の改造でそ
れなりに良くできている。砲塔がちょっと前に寄りすぎているのはご愛敬だが、もちろんどちらも実際に走行し、市街地をガレキの山に仕立て上げるど迫力が見
事。このほか、アメリカ軍、ドイツ軍のハーフトラックとして米軍のM3ハーフトラックが数台登場。うち一台は105mm榴弾砲を登載したT19自走砲。航
空機では米軍マークを付けたレシプロ戦闘機が登場するが、ユーゴスラビアという土地柄からユーゴ空軍所有のSOKO-522のようだ。
このほか、ミリタリー的にはいろいろな階級や部隊がでてくるのも面白い。主人公は歩兵部隊でパッチから第35歩兵師団とわかる。ノルマンディー戦後に北
フランスに上陸しアルデンヌ戦にも参加したカンザス州兵だ。またシャーマン戦車の部隊は第6機甲師団のパッチをつけており、同じパットンの第3軍配下とし
て同調した行動をとっていたことが予想される。
主人公のケリー(イーストウッド)は中尉から降格された二等兵扱いだが、所属部隊の指揮官は大尉となっていることから中隊規模の話らしい。ビッグ・
ジョー(サヴァラス)は曹長(MSG)だが、小隊長もしくは中隊付曹長といったところか。味方を良く誤射する砲兵隊指揮官のマリガンは上級曹長
(1SGT)で、主計係のクラップ(リックルズ)は二等軍曹(SSG)、戦車長オッドボール(サザーランド)は三等軍曹(SGT)、応援に駆けつける工兵
隊指揮官は一等軍曹(SFC)と多彩だ。また、キレているコルト少将は第3軍のパッチをつけていることから師団長や軍団長ではなく第3軍司令部の人物と思
われるが、言動と言い行動と言い・・・当時の第3軍司令官パットン中将をイメージしているとも言えなくもない。
全体に盗人の話であるから、軍の規律という観点では大変よろしくない映画(笑)。ただ、こんな大規模ではないだろうが、実際にも物資の横流しや横領、強
奪という行為は頻繁に起こっていたらしい。そんな偶然が重なったら・・・こういう事件が発生するかも知れない。そのように夢想して視聴すると面白い映画だ
ろう。
余談だが、ちょっと疑問に思った事。金塊が残されていた銀行があるのはフランス東部のナンシー市クレルモン。ケリーらは金塊は敵(ドイツ軍)側のものだ
から盗んでも問題ないと言っているが、ドイツ軍も持ち帰ろうとしたり警護をしているということは、元の持ち主はフランスではないのかな。だとすれば、連合
国側として十分盗みになるような気がするのだけれど・・・・いいのかな。
興奮度★★★
沈痛度★★
爽快度★★★★☆
感涙度★