戦争映画の一方的評論
 
「戦争と人間 (第1部 運命の序曲)」 評価★ 日中開戦を目論む関東軍と死の商 人
1970 日活 監督:山本薩夫
出演:芦田伸介、高橋悦史、浅丘ルリ子、中村勘九郎、岸田今日子ほか  
197分 カラー

 五味川純平原作の同名小説の映画化。原作も大作だが、映画の方もこの第1部のほか、第2部、第3部と各3時間余りの10時間近い超巨大作品となってい る。そもそも的に戦争と人間という小説への評価に疑問を持っているので、なんでこんな作品を映画化したのかという気持ちがある。昭和3年の関東軍出兵あた りから昭和14年ノモンハン事件までを書いた裏事情通っぽい暴露的小説という位置づけで、反戦文学の代表作ともされているが、そこに描かれている史実は、 十分多角的に公平に検 証された物とは言い難い。書いた本人もそう思っていたかもしれないが、フィクションのつもりが、いつの間にか世間が正しい歴史観としてノンフィクションに 仕立て上げてしまった典型例。司馬遼太郎のほうも多分にその傾向があるが。
 監督は山本薩夫。この人のことはあまり知らないが、人間ドラマを得意とし、社会派監督と呼ばれている。反戦映画の監督も多く務め、反戦以外にも「白い巨 塔」など社会悪への暴露的映画を多く手がけている。この映画を見て思ったのは、歴史的経過というノンフィクション的流れの中に、登場人物の私生活などの フィクションを盛り込んでいくという手法が、旧ソ連の「芸術記録映画」とよく似ているという点。その代表作「ヨーロッパの解放」の製作は奇しくも同じ 1970年。なんらかの影響を受けているようにも思えるが、どうだろうか。いずれにせよ、この手の映画は長くて退屈。しかも、登場人物の名前がついている だけでも60人近くいて、そんなもん長々やられたら覚えていられない。はっきり言って3分の1の時間で十分作れると思う。あと、実に下らない恋愛関係を多 く盛り込んでいるのも特徴。原作がそうだから仕方ないのだろうが、やたら意味のない裸のシーンが出る。浅丘ルリ子、岸田今日子ほか多数のヌードあり。岸田 今日子の裸身だけは見たくなかった。でも、結構巨乳なんですね。

(以下一応ネタバレ注意)
 昭和3年。新興財閥の伍代産業は満州で伍代公司として荷役業務を行う死の商人だった。当主由介の弟喬介(芦田)が満州での社長となっており、部下高畠 (高橋幸司)や鴨田(三国連太郎)らの活動で敵張作霖ら匪賊との交渉によって運送業を展開している。喬介は関東軍参謀河本大佐らと通じており、鴨田はテロ や殺人を厭わない陰の男となっている。
 一方南京政府の蒋介石は著作林征伐のため「北伐隊」を組織して北上しており、満州の利権を守るために関東軍は対中国出兵の奉勅が出ないことに焦りを感じ ている。そのため、関東軍は列車爆破によって張作霖を暗殺、さらに張作霖の息子張学良と蒋介石が手を結んだことにより、昭和6年列車爆破の柳条溝事件を起 こす。こうして、事実上の日中戦争が勃発し、満州事変、上海事変へと急展開していく。
 この間、様々な人間模様が織りなされている。
 伍代の社員高畠は真面目な男で、伍代のやり方に異論を持ちつつも、業務に忠実に動いていた。しかし、妻(松原千恵子)が朝鮮系抗日匪賊に殺害されてしま う。
 伍代の長女由紀子(浅丘ルリ子)は、物欲に満足し切った冒険を求める女。自由主義者の矢次(二谷英明)を好いているが実直な柘植中尉(高橋英樹)と関係 を結ぶ。その柘植中尉も満州戦線に派遣されていく。
 アカの労働運動家標(伊藤孝雄)は警察に逮捕され、釈放後は徴兵されて満州で戦死する。たったひ とりの弟は矢次にひきとられて生活するが、次第に伍代の次男俊介と懇意になっていく。俊介は父親ら資本家のやることに疑問を持ち悩む。
 満州の女実業家鴻珊子(岸田今日子)は、伍代に接近し関東軍の情報を仕入れるために、床を共にす る。
 満州で医者をしている服部(加藤剛)は中国人の医師とその妹(栗原小巻)と接しているが、妹は満州にやってきた伍代の長男英介(高橋悦史)に強姦されて しまい、自らの力のなさに怒りを覚える。
 朝鮮系匪賊の徐(地井武男)は朝鮮での日本軍の横暴に怒りを覚えて匪賊になったが、高畠の妻を殺害した張本人でもある。逃亡中に撃たれて医者不破(田村 高廣)のもとに駆け込んだときに金品を強奪する際に「おまえら(日本)がやった事から見ればこれくらい(強奪や殺人)はやって当たり前のことだ」という台 詞が印象的だ。
 満州奉天総領事館の書記官篠崎(石原裕次郎)は、開戦に反対し関東軍に謀略を抗議するが聞き入れてもらえない。
 このほかにも、異常に多くの登場人物が出てくる。はっき言って、あらすじなどうまく書けない。

 全体を通して、第1部の構成は善者と悪者を明確に作り分けている。善者は労働家等の労働者層と開戦反対の立場の者たち。悪者は伍代ら資本家層と開戦を目 論む関東軍幹部。気になるのが、朝鮮系匪賊の徐の立場。先にも書いたが、日本軍が犯した罪によって何をやっても許されるのだという弁護の雰囲気がありあり と出ている。こうやって自虐的日本史観が根付いていくのだろうか。
 見てのとおり出演キャスト陣は超豪華だ。しかし、こんな程度の作品にここまで豪華なキャストというのも妙に寂しいものがある。また、ほどんどが屋内ロケ であり本当に金のかかっていない作品という感じ。ここまでこき下ろしたくなる作品も珍しい。


(2004/10/17)

興奮度★
沈痛度★★
爽快度★
感涙度★

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