「ルバング島の奇跡 陸軍中野学校」 評価★★☆ 陸軍中野学校の任務貫徹の掟
1974
東映 監督:佐藤純彌
出演者千葉真一、若林豪、夏八木薫、菅原文太、丹波哲郎ほか
96分 カラー
昭和49(1974)年フィリピンのルバング島から帰還した旧日本兵小野田寛朗少尉にあやかった陸軍中野学校映画。ただし、冒頭に小野田少尉の帰還風景やインタビューが挿入されていはいるものの、小野田少尉とは全く関係のないフィクションである。さらに加えて言えば、いかにもシリアス実録のようなタイトルでありながら、かなりの脚色と娯楽的要素が盛り込まれている。この作品を小野田さんがご覧になったのかどうかは知らないが、もし見ていたとしたらどう思ったのだろうか、と思わざるを得ないほどの脚色ぶりなのである。もちろん、娯楽作品ならば全く問題がないわけであるが、それにしても人間の尊厳やプライバシーという観点では、本作製作から30年の間に変化したのだなあという実感を得た。
さて、本作の監督は佐藤純彌監督で「男たちの大和(2005)」を制作した人でもある。この人の作品はどうもつかみ所がないのだが、どちらかというと大仰な設定で表現がきつい所が多いようにも思える。本作も見事に派手な設定とどぎつい表現が多く、何だか任侠映画のようだ。調べてみたら、ちょうどこの時期任侠映画を多く監督しているようで、ストップモーションを利用した死亡シーンや音楽などはまるで任侠映画そのもの(笑)。そう言う意味で、本作はシリアスではなくアクション映画として位置づければそれなりに見えてくる。
ただ、この監督は作品に必ずテーマのようなものを掲げており、それは冒頭の小野田少尉の、30年間何を考えていたかという問に対する「任務貫徹のみ」という答えがあることを理解しておく必要はある。この任務貫徹には情報部員としてたとえ終戦となっても、遊撃戦という任務を全うすべしという特殊性と、たとえ天皇の玉音放送があっても日本民族のために死すべしという暗黙の掟が背景にある。こうしたいわゆるスパイの特殊任務の悲劇なのだ。
ストーリーはかなり現実離れした無茶なものが多い。訓練過程で「現役師団長を暗殺してこい」などそれはないだろう。また、格闘教練は千葉真一の空手だし、ソビエト大使館潜入の千葉真一は忍者かよと笑える箇所も少なくない。かと思えば、米軍パイロット虐殺シーンや村人によるリンチシーンなどかなり際どい表現もあるし、登場人物の残酷で不幸な結末は決して明るい作品とは言えない。むしろ、見終わった後の不快感や絶望感は結構強い。こうした内容や表現は、果たして陸軍中野学校の実態にどれくらい沿っているのだろうか、単なる娯楽にしては印象操作の感も否めない。でも、面白いけど・・・。
任侠映画がよく「実録・・・」という表現を使っているが、本作もそれと同じと考えれば良いだろう。実録としたほうがインパクトが強いというだけのことである。「任務貫徹」という陸軍中野学校の掟に縛られた主人公と小野田少尉をそこにダブらせることで本作のテーゼに据えているのだろうが・・・・果たしてそれで良かったのか。製作当時のリアリティ(真実)性追及と現在(2006年)のそれとはかなりジェネレーションギャップがあるように感じる。マスコミニズムの変化と戦争に対する社会意識の希薄化というものが反映されているのだろうか。そんなことを強く感じた作品でもあった。
興奮度★★★
沈痛度★★★★
爽快度★★
感涙度★