戦争映画の一方的評論
 
「バトル・フォー・スターリングラード(祖国のために)」 評価★★★ ブラウ作戦に対するソ連軍の撤退劇 
THEY FOUGHT FOR THEIR LAND
1975 ソ連 監督:セルゲイ・ボンダルチュク
出演:ワーシリー・シュクシン、セルゲイ・ボンダルチュクほか  
前編82分 後編80分 カラー 

 ドイツ軍が夏季攻勢「ブラウ(青)作戦」をかけ、スターリングラードに迫ろうとする戦いをソ連側から見た映画。監督は「戦争と平和」でアカデミー賞受賞 のセルゲイ・ボンダルチェクで、戦後ソビエト映画界の草分けとも言える。ソ連の 芸術記録映画の系譜を踏みつつ、随所に独自の映像感が盛り込まれている。現代としては、いささか「臭さ」も感じるような叙情的な映像と音楽が印象的で、 コッポラの「地獄の黙示録」のような月や太陽などの自然物をモチーフにした象徴的シーンも多い。いかにもボンダルチュクらしい映像観で、はっ き り言ってしまえば無駄なシーンとも言えるのだが、ボンダルチュクだからこそ許されるナルシシズムを感じる。
 また、主人公は決して聖人でも善人でもなく、欠点も多い男だが、実にたくましい。生への執着と生き延びる執念は、まさにロシアの広大な大地そのもので、 ボンダルチュクの描くロシア人観を象徴している。もちろん、これらは社会主義体制下の階級闘争的表現手法の一つなのだが、グイグイと迫り来るインパクト は、十分にプロパガンダ的役割を果たしているとも言える。なお、ソ連映画全般に言えることだが、一応主人公はいるのだが、他の登場人物がとても多いうえに わかりにくく、ストーリーがあるような ないような中途半端な印象が強い。これが「芸術記録映画」だと言ってしまえばそれまでだが。

 この時期のソ連映画は安いフィルムを使用しているせいか、映像はやや荒れ気味。赤っぽい退色も見られるのが気になる。
 登場する兵器は、さすがソ連映画だけあって様々だ。ドイツ軍戦車はソ連戦車の改造のようだが、転輪が一段5輪なので、T-44か55あたりのシャー シを転用している様子。砲塔は前面の角落としあたりがW号戦車をイメージしている雰囲気だが、私にはちょっとわからない。この時期だと、対戦車戦用に改造されたV号J型(60口径5セン チ砲)やW号F2型(43口径7.5センチ砲)が主力なので、まあいいのかな。ソ連軍兵器は対戦車小銃PTRD-1941デグチャレフが大活躍。主人公もこ の射手で、対戦車、対爆撃機に使用している。対航空機射撃はなかなかの見物だ。
  
 ちなみに、DVDでは前編と後編に分かれている。
興奮度★★★
沈痛度★★★★
爽快度★★
感涙度★

(以下ネタバレ注意 反転でご覧ください)
 (前編)
 1942年7月、ソ連軍のスターリングラード方面 軍の第34連隊に所属する兵卒ロパーヒンらは、ドイツ軍の夏季攻勢「ブラウ(青)作戦」を受け、撤退を続けていた。元炭坑夫のロパーヒンは、女たらしで軽 薄だが、兵士としては勇敢で有能な男で、対戦車小銃PTRD-1941デグチャレフの射手である。迫り来るドイツ軍に対し、塹壕で抵抗を試みながらの撤退 で、ロパーヒンは対戦車小銃で敵爆撃機や敵戦車を破壊する武勲をあげていた。また、得意のナンパで村の女性から食料等を調達しては仲間に分け与えてもい た。
 ヴォロネジの死守、ドン川拠点の死守を目標に戦うロパーヒンらだが、ドイツ軍航空爆撃、砲撃、戦車隊の蹂躙によって次第に仲間が死んでいくのだった。
 (後編)
 ついにドン川拠点も陥落し、ロパーヒンらはドン川を渡河撤退することに。その撤退途中で小隊長の少尉が戦死。小隊の仲間だったネクラソフは爆撃で瀕死の 重傷を負い、救護所で手術を受ける。ロパーヒンらの小隊はタロフスキ村にある第34連隊司令部を目指して進むが、野営地の村で村人から戦わずに逃げてきた と誤解され、食料の提供が受けられない。そこで、ロパーヒンは村の女にモーションをかけるが失敗。その後誤解が解けて食事を与えられる。
 司令部で再編成されたロパーヒンら数少ない34連隊の生き残りは、いよいよスターリングラードの守備へ向かうのだった。 

(2005/01/26/ 2007/5/24改訂)


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