戦争映画の一方的評論
 
「ハノーバー・ストリート 哀愁の街かど 評価★★☆ 米軍パイロットと英人人妻の不倫ストーリー
HANOVER STREET
1979 アメリカ 監督:ピーター・ハイアムズ
出演者:ハリソン・フォード、レスリー・アン・ダウン、クリストファー・プラマーほか
109分 カラー


 第二次世界大戦時のイギリス。米空軍パイロットハロラン中尉とイギリス人人妻マーガレットのラブロマンスが主題であるが、後半はフランス国内でのスパイ 活動アクションという盛りだくさんの内容となっている。ジョン・バリーの甘酸っぱい音楽は大変素晴らしく胸を撞き、1979年製作とは思えないカメラワー クと映像の美しさに驚かされる。主演はハリソン・フォードに当時25歳のレスリー・アン。あらゆる点で大作の予感があるのだが、一部では酷評されるよう に、ラブストーリーとアクションのバランスが微妙で、評価が分かれる要因となっている。
 軽いノリのアメリカ人ハロランと、真面目な人妻マーガレットの不倫関係は、禁断の世界を醸し出すが、マーガレットの夫と不倫相手ハロランの友情の芽生え とともに、最終的にはマーガレットが夫のもとへ回帰していく別れの切なさに、どれだけ思い入れが出来るかが本作の評価につながっていく。そのために、アク ションシーンの出来(構成)と、男同士の友情萌芽表現の出来が重要となる。決して、ラブストーリーを台無しにするようなアクションシーンではなかったが、 個人的には納得できるものでもなかった。私としては、ドイツ軍に潜入してのスパイ活動という設定よりは、もっとストレートにリアルな前線の設定のほうが友 情の芽生えを納得できたと思うし、前半では爆撃機パイロットとしてのアクションシーンも多数あったのだから、そのまま爆撃任務の延長上でも良かったのでは ないかと思う。
 あと、この手の映画は日本人にとっては若干倫理観の違和感があるのではないだろうか。アメリカ人と、イギリス人にも差があるように、不倫の美化と背徳の 魅惑を前面に出した本作は、やっぱりアメリカ映画なのだと思う。主人公らに思い入れしきれなかったのは、そのためであろう。むしろ、日本人にとってはマー ガレットの夫の方に肩入れする人が多いのではないだろうか。
 
 さて、本作は監督が航空機ファンというだけあって、戦争・アクションシーンにはかなり力が入っている。ロンドン爆撃シーンはセットだが、燃えさかる街並 みと倒れていくロンドンバスの迫力は凄い。また、爆撃機出動シーンでは本物のB−25ミッチェルが6機用いられている。世界各地から集められ、離陸、編隊 飛行シーンは実写である。また、壮観なのは対空砲火シーンで、編隊飛行するB−25の周辺に立ちあがる砲煙は本物だったそうだ。ここまで力を注いでおきな がら、ラブロマンスというのはちょっともったいない気はするのだが。ちなみに、B−25のノーズアートは監督やプロデューサーの奥さんの名前だそうだ。ま た、史実上ではB−25がイギリスに配備されたことはない。B−25が欧州戦線で配備されたのは、北アフリカとイタリアだけだったそうだ。多分、集めやす い機体だったのか、監督の好みであったのだろう。
 戦争シーンへのこだわりは、爆撃機に止まらず、たいして登場する機会がないにも関わらず、キューベルワーゲンをはじめ、Sdkfz251、 Sdkfz231 6輪装甲車、Sdkfz247装甲車、ヘッツアー駆逐戦車の姿が見える。どうやら、これらのうちSdkfzシリーズは「遠すぎた橋(1977)」で用いら れたものの流用だそうだ。(参考:映画の中の戦車さんHP「ハノーバー・ストリート」より)。こじんまりとした映像だが、盛りだくさんの小道具 が泣かせる。ヘッツアーは2回画面に登場するが、スイス軍のG13自走砲というのだそうだ。限りなくヘッツァーなのだが、2回目に登場するときは映像の裏 焼きで、左右反転している。側面にハッチのような大きな円形物がついているのがわかる。
 アクションクライマックスの吊り橋シーンは、オプティカル合成。こういうところだけは時代を感じさせるが、全体的に良くできていると言えよう。ただし、 ドイツ軍SSが国防軍ヘルメットを被っているとか、ハリソン・フォードが一度捨てたはずのライターで藁に火を付けている、などといった細かい突っ込みも聞 かれる。まあ、こういった突っ込みがさなれるだけ良作ということなだろう。

興奮度★★★
沈痛度★★
爽快度★★★
感涙度★★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 1943年のロンドンのハノーバー・ストリート。バスを待っていたアメリカ空軍ディビッド・ハロラン中尉とイギリス人看護婦のマーガレットが偶然出会 う。ハロランの強引な誘いで二人はお茶をするが、マーガレットは次に逢う事を拒む。その帰り際にロンドン空襲が始まり、恐怖に怯えるマーガレットをハロラ ンが抱きしめ、二週間後にこの場所で逢う事を熱望する。
 ハロランは爆撃機隊(第8空軍)のパイロットとして危険な空襲任務に出る。二週間後、ハノーバー・ストリートに出向いたハロランは、マーガレットを待ち 続け、ついにマーガレットと再会する。マーガレットは人妻で子供もおり、不倫に罪の意識を感じていたが、ハロランへの魅惑に負けたのだ。二人は深く愛し合 うようになるが、次第にハロランは死への恐怖(マーガレットを失う恐怖)に駆られるようになる。
 ある出撃任務で、左エンジンに異音を感じたハロランは出撃を取りやめるが、代わりに出撃したパットマンが戦死。ハロランは臆病風に吹かれた自分を責め る。
 一方、マーガレットの夫セリンジャー大尉はイギリス軍諜報部員だった。リヨンにあるドイツ軍ゲシュタポ本部から二重スパイリストを奪取する作戦を受け持 ち、部下のウェールズ中尉に訓練を課す。しかし、中尉は自発性に欠け、任務の遂行に支障があった。さらに、平凡な自分に嫌気が差していたセリンジャー大尉 は、任務直前で自ら実行する事を決意した。妻のマーガレットに電話を入れ、飛行機に搭乗する。
 セリンジャー大尉をフランスまで送るのは、ハロラン中尉の爆撃機であった。ハロラン機がフランス上空まで来たとき、対空砲火に捕まり、ハロラン中尉とセ リンジャー大尉以外は機上で戦死、二人はパラーシュートで降下した。
 スパイとしての実務経験のないセリンジャー大尉に、ハロランは仕方なく同行。二人はリヨンのゲシュタポ本部に向かう。ドイツ軍SS大佐に変装したセリン ジャーはなんとか機密書類に近づこうとするが、金庫の種類も変わっており困難を極める。しかし、正体がばれそうになってハロランが当番兵を殺し、セリン ジャー大尉は強引にスパイリストをカメラに納める。かろうじて脱出した二人だが、ドイツ軍は執拗に追ってくるのだった。
 ようやく郊外の民家に隠れた二人だったが、ここでハロランはセリンジャー大尉がマーガレットの夫である事を知る。そして、そこの娘の父親の密告でドイツ 兵が来襲する。娘の助けもあってなんとか脱出し、対岸のレジスタンスのもとへ向かうが、吊り橋を渡る途中でセリンジャーが撃たれてしまう。さらに、切れか かった釣り橋から落下しそうになり、ハロランは助けに行く。妻によろしくと弱音を吐くセリンジャーにハロランは絶対に妻の元に帰れと励ます。マーガレット を愛するが故に、悲しませたくないのだ。セリンジャーとハロランはなんとか本国に戻る。朗報を聞いたマーガレットが病院に駆けつける。廊下でハロランと出 会い、ハロランは「やあ旧友」と声をかけ抱き合う。しかし、二人とも別れを決意していた。そしてマーガレットは夫のもとへ、ハロランは二度と会うまいと心 に誓って去っていくのだった。

(2005/11/25)

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