戦争映画の一方的評論
 
勝利への脱出」 評価★★★☆ 連合軍捕虜のサッカー競技場からの脱走劇
ESCAPE TO VICTORY
1980 アメリカ 監督:ジョン・ヒューストン
出演者:シルベスター・スタローン、マイケル・ケイン、カロル・ローレ、マックス・フォン・シドー、ペレほか
116分 カラー


 戦時捕虜の脱走映画の中でも名作の部類。とはいえ、いわゆる脱走ものでも技術的面白さや、サスペンス的なスリルを楽しむタイプではない。むしろ、サッ カーの勝負や脱走劇の爽快性を追求したアクション映画である。舞台設定や人物関係等にいささか無理のある箇所もあるが、娯楽性・爽快性アクションで十分カ バーできている。特に、サッカー映画と言っても良いほどリアルなサッカーの試合映像が素晴らしい。というのも、出演者には、あのペレ(ブラジル)をはじ め、ボビー・ムーア(英)、ウェルナー・ロス(ユーゴ・米)、オズバルド・アルディレス(アルゼンチン)、バン・ヒムスト(ベルギー)、カジミールディナ (ポーランド)、ハルパー・ソレン(ノルウェー)、ゾーレン・リンステッド(デンマーク)と言ったワールドクラスの名選手が勢揃いしているのだ。連合国軍 の寄せ集めという設定のもと、スター選手を集めて楽しんだお祭り映画という側面も窺える。それにしても、ペレのオーバーヘッドや足技のキレはさすがであ る。もちろん、他の選手も素晴らしい。駄目なのはスタローンのGK姿だけ。
 サッカーアクションに重点が置かれているだけあって、ストーリーそのものは極めて単純。連合国側捕虜のサッカー選手がどうやって集団で脱走するかという 核心部分でさえ、技術的な工夫はほとんどない。スタローンが主役級ということで、単身脱走してパリの地下レジスタンスと接触するなど、スタローンのための ストーリーもあったりするが、別になくても構わない。むしろない方がコンパクトにまとまったかもしれない。女性も出てくるが、派手な色恋沙汰がなくて良 かった。また、ドイツ軍将校役のシドーも良い味を出していて、本作に華を添えている。そう見ると、スタローンの個性はやっぱりちょっと邪魔だったような気 もする。
 パリのコロンブ球技場を模した撮影はハンガリーのブダペストだそうだ。ここは東のパリと呼ばれた街並みで、東側だったために昔のパリの雰囲気が残ってい たそうだ。
 戦闘シーンは全くなく、銃撃シーンですら冒頭に一瞬はいるだけ。まあ、本作の性格を考えればそれもやむを得ない。
 とにかく、ペレの妙技が見られるし、サッカーアクションを堪能するには良い作品である。

興奮度★★★★
沈痛度★
爽快度★★★★★
感涙度★★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 ドイツ国内の捕虜収容所。英軍のウォルドロン大佐の総指揮のもと、情報担当ローズ少佐、脱走担当シャーロック中佐以下連合軍の捕虜が収容されていた。赤 十字の監察のためにやってきたドイツ軍の広報担当シュタイネル中佐(シドー)は連合軍捕虜のサッカーコーチ、コルビー大尉(ケイン)に目をとめる。互いに 戦前はサッカー選手で対戦経験もあったのだ。シュタイネル中佐は、コルビー大尉にドイツ軍との試合を提案する。
 ウォルドロン大佐は、ドイツ軍に利用されるだけだと反対していたが、案の定、試合の話は大きくなり、全ドイツ対全連合軍捕虜の試合をパリのコロング球技 場で行うことになってしまう。
 コルビー大尉は、全収容所からめぼしい元サッカー選手を集め、さらに存在しないことになっている東欧圏の選手にも招集をかける。この試合のせいで脱走計 画を台無しにされたアメリカ兵のハッチ(スタローン)は、サッカー経験がないにも関わらず、脱走するために無理矢理にチームトレーナーとして参加する。
 ウォルドロン大佐は、試合先のパリで選手全員の脱走を目論む。そのため、ハッチにパリの地下組織メンバーとの接触を命じる。一足先に脱走したハッチは、 なんとか地下組織の協力を約束するが、サッカー選手への脱走手法の伝達方法がなかった。そこで、ハッチは再度捕まって収容所に戻る。収容所ではハッチと接 触するためにGKが腕を折り、ハッチがGKとして試合に出場することとなる。
 脱走は試合のハーフタイム時に控え室の排水管から地下下水へ脱出することになっていた。地下組織のメンバーはその準備を着々と進める。
 試合はドイツ軍のラフプレイと買収されたスイス人審判によって0−4と大きく負け越す。前半終了間際に何とか1点を返すことができた。控え室では地下組 織が脱出のてはずを整えていたが、選手達は脱出しようとしない。スポーツマンとして、最期まで戦いたいのだ。後半に入り、連合軍側は点を返しはじめ、つい に4−4の同点となる。しかし、試合終了間際にPKを与えてしまう。GKのハッチは渾身の力を振り絞ってこれを止める。集まったパリの観衆は大喜びで、グ ラウンドに駆け込み始める。選手達は群衆の波に飲み込まれながら脱走していくのだった。

(2005/12/03)

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