戦争映画の一方的評論
 
最 前線物語  評価★★★★ 死なない軍曹以下4人の分隊  
THE BIG RED ONE
1980 アメリカ 監督:アミュエル・フラー
出演:リー・マーヴィンほか  
110分 カラー

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 何度か視聴しているが、実は1回目の視聴の際には、戦争を描くにしては今ひとつピントがずれていると言う印象で、不死身の分隊というのも何やら意図的な ものが見えすぎていると、今ひとつの感想だった。しかし、何度か回数を重ねる毎に、その意図するものが見えてきて、今では傑作という評価に落ち着いた。
 それだけ、本作の心情表現とストーリー展開には隠喩的な箇所があり、深読みしなければならない場面が多いということなのだろう。

 本作は、第二次世界大戦の米歩兵第1師団(ビッグ・レッド・ワン)第16連隊第3大隊I中隊第1小隊第1分隊の兵士の話である。袖に赤い1が描かれた第 1師団は、史実上でもヨーロッパ戦の最初から最後まで激戦を戦った師団で、この映画でも北アフリカ、イタリア、フランス、ベルギー、ドイツ、チェコスロバ キアと実に多岐にわたる戦線を題材に展開していく。常に最前線に回される悲運の第1師団のめまぐるしい転戦は、初めての視聴の際にはついて行けなかった。 それ故、表現が浅く感じられたのであったが。
 しかし、次回以降の視聴により、実は淡々と最前線を渡り歩いていく兵士の描写に、兵に休む暇も考える暇も与えない、戦場の異常さを見て取ることができ た。戦場において、生と死は表裏一体であり、戦闘は機械的な作業でしかない。生も死も戦争の気まぐれに握られた運でしかない。しかし、不死身の分隊古参兵 が死なないのは、生への本能的な執着があるからこそで、それは言い換えれば戦時の狂気と紙一重なのだ。

 本作では、単なる行動、言動の中に、実に多岐な思いが隠されていることがわかる。実は、監督のフラーは、実際に北アフリカ戦線やノルマンディー戦線に従 軍した経歴がある のだ。だからこそ、戦場での心理と呼ぶべき不条理さと葛藤といったものが、見事に散りばめられている。特に、分隊長である軍曹の心理描写が最も卓越してい るのだが、それに限らず部下 の4人にも同様のことが言える。
 戦場では正しいか、正しくないかなどという判断は無意味で、、自分が生きるか死ぬかが全てという、極限の状態だ。そうい う極限の中で、ふと現れる人の優しさと生命力。緊張の極限から対極の安堵へ、思い切り振られる兵士の心。現実と理想の間で揺れ動く、兵の矛盾と葛藤が痛い ほど伝わってくる。
 平和主義者だろうが、戦争好きであろうが、極限の戦闘状態下で、人間 はどのように感じ、行動するのか。善悪にかかわらず、極限化の兵を愛して欲しい。監督はそう訴えているのではないかと感じるのだった。

 本作の訴えかける名場面をいくつか。(ネタバレ)
 イタリア、シシリー上陸戦で、少女に兜に花飾りをつけて貰った軍曹の複雑な照れ。生と死に執着することの無意味さを知る軍曹にとって、生への執着を押し 消そうとする葛藤のように見える。
 ノルマンディー上陸作戦で、機械的に突撃順を言い渡された分隊兵。順番に死ねと言い渡されたも同様の非情な仕打ちに、「戦場では自分の生は自分でコント ロールできない、おまえの命など俺の知ったことではない。」 命は全て運にまかされているのだ。
 フランス内部で、新兵が地雷を踏んで死ぬ。「戦場では新兵から死んでいく。」 不死身の古参兵は運に加えて、生への強い執着と経験が必要なのだ。
 待ち伏せしたドイツ兵を壊滅した後、フランス人女性の出産に立ち会う。ついさっき敵兵を殺した後に、新しい生の誕生に立ち会う矛盾。果たして善悪なの か、軍曹は激しいトラウマに陥る。
 ベルギーでの精神病院襲撃。何故か本物の精神病患者がドイツ兵を機関銃でなぎ倒していく。歴戦の強者も、精神病患者も紙一重なのだ。
 チェコスロバキアのユダヤ人収容所。軍曹は一人のユダヤ人少年に生の希望を見いだす。しかし、少年は軍曹の背中で息を引き取る。運や経験、それだけでも 生は維持できない、儚いものだと知らしめられる。
 ドイツ国内で軍曹はドイツ兵を刺す。直後に停戦の報が届き、軍曹は懸命にドイツ兵の介護に当たる。「(今度こそ)死なせはしない」。戦争という呪縛から 解かれ、初めて生を自分の手中に収めた軍曹の初仕事なのだ。

 何度も見ることによって、味が出てくる傑作と言える。軍曹や部下の心情に入れ込んで見ると、さらに心に響くものがある。台詞やシーンにないものまで、深 読みしながら見るのもいいだろう。

 
 登場する兵器で、アフリカ戦で出てくるロンメル軍団の戦車はM4シャーマンだった。



(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 主人公は分隊長の軍曹(マーヴィン)と4人の部下。軍曹は第一次世界大戦でも従軍 しており、その際に停戦になったのを知らずに、 敵兵を殺してしまったという殺人へのトラウマを心に持っている。しかし、いざ戦闘状態になれば敵兵は動物だと思って殺さねばならぬということも良く理解し ており、部下にもそのように指導していく。
 最初のヴィシー政府軍が守備する北アフリカ上陸作戦、内陸部でのロンメル戦車軍団の激戦で、軍曹は傷を負ってしまう。彼の分隊の部下も12人中4人しか 生き残っていない。しかし、この4人と軍曹が不死身となっていくのだ。
 次のイタリアシシリー島上陸作戦では、ドイツ軍戦車部隊に蹂躙されながらも味方駆逐艦の艦砲射撃で命をつなぐ。イタリア上陸後には敵自走砲の捜索と壊滅 作戦に出るが、そこで出会った母親の死体を運ぶ子どもと、彼らに開放された村の女どもの歓迎が印象的だ。戦争の冷血さを身に持って知る軍曹が、子どもから 鉄兜に花飾りをつけてもらった時の複雑な照れは、死と生の執着の間で揺れ動く軍曹の心があらわれているようだ。
 続いて分隊はフランス沿岸のノルマンディー上陸作戦に参加する。上陸前の船上で新兵の加わった分隊では突撃の順番を決める。早い順番は死を意味する。こ れも運なのだ。歴戦を生き残った4人はもはや神の扱いだ。上陸戦は熾烈を極める。分隊は血路を切り開くため敵陣地でパイプ爆弾を爆破させる任務につく。軍 曹は冷徹に「ナンバー1」と突撃順一番の兵士を呼ぶ。突入後すぐに銃弾に倒れる。「ナンバー2」・・・「ナンバー3」・・・「ナンバー4」次々に兵士は倒 れる。「ナンバー9」ついに歴戦の4人の一人の順番になる。途中で尻込みする兵士。それを軍曹は後ろから銃撃する。戦場では自分の生は自分でコントロール できないのだ。おまえの命など俺の知ったことではない。仲間が生きるためには誰かが死ね。そこに意義や理由などないのだ。言葉にはなっていないが、戦場に おけるセオリーとも言える軍曹の信念が読み取れるシーンだ。歴戦の勇士は爆破に成功する。
 戦場では新兵から死んでいく。生き残りの古参兵にあやかろうと水を汲んでくる新兵がいる。しかし、彼も地雷で大けがを負ってしまう。結局の所、戦争は運 命に流されながらも生への強い執着と経験がなければならないのだ。
 フランス内陸部の戦いで、分隊はドイツ軍の死んだふりの待ち伏せに合う。しかし、軍曹の持ち前の嗅覚と経験で襲撃を未然に防ぐ。そこに、身ごもったフラ ンス人農婦が通りかかり、出産の危機に陥る。軍曹は衛生兵に出産を命じる。敵兵を殺害したばかりなのに、新しい生への執着である。ここにも、軍曹の生と死 へのトラウマが見て取れる。
 分隊は続いてベルギーに入る。そこにはドイツ軍が列車砲を隠している修道院がある。しかし、実はそこは精神病院でもあった。分隊は、精神病患者を装った レジスタンスの手引きでドイツ兵を倒していく。そんな中、本物の精神病患者が手にした機関銃で「俺は正気だ!」と叫びながらドイツ兵らをなぎ倒していく。 分隊兵士が言う。「彼が本当に正気かと思った」。監督は、戦時の兵士も精神病患者も紙一重であるということを言いたかったのだろう。
 チェコスロバキアに入り、分隊はユダヤ人収容所を目にする。軍曹は、一人の衰弱した少年にチーズを当たる。少年を肩にかつぎながら、微笑み返してくる少 年に軍曹は心のゆとりを取り戻したかのようにも見える。しかし、少年は軍曹の肩の上で息絶える。戦争とは実に残酷な物だ。軍曹の心は冷えに冷え切ったこと だろう。
 そして、停戦が来る。軍曹はそれを知らずに近づいてきたドイツ兵を刺してしまう。そこに、部下から停戦の報告が。軍曹はまだ息のあるドイツ兵の救命を衛 生兵に命じるのだった。「(こんどこそ)死なせはしない」。


(2004/08/30 2008/1/20改訂)

興奮度★★★
沈痛度★★★★
爽快度★★★
感涙度★★★