戦争映画の一方的評論
 
「砂漠のライオン 評価★★★ イタリア植民地リビアの抵抗 
LION OF THE DESERT
1981 リビア・アメリカ・イギリス 監督:ムスタファ・アッカド
出演:アンソニー・クイン、オリヴァー・リードほか  
163分 カラー

 「砂漠の狐」と呼ばれたロンメル、対抗する英軍を描いた映画「砂漠の鼠」と並ぶような名称「砂漠のライオン」だが、時代は全く違う第一次世界大戦後の 1929から31年頃の話だ。1911年にイタリアがムッソリーニによるファシスト政権をとり、領土拡大のために北アフリカのリビアを植民地化しようとす るのに対し、地元ベドウィン族の反抗にあうという史実が題材である。163分と映画にしては長い部類で、内容的にも盛り上がり(抑揚)が少ないため、はっ きり言って眠くなる長さ。通常なら★2つのところだが、レアな内容と史実に沿って作られている点を加算して★3つに。

 (以下ネタバレ注意)
 第一次世界大戦と第二次世界大戦の間はヨーロッパの列強が競って植民地政策をとる時期である。アジアではフランスやイギリス、ドイツが中国、ベトナム、 インドネシア、インドを植民地化。アフリカでもフランス、イギリス、スペインらがこぞって植民地化を図っていた。イタリアもこれに負けじとリビアの植民地 化に力を入れる。
 リビアの教師で反抗勢力の指導者オマール・ムクタールの頑強な抵抗により、なかなか支配を進められないことにいらだったムッソリーニは1929年に強硬 派で知られるグラツィアーニ将軍をリビアに派遣する。
 グラツィアーニ将軍は冷徹でも知られており、遊撃戦で神出鬼没のムクタールらを閉め出すために、リビア国民を強制的に柵の中に収容するほか、毒ガスや当 時としては最新兵器の戦車や装甲車、戦闘機を投入してムクタールを攻撃する。さらには、エジプトや収容所の人民からムクタールへの支援を断ち切るために、 延々と鉄条網を設置する。
 勇猛さを馳せたムクタールらだが、ついに山岳地帯に追いつめられムクタールは捕らえられる。降伏や、懐柔策を一切断るムクタールはリビア人が見守る中 1931年処刑される。

 はっきり言って、ストーリーそのものは単純だ。似たような戦闘を何回も続け、段々と減って弱ってくるムクタールを描いている。使える手段も限られて、あ とは不退却の肉弾戦のみ。一方、イタリア軍は機関銃、戦車、装甲車、野砲、戦闘機を次第に投入し、近代戦を挑んでくる。戦力の差は開く一方で、見ている方 がつらくなってくる。しかし、絶対に服従しない、「全ては神の思し召し」というイスラム教の信念をもとに戦い抜くムクタールの精神力
だけが頼りなのだ。
 一方、イタリア側では強硬派のグラツィアーニ将軍ら冷血ばかりの中に、一人の温情派の大佐や中尉が描かれており、映画に清涼剤を与えている。占領側のイ タリアにも人間らしさがあるということを顕したかったのだろう。だが、やはりアメリカやイギリスと言った植民地支配側国家の息のかかった映画だけあって、 決して植民地政策を絶対悪とはしていないあたりがイヤな感じ。こういう映画を日本の自虐的史観の平和運動家に見せたいものだ。中国や韓国に対して日本が求 めていた要求と、ここでのイタリアのリビアに対する要求のレベルの違いをとくと見て欲しい。それだけ、植民地化政策というものは残虐なのである。

 映画に登場する兵器類は、博物館等からレプリカを作成したり、記録写真類からの復原だったりするそうで、なかなか凝っている。あまり兵器は詳しくないの だが、新兵器として登場する戦車はファイアット3000戦車(モデロ1930)ではないかと思われる。1930年製だし年代的にも合致する。ただし、砲塔 は回転式で37mm砲搭載と辞典には書いてあるが、映画中ではもっと短く細い機銃状のもの。初期段階はそんな程度だったのかも知れない。また、装甲車や装 甲トラックが多数登場するが、装甲車はどうも一致する形状のものが辞典には見あたらない。最も近いかなと思うものに、フランス製のパナールM165四輪装 甲車。前面ボンネットの形状と、前面坊盾の窓形状、車体上部の機銃砲塔が円形である点がよく似ている。こちらは1926年製なのでまあ妥当な線かな。戦闘 機は複葉機でちゃんと調べてないのでよくわかりません。

 グラツィアーニ将軍は第二次世界大戦後に軍事裁判で裁かれ、1955年に獄死したそうです。しかし、リビアでは戦後、カダフィ大佐による独裁政権が樹立 し、国際テロの温床になったというのはこれまた皮肉なことでござります。最近は穏健路線に転換しているようですが。

 アフリカの植民地映画としては「サハラに 舞う羽」「ズール戦争」があります。

(2004/09/08)

興奮度★★
沈痛度★★★
爽快度★★★
感涙度★★

 
砂漠のライオン砂漠のライオン