戦争映画の一方的評論
 
「炎628 評価★★★ 白ロシアでパルチザンに身を投じた少年が見たもの
COME AND SEE
 1985 ソビエト 監督:エレム・クリモフ
出演:アリョーシャ・クラフチェンコ、オリガ・ミローノワほか
143分 カラー

 戦争映画の世界では有名な、超重い気分にさせる残酷映画。この映画を見終わった後は、食欲がなくなるのは当然のこと、何もする気が起きな くなると言う。それもそのはず、本作はドイツ軍による白ロシア住民への大虐殺を主題テーマとしているからだ。累々とした虐殺死体や焼き殺しシーンは直視で きないほどグロい。ただし、そのグロシーンは想像したほどではなかった(もっとグロいシーンの多い映画もある)。では、何が凄いのかというと、パルチザンに身を投じる主人公の少 年の表情と演技なのだ。純真な少年の顔が様々な出来事に遭遇し、最後は辛労の余り老人のような顔になってしまうのだ。また、会話を極力用いず、顔の表情と音 楽、叙情的なシーンを多用することで、視聴者側の想像を膨らませ、大いに精神的ダメージを増幅させる。加えて、製作がソ連であるため、アメリカ映画のよう な興行性を考慮にいれておらず、実に凄惨さを最後までストレートに表現できている点だ。ドイツ軍はひどかった、赤軍は献身的だった、とさえ言い切れればそれで良しという潔さか。
 本作もソ連の伝統、「芸術的記録映画」の系譜は汲んでいる。主人公のプライベートストーリーを主流に据えながらも、事件事象を淡々と進めていく。そこ に、象徴的な映像、音響を多用することによって芸術性を高めているのだ。従って、映画としては冗長な感じは否めず、挿入されるシーンの意図が掴めないこと も多々ある。さらに、解説的な会話がほとんどないため、登場人物や歴史的背景についてもよくわからない部分も多い。それがソ連映画のらしさでもある。ヒト ラーのかかしを作って持ち歩くシーンがあるが、最後まで何のためだったのか良くわからなかった。
 登場する兵器は極めて少ない。パルチザン側で装甲車が一台。ドイツ軍側でキューベルワーゲンとトラック類。航空機ではFw189と思われる偵察機が登場するが、シルエットだけであり模型かな。激しい戦闘シーンはなし。
 炎628とは、白ロシアでドイツ軍に消滅させられた村が628あったことから来ている。史実でもドイツSS親衛隊が村を消滅させる事件が良く知られてい るが、628のうち実は赤軍の仕業であったものもありそうなものだが、もちろんそういうことは触れられていない。まあ、ソ連映画なので内容の真偽性だと か、娯楽性については最初から期待してはいけない。実にストレートに描ききる、一人の少年の視点に身を投じて、戦争の狂気を肌身で感じることをお勧めする 映画である。
 
興奮度★★★
沈痛度★★★★★
爽快度★★
感涙度★


(以下 あらすじ ネタバレ注意)

 1943年ドイツ占領下の白ロシア。少年フリョーラは、砂山に埋まった死体から銃を掘り出す。銃があればパルチザンに参加できるからだ。パルチザンにな ることに反対の母親と幼い双子の妹を置いて、フリョーラは山中に潜むパルチザン(共産党指導のゲリラ)に合流する。そこで、ドイツ兵の監禁から救い出され た娘グラーシャに出会う。
 パルチザンはドイツ軍との対決のため出動する。しかし、新入りで子供のフリョーラは留守番として残される。そこにドイツ軍の砲撃があり、さらに落下傘部 隊が攻めてくる。フリョーラとグラーシャは、何とかドイツ兵の目から逃れることができたが、戻る場所もなく、一時フリョーラの村に身を隠すことにする。
 フリョーラの家に着くが、母親も誰もいない。家の外に探しに行くが、グラーシャは小屋の裏で山になっている死体を発見する。母親らの死を認めないフ リョーラは、気が違ったように沼地を渡って島に行く。そこには、命からがら逃げ出した村人らがいた。そして、ガソリンをかけられ瀕死の老人が言った。「だ から銃なんか掘るなと言ったんだ・・」フリョーラは母親の死が、自分の犯した過ちだと苦悩する。
 村人達とパルチザンの食料を得るため、ルページ、フリョーラら4人が食料庫へ出向く。しかし、そこもすでにドイツ軍が支配していた。さらに、食料庫へ潜 入中に2人が地雷で戦死する。残ったルページ、フリョーラらはペレホード村で牛を一頭奪うが、ドイツ兵に見つかり銃撃を受ける。ルページは即死し、牛も死 んでしまう。フリョーラは濃霧の中出会った農夫に助けられ、家にかくまわれることに。
 しかし、ペレホード村にもドイツ軍の手が入る。村民全員が集められ、一軒の小屋に押し込まれる。子供を捨てて窓から出てこい、というドイツ兵にフリョー ラはふらふらと出る。その後、子供を連れた母親も出てくるが、子供は中に投げ入れられてしまう。そして、小屋に手榴弾が投げ込まれ、火がつけられる。村人 は皆焼き殺され、家々も全て焼き尽くされる。呆然と立ちつくすフリョーラの顔は老人のように老け込んでいた。
 隊列をなして去っていくドイツ軍だったが、途中でパルチザンの攻撃に会う。捕虜となった大佐らドイツ兵は命乞いをするが、全員がパルチザンに銃殺される。フリョーラは無心にヒトラーの肖像画に銃を撃ち込む。そして、再びパルチザンの隊列に加わるのであった。

(2005/05/29)

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