「レッド・アフガン」
評価★★★★ 映像の美しさと衝撃度は高い
THE BEAST OF WAR
1988
アメリカ 監督:ケヴィン・レイノルズ
出演:ジェイソン・パトリック、スティーブン・バウ
アー、ジョージ・ズンザほか
106分 カラー
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1979年から1989年のソヴィエト軍によるアフガニスタン侵攻を背景に、非道なソヴィエト軍戦車部隊とアフガニスタンゲリラの間の戦闘を描いたサス
ペンス調アクションドラマ。ソヴィエトとアフガニスタンの戦争を、何故かアメリカが製作するという若干不可思議な感じもするが、実は隠れた名作とされ、実
質戦車一台だけでリアルな戦争映画を作り上げた低予算映画との評判だ。マストロシモンの傑作戯曲を映画化したものだそうで、内容的には復讐が主題となって
おり、イスラム教の教義などシリアスな展開も見られる
が、アメリカ製作なので、その辺りは真面目に見てはいけない。むしろ、単にアクション映画として楽しむのが良いだろう。監督のケヴィン・レイノルズは、第
三次世界大戦としてアメリカにソ連が攻めてくる言う映画「
若き勇者たち」の原作・脚本家でもある。ソ連に恨みであるのか(笑)。
先にシリアスな展開には目をつぶれ、と書いたが、宗教的な命題について余り深入りさえしなければ、サスペンス的展開も楽しめる。この監督、人の心の動き
を表現するのが比較的うまいと思われ、復讐に燃えるアフガニスタンゲリラや女性たちの心情や、狂気のソヴィエト軍戦車隊長、対立する部下の戦車兵コペ
チェンコらの心情変化がわかりやすく描いてある。その契機を何故?と考えさえしなければ、刻々と変わるサスペンス展開が楽しめる。ストーリー展開も難しく
な
く比較的単純で、主役はった一台の戦車だけというのがわかりやすい。
アフガニスタンの村を襲撃したソヴィエト軍戦車を追ってゲリラが追撃する。一台の戦車対ゲリラ。復讐?、裏切り?、宗教的大義?、そしてソヴィエト軍の
戦闘の意味とは。余り難しく考えることなく、善玉、悪玉を自分の中で勝手に組み立てて楽しむといいだろう。なお、本作のキーワードは「ナナワテ」。困った
ときに使うといい?。
本作の評価の高いところは、何と言っても細部にまで描かれた戦車にあるだろう。たった一台の戦車なのだが、戦車内部の映像、上下にあるハッチからの出入
り、武器の使用など細部にわたって映像化されている。これはミリタリー好きにはたまらないもので、砂埃をあげて疾走する戦車が格好良い。本作はイスラエル
ロケということで、この戦車はソ連製T-55ベースで、イスラエルが中東戦争で鹵獲したものをNATO標準のL7
105mm砲に換装したチラン5(Tiran-5)戦車と思われる。冒頭シーンでは3台が登場する。アメリカ人の元兵士らが操車しているとかで、イスラエ
ル軍から借用?したものを好き勝手に操っているようだ(笑)。ヘリも登場するが、これはフランス製 SA321シュペル・フルロンのイスラエル軍仕様 Aerospatiale SA321K Tsirahのようだ。
また、この監督はスケールの大きい映像を撮るのが上手。広大でありながら険しい渓谷を有するアフガニスタンの雰囲気を上手に撮しており、そこに疾走する
戦車が非常に際だって見えるのだ。
ただ、この映画結構エグい衝撃的シーンが出てくる。つま先を立たせて戦車でひき殺したり、一瞬だが挽肉のような轢死現場が出てくる。おえっ、気持ちわ
りー。15禁がついてもおかしくないと思われ、そういうシーンが苦手な人はやめたほうがいいだろう。何故あんなにエグい映像を入れる必要があったのか。
役者陣もなかなか個性的で良かった。戦車隊長(准尉?)役のジョージ・ズンザは、寄り目がちな顔つきがいかにも狂人っぽくて印象的。主役の操縦士コベ
チェンコ役のジェーソン・パトリックは、唯一人間的でもあり、狂気でもある人物像を好演した。
アクション映画としてはかなり面白い部類。ただし、政治的とか、宗教的とかそういったメッセージ的なものはないと思った方がいい。
興奮度★★★★
沈痛度★★★★
爽快度★★★
感涙度★
(以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい)
アフガニスタンの山間の部落に突然ソ連軍の
戦車部隊が強襲する。ソ連軍は無差別に建物を破壊し、非道にも毒ガスを用いて村人を殺害する。部落にいたゲリラたちも反撃を試みるが、無惨にも捕らえら
れ、非情な戦車隊長ダスカル准尉の命令で轢き殺される。
攻撃を終了したソ連軍戦車だが、戦車隊長ダ
スカル准尉の乗る一台が行き止まりの峡谷へ迷い込んでしまう。それを目撃した盗賊団のリーダー、ムスタファはソヴィエト軍戦車を攻撃することを思いつく。
生き残った村の首長(カーン)の息子タジュは、悲惨な状況に動揺するが、伯父から父である首長亡き後はおまえがカーンになるのだと諭される。そして、協力
を求めにやってきた対立していたムスタファらと一時休戦し、共にソヴィエト軍戦車を破壊することを決意する。
戦車には車長のダスカル准尉のほか、操縦士のコベチェンコ、砲手のカミンスキー、ゴリコフ、アフガニスタン人のサーマドの5名が乗っている。
RPGを
持ったタジュらは戦車をみつけて攻撃するが失敗。ダスカルの戦車は逃げていくが、その轍を追って執拗に追いかけていく。ダスカルは毒液をオアシスに撒い
て、水を飲んだゲリラが一人死ぬ。また、夜間襲撃から逃げたダスカルらは夜間にレーダーで包囲されたこ
とを知り、火炎放射器と銃撃で周囲を掃射するが、それは鹿の群れだった。
車長のダスカル准尉は8歳の時からスターリ
ングラードで戦ったという強者だが、それゆえに軍に固執するあまり人格が歪んでしまっている。アフガニスタン出身の を目の敵にし、スパイだと決めつけて
射殺してしまう。さらに、無謀なダスカルに反抗する操縦士コベチェンコも岩に縛り付け、頭に手榴弾を仕掛けて放置する。カミンスキーはダスカルに忠実だ
が、ゴリコフは恐怖の余り従うしかなった。縛り付けられたコペチェンコは、復讐に燃えるアフガニスタンの女達に発見され、投石によって殺されかけるが、ア
フガニスタン出身の兵士から教えて貰ったイスラムの教義の一つである、許しを請う言葉「ナナクテ」を言うことによって助けられる。コペチェンコはゲリラ側
について、RPGで戦車を撃破することを決心する。
一方、戦車は燃料も食料も切れ始め、完全に
道に迷っていた。そこに偶然ソヴィエト軍ヘリが飛来する。ヘリで帰還しようとするカミンスキーらだったが、ダ
スカルは補給後戦車に戻れと命じる。殺されかねないため、二人は再び戦車に搭乗して帰路を探すが、そこは袋小路だった。途中で毒入り水を飲んで死んだヘリ
クルーを見つける。
袋の鼠となった戦車にコベチェンコやタジュ
らが攻撃を仕掛ける。峡谷に逃げる戦車だったが、ついに追いつめられ、コベチェンコのRPG攻撃を受ける。だが、砲身に当たり中の3人は助かる。だが、そ
の時崖上で爆発が起き、戦車は岩の直撃を受け動けなくなる。女達が崖を破壊したのだ。そして、コベチェンコは漏れた燃料に火を付ける。
中からようやくダスカルら3名が出てきて、
捕虜となる。殺そうとするゲリラ達だが、コベチェンコは蓋tび「ナナクテ」を懇願する。タジュは3人を放逐するが、怒り狂った女達がダスカルを撲殺してし
まう。
共に帰路に着こうとしたとき、上空にソヴィ
エト軍ヘリが。コベチェンコはヘリにつり上げられて帰っていくのだった。
(2004/05/28 2009/2/7大幅修正)
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