戦争映画の一方的評論
 
「戦争と青春 評価☆ 東京大空襲を調べる現代女子高校生 
1991 松竹(戦争と青春制作委員会) 監督:今井正
出演:工藤夕貴、樹木希林、奈良岡朋子ほか  
110分 カラー

 若き工藤夕貴がかわいらしいな、と思いながら視聴したが、あまりに恣意的なこじつけや作為的な事象が多すぎて辟易とした。反戦映画ならば、きちんと史実 に基づいて説得力ある内容にすればいいものを、無知な女子高生が段々と厭戦的気持ちになっていくという、情に訴える、内容のほとんどない映画。視聴者をバ カにするかのような、無知な女子高生との質問のやりとりによって、歴史の一方的な解釈を押しつける手法はいただけない。そういうものは視聴者が判断すべき ものではなかろうか。従って、妙に説明調でアジ的な会話が多く、物語としての流れが思い切り寸断されてしまう。これまで社会派の作品を作り続けてきた今井 監督も焼きがまわったかというような駄作。
 中でも、工藤夕貴が「なんで米軍は一般市民まで爆撃したの」という質問に、東京大空襲を記録する会?のような代表者が「日中戦争で日本軍が先に無差別爆 撃したからだということを忘れてはいけないよ」などとあまりにトンチンカンな答えには唖然とした。ほとんど、某党かそのシンパのプロパガンダ映画としか思 えない。反戦映画にすらならないチープな映画に出演させられた役者が余りに滑稽で哀れでさえある。ブルーリボン賞の主演女優賞を工藤夕貴が取ったらしい が、こんな作品でマジですかという感じ。日本映画最低迷期ならではのことか。

(以下ネタバレ注意)
 高校生のゆかり(工藤夕貴)は、学校の課題で戦争体験をまとめることに。早速、おばさんの咲子(奈良岡)に聞こうとするが、叔母は空襲で我が子と生き別 れになってから痴呆ぎみになっている。そこで、叔母の弟である父親に聞くが、怒って話してくれない。どうやら暗い過去があるようだ。
 ようやく、父親が語ってくれたところによると、叔母は女子学生であった頃に、弟(父親)の学校の先生で医者の息子の風見と恋に落ちる。しかし、召集令状 の来た風見は徴兵を拒否し、北海道の炭坑に朝鮮人に化けて逃亡。そこで、憲兵に反抗した罪で死亡する。叔母は風見との別れ際の行為で子供を身ごもってお り、産むがそのために弟らは非国民扱いを受ける。
 東京空襲がひどくなり、3月10日に大空襲がある。父親に引率されて逃げた叔母とその子蛍子と弟(父親)だが、途中で離ればなれになってしまい、その際 に蛍子が爆風で飛ばされていなくなってしまう。その後、探し続けるが結局蛍子は見つからなかった、ということだ。
 ゆかりは、さらに東京大空襲を記録する会?の早瀬のところへ行き、空襲の話を聴く。後日、早瀬から電話があり、韓国人に引き取られた女性の境遇が蛍子と 似ており、日本に来たいと言っているとのことだった。しかし、その直前に叔母は死亡していた。来日した韓国女性は叔母の墓参りをするが、結局蛍子と関連づ ける証拠はなかった。

 なーんだ、結局韓国人女性と蛍子は関係ないのであった。なんだか、つまんないエンドでした。どうせなら、同一人物にしてしまえばいいのに。そもそも、徴 兵拒否した風見だが、とんでもなく無責任な男だ。子供は孕ませるわ、朝鮮人に化けるわ、家族に迷惑をかけるわ、男として骨太の所皆無。反戦家として描いた つもりだろうけど、説得力ゼロ。
 東京大空襲を記録する会とやらの早瀬だが、原作者の早乙女氏そのものじゃないのかな。はっきり言って、この映画に必要ない登場人物だと思う。すごく、説 教臭い映画にしてしまっている。それに、冒頭でも書いたけど、もっと説得力のある歴史観で構成しないと後世に笑われること必至。

 本当に、この時期の日本映画って駄目だねえ。こんな説教臭い映画を反戦映画の代表作だなどという輩の気が知れない。ちなみに今井監督の戦争映画には「海軍特別年少兵」「ひ めゆりの塔」「あゝ声なき友」「沼津兵学校」などがあるが、どれも映像と構成に難がある。要は監督としての技術に乏しいと言うことか。

(2004/10/27)

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