戦争映画の一方的評論
 
「鷲の指輪 評価★★ ドイツ、ソ連に蹂躙された自由ポーランド
Pierschonek z Orem w Koronie
1992 ポーランド、イギリス、フランス、ドイツ 監督:アンジェイ・ワイダ
出演:ラファウ・クルリコフス、シェザルイ・パズーラほか  
104分 カラー
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 ポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督作品。監督は、旧ソ連体制下のポーランド時代から製作を始め、「地下水道('57) 」では暗く陰湿なスターリニズムの色濃い作品を製作している。その後、政治的な作品の製作が規制された中、90年代に入り自由国家となってから作られたのがこの作品である。この後に制作された「聖週間 ('95)」もそうであるが、ドイツは無論のこと、旧体制のソ連、そして売国ポーランド国民までを痛烈に描いた作品となっている。レジスタンス参加の経験もある監督自身の体験から来る、真実みと緊迫感はアンジェイ・ワイダならではである。
 しかし、彼の作品全般に言えるのは、陰のある心の迷いと苦悩を主題に描いていくため、他の登場人物との関係や時代や世相背景がわかりにくいということ。登場人物にどっぷりと浸かっていかないと、ストーリーが全然見えてこないのである。
 本作も特に難しい作りとなっており、ワルシャワ蜂起したポーランドレジスタンスが主人公となっているが、蜂起後の人間関係、彼の立場がわかりにくい。ワルシャワ蜂起の失敗、ドイツから解放、新しい支配者ソ連、とめまぐるしく変わる世相を追うだけでも大変だが、彼の行動そのものの蓋然性を見つけることも至難の業である。多分、ポーランド人ならばすんなりと入っていけるのだろうが。

 ストーリーは、ドロドロと陰湿なのは当然のことで、相変わらず悲惨な結末で終わらせる監督である。本当に救いようがない(苦笑)。しかも、どこのシーンでも言葉足らずで終わるため、主人公のレジスタンス マルチンの心情は視聴者が察しなければならない。映画の最後に、恋人のヴィシカが銃声を聞き、戻ってきてそっとマルチンの背をなでるシーンがそれを象徴している。時代の波に翻弄され、最後は四面楚歌の状態で絶望的となったマルチン。ヴィシカが「それでもあなたはやるべきことをやったのよ」とでも言ってるかのようだ。
 はっきり言って、1回の視聴では難しすぎる。途中のソヴィエト軍兵士とポーランド共産党シンパの駆け引きは、まるでわからなかった。彼らが何をしているのか、彼らに同行する人々が何者なのか。
 本作は、何度も見直してじっくりと味わう作品なのかも知れない。多分、会話の一つ一つをじっくりと解釈すると新しい視点や感情がわいてくるものと思われる。鬱屈とした人物を描かせたらこの監督の右に出る者はいないだろう。

 登場する兵器類は少ない。冒頭の蜂起シーンでドイツ軍戦車(ティーガー似)が出てくるが、妙に砲塔の高さが大きかったりする。ただ、この戦車、国内軍兵士をキャタピラで踏んづけていくシーンがあり壮絶で痛そう。この他、ソ連軍戦車もちょっとだけ登場する。

興奮度★★
沈痛度★★★★
爽快度★
感涙度★★

(以下ネタバレ注意)
 1944年8月1日、ドイツ支配下のポーランド、ワルシャワでレジスタンス「国内軍」の蜂起が始まった。国内軍兵士のマルチンらは一斉に蜂起するものの、頼みにしていたソ連軍の支援が得られず63日間の戦いの末敗北。マルチンも負傷してドイツ軍に収容されたが、恋人ヴィシカはドイツ兵によって性の慰みとして連行されてしまう。その時に、ヴィシカから託されたのが「鷲の指輪」だった。
 マルチンは負傷の治療中に、上官であるシタイネルト少佐に会い、対ソ連地下組織「ニェ機関」の存在を知る。モスクワ(ソ連)と戦うか、何もせずにソ連支配に身をまかせるか、赤の仮面をかぶる(共産主義者のふり)か、選択を迫られる。1945年になり、完全にポーランドは解放され、代わりに解放者ソ連が支配するようになる。マルチンは身を隠している元部下達に「ニェ機関」への参加を呼びかけながら、彼らの身の安全を確保するために、共産党に職を求めた。ソ連に対抗するが、赤の仮面もかぶるというつもりだ。蜂起の際に知り合った共産シンパのシリバがいる共産党地区委員会の運転手を務めながら、密かに「ニェ機関」と接触をする。しかし、マルチンに疑いを持っているソ連国家保安局のコショール中尉は、様々な罠をマルチンに投げかけてくる。
 シベリアに護送される「元国内軍」兵士が決してくじけていないのを見て、マルチンは涙する。自分が置かれている立場を考えると情けない気持ちになったのだろう。
 ヤルタ会談が終わり、ポーランドはソ連の管轄になることが決定した。もはや連合軍の助けを得られなくなった「ニェ機関」にコショール中尉は取引きを持ちかける。マルチンの手引きでニェ機関の大佐、少佐が取引きに出頭するが、罠でソ連軍に逮捕されてしまう。コショール中尉は姿を消し、仲間達から裏切り者ではないかと疑われたあげく、アジトで恋人のヴィシカと再会したが、もはや彼女と修復は無理だとわかったマルチンは頭を銃で撃ち抜いて自殺する。


(2004/10/15)